13話:害悪収集
12月になりましたね。
こちらでは突然雪が降り始めました;
追記12/2
編集しました。
間違えて一つ先のものを投稿してしまいました;
壮絶な謎ネタバレでした;
本当に申し訳ありませんm(_ _)m
感じた視線は一つ。紛れもなくこちらを敵視していることが分かる。殺気の量が尋常ではなかった。
それでも月見里は怯まなかった。やるべきことがあったから。
室長に言われたとおり、自分には力があるのだ。室長にはなくて自分に在る力。
美流に褒めてもらったこの力。初めて自分のことを少し好きになれたこの力。
力は使うためにある。
だが彼女はそれを長らく使っていなかった。ある時期に気付いてしまったから。
これは人を巻き込む力なのだと。
犠牲なしでは戦えないような力だった。それが分かった時はやはり自分を嫌いになった。
自分だけ、自分さえよければいい。そんな言葉を具現化したような力だった。
美流の隣にも立つことが出来ない。立つためには力を抑えなければならない。
抑えたのなら、自分はやっぱり足手まといだ。不器用で両極端で、本当にダメな自分だった。
しかし、今ここには誰もない。
自分以外には敵が一人しかない。
ならば、久しぶりに自分の力に触れてみてはどうだろうか。
美流はここにはもういない。無くすモノはもう何もない。
で、あれば。
良いのではないだろうか。
「美流……。私は、あなたが」
月見里は呟く。
心の内に秘めていた思いを。今。
「何、何? 何さ? 何を気持ち悪こといっているんだいキミは」
それは敵の声だった。
ひっきりなしに眼鏡を押し上げる動作をする敵。
鼻、耳にピアス。上下を緑のラインの入ったジャージでそこにただ居る。
男だった。それもかなり細身の。
彼は眼鏡を押し上げてもう一度言う。
「何、何? ボクの恰好? いいでしょこれ、すごく動きやすいし」
両手を広げて自身のジャージを示す行動に、月見里はとくに何も思わなかった。
この世界に居る者のほとんどは変わり者ばかりであり、いちいち反応を返していてはそれこそ無駄と言うものである。
だから静かに彼女は告げる。
「あなたは、赫逢騎士領団階位六の………キリュウさんですね」
「何、何? なんで知ってるのかな。もしかしてキミ、ボクのファンだったりするのかな」
「いいえ、あなたはこちらの集団では少し有名ですから、知ってただけです」
「ふうん、ボクが有名になる集団、ねぇ。もしかしなくてもキミは廻折研究室の一員だよね」
「そうですね」
「そ、っか」
いきなり、雰囲気が変わった。最初から微量の殺気は感じていたのだが、ここにきて膨れ上がった。
威圧、そんなものが感じ取れるくらいには大量に噴き出していた。
月見里は恐怖と言うもので動けなくなる。彼女は本来、自身の肉体を用いて戦うような戦闘スタイルではないのだ。
だからこそ、神無月美流といった接近戦の味方が必要だった。
しかし、今は彼女はいない。
一人でやらなければならない。
月見里は自身の足で一生懸命にキリュウから距離をとる。
じりじりと、少しずつ距離をとる。と、その時。
「廻折研究室、ねぇ。ボクは本当にあそこは嫌いなんだ。コウクンと一緒でね、吐き気がするくらいなんだ。何、何? 何なんだろうなぁ。嫌いなんだ」
彼の声色すら変わる。
少し下がってきた眼鏡を彼は上げるようなことはせず、外してジャージのポケットに詰め込んだ。
眼つきも変わる。
「キミもあの気持ちの悪い集団の一員だ。だから殺す。しかたないよね、殺す」
キィィィンと耳鳴りのような甲高い音がしたかと思うと、彼の手の平には握りこぶし大ほどの光球が出現していた。
知っている、と月見里は心の中で呟いた。キリュウについての情報はほとんど頭の中に入っていた。
何故か廻折研究室の文献室に保存されていたのだ。室長はそれらを読むようにメンバーたちに呼びかけていたことも覚えている。
キリュウについての情報を学んだときにも隣には美流がいた。
こうして考えてみると、何をするときもどんな時も隣に美流がいた気がした。いや、実際いたのだ。
「何、何? ボーっとしている暇はないよ!」
ビュン! とその光球が一直線に飛んでくる。それは尾を引いて、一本の線になる。
『点の高速移動線』。確かそんな名前の能力だった。
避けることはたやすかった。発射点と角度さえ見極められれば、後はその直線状から退くだけでいいのだ。
これくらいなら今の月見里には造作もないことだった。
だが、彼も伊達に赫逢騎士領団の一員ではなかった。
目にもとまらない速さで次々と光球を出現されていく彼、その光球は彼の周りだけでなく月見里の頭上にも量産されていく。
「全ての光球の射出角度、それが計算できるのなら避けることは簡単だけどね。でもね、それがキミに出来るとはボクは思わないなあ」
彼のその一言を皮切りとして光球は一気に移動を開始して一本の線となった。
その数はもちろん両手でまかなえるほど少ないはずがなかった。そして、計算する能力も予知する能力も回避する能力も持っていない月見里は、幾つかの光球の進行方向上に重なってしまい大打撃を受ける。
焼き斬られるような痛み。それが光球が接触した部分から広がっていく。
たった一度の攻撃を受けただけで月見里は立ち上がることが出来なかった。
当たり前だった。彼女は肉体は普通の人のものと変わらないのだから。
「嫌いな廻折研究室のねじ曲がった研究員。ボクはキミ達が嫌いだ。だから殺す」
キリュウはポケットにしまった眼鏡を再び取り出して装着する。
「理由、知ってるかな? 知らないだろうな。 多分知らない。だって知っているのはボクとコウクンとキミのところに居るとある団員だけだからね。……何、何? その顔は」
彼が言うとある団員に月見里は心当たりがあった。
室長が拾ってきたと言っていた人物のことだろう。その人物は確か廻折研究室の地下に保護されているはずだった。
果たしてその保護という言葉は正しいのかどうかは定かではないが、室長が頻繁に地下に通っているのは月見里は知っていた。
そしてそれが室長のこの世界に居る理由につながっているのではないかとも思っていた。
「何でしょうかね……。痛いんです、でも、美流ちゃんはもっと痛かったはずです。死んだとき、すごく痛かったはずです」
「何、何? 何を言っているんだキミは。お友達でも亡くした? それなら早く言ってくれれば良かったんだ。ボクがすぐに同じ場所に連れて行ってあげられたのに」
ゥゥゥゥゥウウウウウ、と地鳴りが聞こえてきた。
空を見上げると、まるで星が迫ってきているかのようだった。
自分の数メートル上、手の届きそうな範囲に光球が星のように大量に存在していた。
避けることは間違いなく不可能。受け切ることも同じく。
だから、月見里は最後の策を使わざるを得なかった。そして、小さな声で謝った。
「ごめんなさい」
瞬間、黒い球体が彼女の背後に出現した。
彼女よりもはるかに大きな巨大な鉄球のような出で立ちをしたものだった。
しかし、用途は鉄球とは似て非なるものだった。
「何、何? そんな醜いもので何をしようと思ってるのかな? いや、何かする前にボクが──────────」
キリュウの開いた口に太いクギが突き刺さった。
否、クギに見紛うほどの鋭いそれは、成人男性の腕の太さもある針だった。
「ごがぁ……っ……ぎぃっ……りりりっ」
軋む骨の音。顎は粉砕され、声帯は破壊され、肉は四散し、おおよそ『口』と呼べる原形は留めていなかった。
「ごめんなさい」
ドンッ、とさらにもう一本の針がキリュウの腹部に突き刺さる。
決壊したダムのように流れ出る鮮血を見て月見里は口元を抑えた。立っていることも辛くなった彼女は膝をついて逆流を始める胃液を押えこもうとする。
彼女の後ろに控えているのはただの球体だった。真っ黒な球体。しかし、キリュウの身体を貫いた針はその球体から伸びていた。
彼女の身体を迂回するように曲がったり折れたりして的確に敵だけを狙って針は伸びていた。
ドンッ、さらにもう一本。
ドンッ、再び間をおいて一本。
ドンッ、適当な間隔で一本。
ドンッ、空いている足に向かって一本。
ドンッ、最後に心臓を狙って、一本。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
月見里は一撃ごとに一回、必ず謝罪の言葉を付ける。
これが、彼女の能力だった。
あまりにも醜く、殺傷能力を持ち合わせた恐ろしい能力。
それでもまだこれは序の口だった。
元々この能力は殺すための能力ではなかった。であるがゆえに、最悪の能力だった。
昆虫標本、というものを知っているだろうか。昆虫採集などによって得られた昆虫を観賞するために翅を広げたりからだを整えたりしたのちに、針を刺して宙に浮いた状態で固定して標本箱に保存したもののことを言うのだが、彼女の能力はその過程にあるものなのだ。
針で刺して、宙に浮いた状態で固定する。
この工程がたまたま人に対して、血無しに対して大打撃を与えられるものだっただけのことなのだ。
「 」
キリュウはすでに息をしていない。体中の増えた穴から血を流すだけの作品になってしまっている。
先ほど、彼女の能力は殺すための能力ではないと言ったが、それは殺さないことに意味があるということで、決して生かしておくだとか対象を傷つけないということではない。
だからこそ最悪だと言った。
彼女の能力の神髄は生かして標本にすることにある。それが誰にも耐えられないだけなのだ。
途中で絶命してしまうから成り立たないだけなのだ。
そんな月見里麗華の能力名は『害悪な一品の収集』。
そう、魔眼や悪魔力と並ぶ最悪な五つの能力の一つ、である。




