15話:数多発言
そしてこの新キャラの登場率である。
近々キャラクタープロフィールを更新します…?
俺と怜那は灯花さんの広げた移動用魔方陣によって、いつもの群青の雌鳥のアジトの一つに連れてこられていた。
灯花さんの部屋らしき場所に通されると、そこにはすでに狩暗颯鬼が高価そうなソファーに腰掛けていた。
いつものように不気味な笑みを浮かべて俺と怜那を挑発してくる。俺はそれを何とか受け流すが、怜那は敏感に反応してしまって、ぐるると唸っている。
灯花さんは上に羽織っていたコートを壁にかけると、自らのデスクの上に座った。
正直、行儀が悪い。
「ささ、れいやんもれーちゃんも座って座って。 互いに色々と話すことがありそうだからね」
俺達を席に促し、灯花さんはデスクの上から退去して珈琲メーカーの前に立った。
「飲む? れいやん、れーちゃん、颯鬼ん」
順番に俺達のことを見渡して、灯花さんは珈琲メーカーを弄りはじめる。怜那はすぐにカプチーノ! と声を上げ、それから狩倉は普通でいい、と言った。俺もそれに従った。
そんなことよりもあのハーフの行く末が気になっているのだ。
しかし、灯花さんは俺のその考えを見透かしたようにこちらを向いて笑って言った。
「大丈夫だよ、れいやん。 まつりんは口ではああ言ってるけどそんな酷いことはしないと思うよ?」
「いや、その……でも」
「まつりんがあんな態度を取るのはね、あの後ろについていた二人と私以外の人物の前だけなの。理由は簡単で、群青の雌鳥を統括する者としては部下にある程度の威厳みたいなものを示さないといけないと思ってるんだよ。 それに、優しい統率者なんて他の集団からしてみれば格好の的だからね、そりゃあんな風にもなるよ。あ、今のは別にリツカ帝国をバカにしたわけじゃないからね?」
コトリ、と目の前にカップが差し出される。
すぐさま怜那は砂糖を三袋開けて投入し、ミルクを入れてかき混ぜる。
狩倉は何も言わずそのまま飲んだので、俺もそうすることにした。
苦い、がその風味の中に少しだけ甘味がある気がする。詳しいことは分からないが、おそらく良いものなのだろう。うちでは珈琲は専らインスタントだから舌が判断してくれない。
「で、用件は何だ。 俺達は集められたんだろ?」
カップから口を離した狩倉はそう言った。
「まぁ、慌てないで。順に話そう。 ええと、まずは………前にまつりんが放送で言った不明の敵ってやつなんだけど、れいやんとれーちゃんも戦ったあの者たちなんだよね」
あの者たち。少年が言っていた『僕たち』のことだろう。
おそらくは人間と血無しのハーフの集団、総人数は分からないが相手は能力を二つ持つ。名を付けるとすれば多重能力者だ。
「厄介なのが能力を二つ持つってところかな。 普通の戦いだと、いかに相手の能力の制限を見破れるかって所が勝利のカギになるんだけど、それが二つ、しかも交互に使われるとなると二つの能力の境界線が分からなくって混乱しちゃうよね」
「確かに。こちらは能力一つを駆使して戦うのに対して、あちらは二つも手があるわけだ」
狩倉は面白くないような顔をしながらそう納得した。
「本音を言うと戦いたくないよね。『生まれ堕ちた罪』とか言うらしいね」
「それは俺も聞きました。 なんでも人間の血無しのハーフだとか」
「うーん、絶対にあり得ないと思ったんだけどなぁ……。異種族同士の性交なんて」
「ブバボッ!」
灯花さんの言葉に怜那が過剰に反応し、口に含んでいた珈琲がぶちまけられた。
もちろん狩倉は退避して被害からは免れていた。
俺も気付けばソファーから離れていて、怜那の攻撃範囲内にはいなかった。
「と、灯花さん! もっとオブラートに包んだ言い方をしてくださいよ!」
「いや、これ以上になんて言ったらいいか分からなくてね。それにしてもれーちゃん、ひゃっひゃっひゃっ! うぶだねぇ!」
灯花さんは腹を抱えて笑いだし、怜那は赤く染まってトマトのようになっていた。
「おい、談笑会じゃねぇんだぞ。 くだらなくって付き合ってらんねぇぞ!」
「まーまー、颯鬼ん。 そんなにイライラしないで、君からはなにか情報はないのかな?」
言われると狩倉は小さく舌打ちをしてから、苛立ったように告げる。
「そういや例の『災害』が消えたらしい。 監視がついていたはずなんだが、いつの間にか眼前からいなくなっていたとかほざきやがる。 何者かの介入があったのかもしれないとのことだ」
「それは『生まれ堕ちた罪』が関連していると思う?」
「分からねぇ。ただ、『災害』が彷徨っているのはそのハーフなんちゃらとは真逆の大地だ。 この世界じゃあどちらが北でどちらが南か分からねぇけど、北と南みたいな感じで真逆の位置に居たらしい」
「ふーん、ということはまた新しい集団が出来たのか発見されたのか……。それにしても、廻折研究室と赫逢騎士領団が滅んで平和になると思ったんだけどなー」
灯花さんのその言葉に、俺には雷に打たれたような衝撃が走った。
廻折研究室と赫逢騎士領団は滅んだ。滅んだ、の、だが。
「と、灯花さん……。そう言えば俺、話さなければならないことがすごくたくさんあるんですよね」
俺の少し震えた声に狩倉は眉を少しばかり寄せ、灯花さんは真面目な顔つきになった。
「この間の放送の後に現実に戻って、次の日の学校に行く途中の道で俺、見たんです」
「見たって、何を?」
「室長を、です。廻折研究室の室長をです! ありえないって、思ったんですけど……どうしても頭からそのことが離れなくて」
「色んな人の証言から室長はキリカの『白銀の閃光』を喰らって死んだはずって言われてたけど?」
「でも灯花さん。本当に死んでいたのでしょうか、腕に攻撃が直撃したのは俺も見ましたけど、俺が現実で見た室長はその通りに攻撃が直撃した腕がなかったんですよ。 現場に腕だけが残されていたからといってその他本体が消滅したってことにはならないですよね」
うーん、と灯花さんは腕組をして考え始める。しばらくしてから確かにそうかもしれない、と小さく呟いた。
俺は複雑な心境の中で、もう一つの話を切りだすことにした。
「それと、もうひとつあるんですけど」
俺はポケットの中に収まっている鎖で雁字搦めにされた通行石を取り出して怜那が珈琲を噴き出した机の上に転がした。
その瞬間、部屋の空気が凍った気がした。
いや、この部屋の中の誰かの殺気が増したと言っていいだろう。
「れ、れいやん………。これ、どこで………」
あの灯花さんが声を震わせて俺に問いかけてきた。
狩倉もいつの間にか机の周りに集まっていて、俺の取りだした通行石をまじまじと眺めていた。
「学校の、開かずの資料室に落ちてたんですけど……」
「ふうん。現実に、ね」
「こりゃあすげぇな。 こんな赤いのは見たことがない。 咏錠最高指揮官でもこんな色はしていなかったと思うぜ」
狩倉は興味ありげに通行石を眺めていた。
そういえば狩倉は通行石を捨てたとか言っていた気がする。
「さ、最後に……」
俺はおずおずと手を上げてまた発言することにした。
「れ、れいやん。まだあるの?」
「これは本当に大事なことなんですけど、そして、幻でもなく実際に怜那と共に見たことなんですけど」
俺は一旦言葉を切って、心を落ちつけてから再び話し始めた。
「赫逢騎士領団が、復活していました」
空気が濁る。これは今日で二回目の出来事だった。
いや、人の混乱が空気に現れたと言えばいいのだろうか。
「れいやん、もちろん……」
「冗談ではありません。 本当に、怜那と見たんです」
そう言って怜那に視線を向けると、コクコクと首を縦に振っていた。
「なんだよ、もー!」
灯花さんが腕を上げてうがー、と吼えた。
「滅んだ集団が生き返るって何だよそれもう、ゾンビじゃない! 本当に何なのこの世界は~~~~」
次いで頭を抱えて唸りはじめた。こんな灯花さんを見るのは初めてだった。
「いいじゃねぇか。 また戦えるんだろぅ? それなら十分だろ」
何が十分なのかは聞かないことにして、それでも狩倉はうれしそうにしていた。
いつも通りに顔は凶悪だったが。
「……今回の事をまとめると」
灯花さんはそばにあったホワイトボードを引きずってくると、ペンでまとめを始めた。
「ひとつ、『生まれ堕ちた罪』の存在の確認。ひとつ、『災害』の消失。他勢力が関わっているかもしれない。ひとつ、廻折研究室の室長の存在。もしかしたら生きているかもしれない。ひとつ、この謎の真っ赤な通行石が現実世界で見つかった事。ひとつ、赫逢騎士領団の復活。………、余計ややこしくなったかな」
灯花さんは何度目になるか、頭を抱えて唸っていた。
確かに俺も唸りたい気分だった。キリカの件が終わって、やっと平和が訪れるかと思いきやこれだ。
やはりこの世界は普通には出来ていない。
普通とは違う何か、誰も予想できないような流れの上に存在していた。
月見里麗華の精神は安定していたと言っていい。
何故なら彼女は自らの足で立って歩いていたし、目的を忘却してはいなかったからである。
赤い砂の砂漠を一人で歩いていると、向こうから小さな影がよたよたと歩いてくるのが分かった。
殺気が全く感じられなかったので、その影が何なのかを確かめようと近づいていった。
しばらく歩くと、だんだんとその者の姿が鮮明になり、月見里は驚いた。
子供、だったのだ。
おそらくは二ケタにも満たないであろう歳の子供が歩いていたのだ。半べそになりながらも決して立ち止って大声で泣くことはせず、鼻をすすりながら懸命に歩いていた。
「あっ……」
その子供は月見里の姿を確認すると、小さく声を発した。
どうやら今の今までこちらの存在に気がついていなかったらしい。
それが分かった月見里は、特に構えることも無くその子供に近づいた。
綺麗な青い目をした男の子だった。 種族は何なのかは把握できないが、見た目相応の年齢だということには確証が持てた。
見ると、靴は砂だらけでどれだけここを彷徨っていたのかが分かった。
「どうしたの、こんなところで」
月見里がそう問いかけると、少し目を潤ませて少年は小さく言った。
「まいご……」
「迷子に、なったの?」
「うん、おねぇちゃんといっしょに遊びにきてたのに………。いつのまにかいなくなっちゃって」
「そうなんだ………」
危険は感じなかった。もしかしたらここらに住んでいる血無しの子供なのかもしれない。
もちろん血を見ないと確かめることはできないが、そんな事はこの子にはできなかった。
少し考える。当てもなく歩いていたが、このままでは『第二の鍵』や『第二のキリカ』に関する情報は全く集まらない。それはそうだ、ここは砂漠なのだから。
であれば、この子の保護者を探すついでに町などがあればそこで情報が得られるかもしれない。
もちろん、最優先するべきはこの子の保護者探しではないことを頭の隅に置いておかなければならない。
「私が、おねぇちゃんを一緒に探してあげようか?」
「えっ……ほんとう!?」
「うん、君の名前はなんて言うの?」
「つーふぇ、っていうの」
「ツーフェ? 珍しい名前ね」
「ほんとうはもうちょっとながいんだけど、みんなはつーふぇっていうんだ」
「そうなんだ。じゃ、私もそう呼ぶね」
「おねえさんはなんていうの?」
「私? 私は月見里麗華」
「れいかおねえさんだね!」
「そう、なるのかな」
少し気恥ずかしくなりながらも、少年の手をとって歩き出す。
ざくざくと砂を踏みしめる音が二人分に増えたことに、少し安心感が出たようで少年の顔は先ほどより強張ってはいなかった。
それを確認した月見里も、少し心が落ち着いた気がしていた。
少年の保護者を探すために、彼女は歩く。 その靴の裏には血糊がこびりつくようにしていたが。




