16話:迷子案内
不定期更新にシフトしてますね。
スイマセンm(_ _)m
目印の存在しない大地。それはこの世界ではどの大地にも当てはまるものだったが、一面真っ赤な砂の世界と言えばこの砂漠しかない。
正しく言い換えると、ないかもしれない。
この世界の大きさはいまだに把握しきれておらず、それゆえに今回のような『第二の鍵』や『神殿』や『第二のキリカ』の存在がひょっこりと顔を出したりするのだ。
別に文句はなかった。目的が新たに与えられたのだから文句は言ってはいけないのだ。
しかし、自分には室長の命令より大切なことがあった。それでも従わざるを得ない。そうしないとその大切なことが果たせなくなるからだ。所詮、自分一人ではただの弱い一般兵にすぎないのだ。
集団でこそ大きな力になるような者ばかりが集まっている廻折研究室では目的は一つしか掲げられない。
仕方のないことだ。
自分は、ただこの目的を達成させて次の目的にシフトさせなければならない。
そのために動いているのだ。
美流を思うには仕方ないことだと自分に言い聞かせて。
「れいかおねえさん………、どうしたの?」
「え?」
「なんか、こわいかおしてたよ? どこかいたいの?」
「ううん、どこも痛くないよ。 身体は平気だから」
考え事が顔に出ていたらしい。ツーフェに余計な心配をかけてしまっていた。
ざくざくと砂を踏みしめるこの感触はもう飽きるほど味わっていた。それでも目印となる村はおろか物すら発見できない。
この子はどれだけ歩いてきたのだろう。そんな疑問が頭をよぎる。
迷子とは言ってもせいぜい子供の体力だ。そんなに遠くまで来ているとは思わないだろう。
だがしかし、現実はこうだ。ずいぶん歩いたのにも関わらず風景は一向に変わる気配を見せない。
「ツーフェ君。君はどれくらい歩いてきたの?」
「うーん………。わからない。 おねぇちゃんといっしょにすなすなのところにきて、あそんでたらおねぇちゃんがいなくなっちゃって……」
姉を恋しく思ったせいかだんだんと涙目になるツーフェ。 子供をあやすのは得意ではないので泣くのは勘弁してほしかったのだが、自分の思いとは裏腹に少年は強かった。
目に涙を溜めたまま泣かない。
「泣かないの、偉いね。 おねぇちゃんとは砂漠で別れたの?」
「うん、うん………」
「偉いね」
もう一度そう言って少年の頭を撫でる。さらさらとした髪は手触りがよかった。しっかりとこの世界でもお風呂に入っているのだろう。
そう考えれば、そこらの村や集落ではありえなことが分かる。
それなりに大きな町。しかし、そんなものはこの世界でリツカ帝国以外に私は知らない。
それとも、知らないだけで存在するのだろうか。
しかし、少年は姉と一緒に砂漠まで来たという。それは町から出て歩いてなのか。それとも能力を使ってなのか。
分からない。この世界では迷子の案内も難易度が違いすぎる。
現実と同じ通りにはならないのだ。
ただ、もうひとつ嫌な見解もある。
現実世界で砂漠に少年がいたとして、そこにたまたま魔境があってこちらの世界に入り込んでしまったとか。
確率的にはほぼ0に等しい。しかし、この世界でも現実世界でも言うように、0パーセントと100パーセントは存在しない。だから、あり得ないわけではない。
「おねえちゃんと来た砂漠と、ここの砂漠って同じ色だった?」
だから質問をしてみる。思えば、最初から何故質問しなかったのか。
「うん、あかいすなだったよ」
「じゃあ、おねぇちゃんってどんな格好をしてた?」
「んー? かっこう?」
「えっと、……髪型とか、どうだった?」
「ながいの! それであかくてきれいなの!」
赤い髪の色。人間でも染めればそれなりに赤くはなるが、綺麗な赤となると難しいのではないだろうか。
血無し、である可能性が高い。だからといってどうなるわけでもないが、赤い髪となると分かりやすい。
「でも、赤い砂の砂漠で赤い髪の女の人か……」
特に関連は無いが、余計なことを考えてしまう。保護色で見つかりにくいのでは? とかそういうことだ。
余裕が出てきたせいだろうか、普段なら思いつきもしないことを考えてしまっていた。
まぁ、歩いていればなんとかなるだろう。そんな軽い気持ちでいた。
そう、探すべき対象がどんな人物かも知らずに。
急いで駆けつけた四畳半の部屋にはすでに全員が集まっていて、いつも通り鳥輪は忙しなく手を動かしていた。朝陽はその行動を見て少しげんなりとし、倶梨伽羅に目をやった。彼も変わらず目を瞑って世界を見ているらしい。唯一まともに話の出来そうな莉瑚ちゃんも俯いて元気がないように見える。
「はぁ……。どうしてこの集団はこうなんだろうね。 呼び出されたかと思ったらこんな調子で! 」
ひとしきり叫んでみるが誰も反応は示さない。さて、どうしようか。
人でも血無しでもない彼、または彼女、を探すが姿は見えない。いや、そこに存在しているのかもしれないが、私には見えない。もしくは、本当にここにはいないのか。
「おーい、ムウはいないの? 見えないんだけど」
返事は返ってこない。たぶん、いない。
「で、さ。 呼び出した用件は?」
少しまともに訊くと、倶梨伽羅が目を開いてこちらを向いた。
「分かってはいたことだが、廻折研究室の室長が生きていた」
「えー? それはこの前聞いたよ。 他の発見があったんじゃないの?」
「そう、それなんだが……。赫逢騎士領団が復活している」
「は?」
そんな言葉しか出てこなかった。
確か赫逢騎士領団はキリカ………愛無によって壊滅させられたはずだった。それが生き返った?
どれだけの能力なんだそれは。 死んだものを蘇らせるなんて馬鹿げた力があっていいはずがない。
「ほんとに? 一回は死んだんだよね?」
「そうだ。死んで、生き返った、それも何者かの能力によって、だ。 おそらく愛無やムウレベルの存在の介入がある。人ではそこまで出来るかどうか………分からないからな」
おそらく倶梨伽羅は今、莉瑚ちゃんの能力のことや魔眼について考えていたのだろう。もしかしたら、と。
しかし、流石に約10人という人数を一度に生き返らせるというのは莉瑚ちゃんでも無理だ。
ムウが言っていたことだが、『自分のような存在』が他にもいるらしい。
それは愛無の件で分かったのだが……まだ、いるのか。
他にも、いるのか。
あんな化物じみた存在が、いるのか。
『や、みんな来ていたんだね。 朝陽あたりはすっぽかすかと思っていたよ』
不意に後ろから声がして悲鳴が喉まで出かかった。
「ムウ……。いつの間に居たの」
『や、さっきここにきたんだよ。 安心してくれていいよ、化物じみた存在だなんて思われても僕は俺は私はきっと傷ついたりしないから』
「……盗み聞きよりたちが悪いね」
『や、ごめん。 別に聞きたかったわけじゃないんだけどね。聞こえてきたんだから仕方がないよね』
「普通の人には聞こえないけどね」
『や、だって、僕は俺は私は普通じゃないし』
知ってるけど、とは言わなかった。
黒い靄のような物がゆらゆら揺れて、人の形を作る。
棒人間並みに簡易的に作られたそれはものすごくシュールだった。
しかし、口が出来るとシュールというよりホラーになってしまった。
『あ、今ホラーだって思ったでしょ。人型になるのは無駄な体力使うんだよね』
こいつはいつまで思考を読み続けるのだろうか。
そんな事を思いながら彼、彼女の変形を見守っていると、しっかりとした人に変形していった。
中性的な男の子になり、服装はよく分からない文字がプリントされた大きめのTシャツに落ちついていた。下は短パンである。
「今日は男の気分なんだ?」
『や、正直よく分からないけどそうなのかもしれない』
「そう言えば、赫逢騎士領団が復活したらしいけど」
『や、その話はもう知ってるよ。おおかたリム辺りが遊んでいるんじゃないかな。いや、遊んでいるというには少し大掛かりすぎるかな、何かしようとしているんだろうね』
「リム?」
『や、別に僕の俺の私の独り言だよ。でも、頭の隅には置いておいた方がいいかもね。面白くなりそうだからね』
「………」
ムウは何かを知っている。しかし、本質のところその内容はいつも決まって教えてくれない。
彼の、彼女の落したヒントを探りつつ世界を見ているのが今の私たちの現状だった。
ムウがこの集団を立ち上げたわけではない。この集団を立ち上げたのは私と鳥輪と倶梨伽羅だ。後になってムウが入り、莉瑚ちゃんが入り、秘密裏という集団が完成したのだ。
私と鳥輪と倶梨伽羅の目的はこの世界を観察し、調べること。現代社会に似た何かを感じとった私たちが決めた研究内容のようなものだった。莉瑚ちゃんは最初は保護、後に手を貸してくれることとなった。この件はまた今度話すことにしよう。しかし、ムウの加入理由だけが分からない。謎に包まれていた。
彼が、彼女が言うには『君たちのしていることに興味がある』とのことだったが、実際手を貸してくれたことはほとんどない。気まぐれにヒントを落とし、ソレを標の一つとして私たちは観察をする。
私はほぼ間違いなくムウは何かを知っていると思っている。いや、何かを掴んでいると言うべきなのだろうか。
だが、彼に、彼女に聞いてもはぐらかされるばかりで取り合ってもくれない。
存在が謎だと言うのにここの集団に入れておくのにはわけがある。
もちろん、ムウの言うヒントも重要だが、何よりも彼の、彼女の存在を知りたいからである。
今のところそう思っているのはおそらく私だけだろうが。
『や、莉瑚。なんだか元気がないね、どうしたんだい』
いつの間にか私の元を離れていたムウは、莉瑚ちゃんに近寄って話しかけていた。
私はそれを横眼で眺めつつ、倶梨伽羅に今の状況を訊いた。
「ああ、お前の弟がまた来ているぞ」
「私はそんな事を報告してとは言ってないでしょ」
「そうか。だが、群青の雌鳥は優秀だな。いつの間にやら情報が回っている」
「ふうん」
「ん、そうだな……ハーフ。ハーフが、いるな」
「ハーフ? そんなのこの世界にもいたんだ」
「驚かないんだな」
「まあねー。そんなの現実世界にはいくらでもいるんだし」
「そうだな。実にお前らしい考え方だ。 だが、能力面では多少優遇され過ぎるようだ」
「まさかの能力二つ持ち?」
「……よく分かるな。お前は預言者か?」
「いやいや、こういうのは勘だよ。 っていうか、ゲームじゃセオリーでしょ?」
朝陽は歯を出して笑った。彼女がこの世界をどのように見ているかが少し垣間見えた瞬間だった。




