14話:物々回収
間違いで投稿しちゃったので投稿します;
なんかスイマセン。
またやってしまった、と一人呟くのはこれで何度目だろうか。もう数えるのも億劫になるくらいだ。
この能力を使うと、ほとんど例外なく相対した相手は死んでしまう。
だから少しの怪我を負わせて撤退してもらうこともできず、自分の身を守るためには必ず相手を殺さなければならないのだ。
他にも、この能力は無差別性に長けている。
敵味方問わず殺すこともある。大勢VS大勢だと、能力が敵を認識してくれなくなるのだ。
それは自分自身がその時に混乱しているせいもあるのかもしれないが、能力が言うことを聞いてくれないというのはどれほどの恐怖か。それが分かる人はこの世界には少ない。
すでに目の前には出来上がった作品。そして月見里はいつもの行動にでる。
針を消し、ぐちゃぐちゃになった死体に手を合わせて目を瞑る。
次に近場に穴を穿ち、クレーターまがいのものをつくる。そこに死体を引きずりいれて、埋めてしまう。
彼女なりの供養だった。
この世界で血を流して死んだ者は時が経つと灰となり、消し飛んでしまう。
放っておけば彼もいずれ消えてなくなるのだが、彼女はそうはしなかった。
これが彼女にとっての事の重大さを分からせるのだ。
現実世界では人を殺すと犯罪になる。そして国によって戒められる。
しかしこの世界では殺すと讃えられる。誰もその者を罰したりしない。
彼女が現実寄りの人間だからこそ、こうした行動で平静を保とうとする。ズレた認識を元に戻そうとする。
しかし、能力を持つ者にとってそれはあまりにも無駄なことだった。
彼女がソレに気が付いたのはこちらの世界で数年前。だが、続けざるを得ない。
彼女がまともであろうとする限り、続けないといけない。
それが彼女の精神を安定させるのであれば、やらないことはない。
今日もまた、紙くずのような尊い命が消えた。
心臓の鼓動が周りに聞こえるのではないかと思えるほどに高鳴っている。
人間と、血無しのハーフ。前代未聞の存在が今その目の前に居る。
そんな事がどうしても信じられなかった。
だが、信じないという選択は提示されていなかった。
考えたことはあった。もし、この世界に居る異種族間での子供が生まれた場合は何になるのかと。
しかし、そんな前例は無かったし、灯花さんに質問してみても笑い飛ばされてしまったことがあった。
でも、世界には確かに居た。
目の前には、居た。
「ちょ、ちょっと! 何で固まってんのよあんた!」
「いや、でも、だって……」
「だってもじゃないでしょ、あいつが何だろうと関係ないでしょ? 倒してそれで灯花さんだったり他の人に突き出して結論をもらえばいいじゃない!」
怜那は刀を構え、相手を見据える。
そうだ、結果相手が何だろうと今この状態では答えは出ないし、戦うことしかできない。
そうでないと間違いなくこちらが死んでしまうだろうから。
回復と攻撃の二種類の能力を持つ相手。厄介どころの騒ぎではない。
「……分かった。それで怜那、いきなりだが俺を信じてくれるか?」
「なななっ! 何よ、いきなり……」
刀を取り落としそうになりながらも、怜那はこちらに視線を向けてくる。顔が少し赤いのは触れないでおく。言ってしまうと自分にも移ってしまいそうだからだ。
「俺の能力。魔眼のことだけど、使用法と効果がやっと分かった気がする」
「え、ほんとうに!?」
「ああ、だから俺を信じて怜那は奴に攻撃を浴びせてほしい。奴の攻撃は怜那には当てさせない」
「う、うん……じゃあ……頑張る」
ふーっと息を吐いて気持ちを入れ替えた怜那は、奴に向かって狙いを定めた。
それを見て俺も準備を始める。とはいっても、奴を俺の視界に入れるだけなのだが。
「はぁぁぁぁっ!」
弾丸のように飛び出した怜那は、刀を突き出して突きの体勢を取る。
一点突破型の攻撃である。俺はそれに合わせて奴の右腕にだけ注目する。
怜那の刀の先と少年の拳の先が衝突する手前。俺は再び目に重力を感じた。
ズリュウッ! と少年の拳頭から肘まで怜那の刀が貫く。
紫黒い血が舞い、少年は痛みに顔をしかめて見せた。怜那はそのまま刀を切り上げる。
「ああああああああっ!」
腕が二枚に引き裂かれ咆哮する少年は、すぐさま近くの柱に喰らいつこうとする。
が、俺は少年の周辺の柱全てに目を走らせた。
瞬間、まるで手品のように柱は消失する。
少年の左腕は空を切って何もつかめない。痛みに耐えながらも砂地に顔をうずめてもがく。
「どうやら……砂は食えないようだな。能力とは言っても制限はあるだろう」
冷静に分析してみる。
彼は『なんでもいいからとりあえず食べておけば』傷が回復するとは言ったがそれが本当のことなのかどうかを判断できる者は俺達の中にはいない。
俺の能力に制限があるように、少年の能力にも制限はあるはずなのだ。
先ほど能力を見せつけるために少年は崩れた柱の欠片を食べた。それは少年の握りこぶし大はあった。
何を食べてもいいというのであれば、わざわざそんな大きなものを食べずとも最初から砂を飲めば良かったのだ。少年はソレをしなかった。いや、出来なかった。
少年の回復の能力の制限はおそらくこうだ。自分の掌より大きなものを食べた時に治癒が施される、そんなところではないだろうか。
そうじゃないと、何を食べても発動するということは日常的に回復し続けていることになってしまうからだ。
持続して能力を使用し続けるのは身体や脳の負担になるのだ。
「うっ、ぐぅぅっ……。結局、罰を受けさせることはできなかった。君たちも同じか、僕たちを見世物にして、調べ上げて解剖して……、物扱いするんだと思う」
砂の海を掻きながら少年はぼそぼそと呟いている。
その少年の声からは、捉えようのない深い悲しみが溢れているような気がした。
俺はさっき、誰かに突き出してしまえばいいと言った。しかし、本当にそれでいいのだろうか。
少年が言うように、徹底的に調べ上げられて、物扱いされて、最後には。
こんなことがあるから。いや、あったから少年の言う僕たちは人間や血無しを恨んでいるのではないのだろうか。
そう思うと、俺が言った言葉は少年に対して絶望感を与えてしまったのではないだろうか。
「……えと、怜那。やっぱりこいつを突き出すってのは止めにしないか」
「何? もしかしてあんた情に絆されたの? こいつはね、あんたと私を殺そうとした。それなのに、そんな事を思えるの?」
怜那が冷ややかな目でこちらを見ている。しかし、こんなことをしていては負の連鎖は断ち切れない。
俺のこの行動によって大きく変わるわけではない。そんな事は思っていない。
だけど、一歩が踏み出されない限り溝は深まっていくばかりだ。
「……あんた、本当にお人よしの馬鹿ね。私のときだってそうだった……」
「怜那。もしかして分かって───────」
くれたのか? と俺は声を発せなかった。
それは目の前に突然出現した女性から、異様な力を感じたからだった。
無機質な瞳に腰まで伸びたブラウンの髪。精巧な人形を感じさせる彼女の顔は表情が無かった。
突然目の前に現れて、突然力を感じて。そして俺の中での優先順位が変わった。
「静まれ。お前は話すことを許されてはいない。私の指示に従うように、その足元に転がっているモノをこちらに引き渡せ」
どこかで聞いたことのあるような声で、有無を言わせぬ口調。彼女からは圧力のような物を感じた。
しかし、俺はその圧力に対抗するように口を開く。
「あなたは、誰なんですか。いきなり現れてた奴に、生き物をモノ呼ばわりする奴に渡すわけにはいきませんね」
「なんだ、私を知らないのか。群青の雌鳥の音城玲夜」
「なっ、……どうして俺の名前をっ!」
「簡単なことだ。それは私がお前の上司に値するからだ」
腰まで伸びたブラウン色の髪を手で払い、彼女は続ける。
「群青の雌鳥最高指揮官、咏錠祀。お前はこの間の放送を聞いてはいなかったのか」
そうだ、確かにこの声はあの時の放送の声だった。
しかし、なんで最高指揮官自らがこんなところに来ているのか。
気が付けば、彼女の後ろには二人。男と女が一人ずつ増えていた。その二人からも力を感じる。
「そいつは私たちの仲間を殺したのだ。放送を聞いていたのなら分かるだろう、私は許せない」
「本当に、この少年が殺したのでしょうか」
「いいや、正確にはこいつの同属が、だ」
どうやら咏錠はこの少年の正体を知っているらしかった。
「少年じゃ無いのだとしたら、関係ないでしょう」
「関係なくはないな。しかし、そいつからは聞かねばならないことが多くある。まだ私とて全てを知っているわけではないからな」
「では、あなたのためだけにこの少年はモノ扱いされるのですね」
「見解の相違だな。 それに、気が付いているのか? お前は支離滅裂なことを言っている。人殺しの仲間が放置されていて良いのか? そいつ自身も殺しているだろう。いや、この世界で殺す殺さないは関係がない。現実とは違うのだから、そんな事はどうでもいい。他の世界の物差しでこの世界は測れない。そんなことぐらいお前も知っているだろう」
何も言えなかった。
確かに、都合がよすぎるかもしれない。この少年はおそらくたくさん殺してきた。
俺達を襲う時も容赦はしなかった。
俺が聞いたたった一言で、こいつの存在が変わるわけでは無い。
他の人から見ればただの敵だ。
しかし、何か違うところで俺は納得いかなかった。
「納得いかない、そんな顔をしているな。だが、上司の命令は絶対。それが最高指揮官からの言葉とあればなおさらだ。権力を振りかざすのは好きではないが、使えるものは使う。命令だ、『そいつを渡せ』」
彼女がそう言った瞬間、俺は地面に倒れていた。
「ちょっと! あんたっ」
怜那が駆け寄ってきて、抱き起こそうとしてくれているのは分かるが、身体が言うことを聞かない。
全身が痺れたような感覚で、今自分がどのような行動を取っているのかが分からない。
勝手に視界が揺れ、地面に引き倒されるがその痛みすら感じない。
何も、感じなくなっていた。
「じっとしていればいい。別にお前には何もする気はない」
彼女が背後の二人に目配せをすると、その片方は少年を抱え上げ、片方は移動用魔方陣を作り出した。
と、その作りだされた移動用魔方陣の隣に、もうひとつ同じものが構成されて、見知った人物が現れた。
「どもー、まつりん! 相変わらず第二範囲の人には厳しいねぇ。そんなんじゃれいやんが可哀想だよ?」
灯花さんだった。彼女はいつも通りに赤を基調とした服を着こなして、柔らかな笑みを浮かべて登場した。
「灯花。あなたは本当に、……なんでもない。音城玲夜、能力は解いてあげる。しかし変な気は起こさないようにね」
そんな咏錠の声が聞こえたかと思うと、俺の身体は自由を取り戻した。
感覚が元に戻り、しっかりと地面に立つことができた。
「それじゃあね、音城玲夜。刃向ってきた気概だけは評価してあげる」
そう言うと咏錠祀は移動用魔方陣の中に消えていった。振り向きざまの彼女の顔は少し笑っていた気がした。




