相思の病
グループ本社のコア事業部へと栄転して三週目。ハイテクパーク高層階の大きな窓からは、眼下に広がる街の雲海を一望することができた。
許嵐枝専用の執務室は、寒々しいほどに広々としていた。ここには、末端の子会社のような雑多な人の声も、紙詰まりを起こすプリンターの駆動音も、安っぽいテイクアウトや湿った雨の匂いもない。だが、書類の山から顔を上げたとき、骨の髄まで染み渡るような疲労と虚無感が、引き潮のあとに残された冷たい岩のように彼女の神経を無骨に逆撫でした。
彼女はマウスを握ったまま、マルチモニターの一番右側に表示された社内メッセンジャーの画面にカーソルを長く漂わせていた。
連絡先リストの最上部、ピン留めされたまま一度もメッセージを送ったことのない名前が静かに横たわっている。初期設定の白灰色のアイコン。その右下には、オンラインを示す緑の丸が点灯していた。
許嵐枝のひとさし指が微かに震え、ダブルクリックでウィンドウを開いた。
現れたチャット画面は空っぽのままだ。最後のやり取りは三週間前、あの豪雨の翌月曜日に、システム権限移行に関する公式ナレッジのリンクを彼女が無機質に送りつけたところで止まっていた。
許嵐枝は点滅するカーソルを見つめた。キーボードに置いた指先が無意識に数文字を叩いたが、針で刺されたかのように慌ててバックスペースキーを連打した。
私、一体何をやっているの?
実力相応に手に入れるべき権力とリソースはすでに手に入れたはずだ。満ち足りた気分で、あのお嬢様が現場で泥にまみれ、陰湿な罠に立ち向かう姿を高みの見物と決め込めばいい。それなのに、なぜ朝の光がガラスカーテンウォールを切り裂いて差し込むたび、オフィスに足を踏み入れた瞬間にあの過去を思い出さずにはいられないのだろう。
こんな見晴らしがよく、針が落ちる音すら聞こえないほど防音の効いた豪華なオフィスなど、望んでいなかった。
懐かしいのは、あの子会社の狭く逼塞した、ドアの鍵穴すら軋む古い部屋だった。
かつて幾度となく迎えた朝、すりガラスの扉が微かに押し開かれた刹那、ドアの蝶番がかすかにきしみ、顧知微の顔が不意に視界へ飛び込んできた。ブラインド越しに差し込む朝の光が、格子状の明暗となって彼女の笑む目尻や眉元に整然と落ちる。光の斑の中に佇むその少女は、曇りのない素直な笑顔を向け、唇をわずかに結んで、恐る恐る探るような、けれど隠しようのない純粋な喜びを宿した声で、自分を呼んでくれた。
朝の光と格子の影によって幾度も細切れにされ、再び組み合わされて、許嵐枝の心臓の奥深くに縫い付けられていた。
許嵐枝は目を閉じ、自嘲するように口元を歪めると、赤いバツ印を押してチャットウィンドウを閉じた。
だが、ものの十分と経たないうちに、次の技術調達申請書を承認する合間、マウスを握る手は何かに操られたかのように、再びそのピン留めされたウィンドウを開いていた。
開いては閉じ、開いては閉じる。
その同じ頃。
午後の日差しは古びたブラインドをすり抜け、カーペットやパーティションの上に整然とした影の格子を落としていた。
顧知微は部屋の片隅にある自分のデスクに座り、片手で頬杖をつきながら、もう片方の指先でプラスチック製マウスの左クリックを所在なさげに叩いていた。
画面の右下にあるメッセンジャーで、「許嵐枝」の名がついたトークルームが、数え切れないほど最小化され、数え切れないほど開き直されていた。
入力欄の中で、カーソルが規則正しく点滅を繰り返す。
「許副ディレクター、新しいお仕事には慣れましたか?」――削除。
「本社では来週、新しいアーキテクチャの審査があるそうですが、プレッシャーは大きいですか?」――削除。
「この前教えていただいたログの補填、今日すべて終わりました……」――やはり削除。
指先から紡ぎ出される言葉は、どれも白々しく唐突で、惨めな未練のように思えてならなかった。顧知微は自嘲気味に息を漏らし、両腕の中に深く顔を埋めて、画面を見つめたままぼんやりと立ち尽くした。
辞令が下り、許嵐枝が本社へと移ってからというもの、同じ敷地内にいながら一度も顔を合わせていなかった。昼休みや退勤時、顧知微は何度も無意識にアトリウムのシャトルエレベーターの前に立ち、最上階へと直通する専用ケージが音もなく上昇し、降下していくのを見上げていた。だが、乗り込んで目的の階のボタンを押す勇気など、欠片も湧いてこなかった。
あの雨漏りのする山小屋での嵐の夜、自分の言葉に怯え、パニックに陥って身構えた許嵐枝の姿が、今も鮮明に焼きついて離れない。
顧知微には分かっていた。許嵐枝が自分を避け、恐れすら抱いていることを。
これ以上近づくことが彼女にさらに高く冷たい壁を築かせるだけなら、今はこうして遠くから、緑色に灯るオンラインの丸を見守っているほうがずっとよかった。
「カチャリ」
斜め前にある主管オフィスのドアの鍵が小さく鳴った。
顧知微の心臓が跳ね上がった。まるで怯えた小動物のように反射的に顔を上げ、かつて許嵐枝のものだったすりガラスの扉へ、すがるような期待の眼差しを向けた。
だが、扉の隙間から現れたのは、部署の日常業務を取り仕切るために新しく着任した太った主管だけだった。保温水筒を抱え、大声で部下たちに書類の提出を急かしている。
顧知微の瞳の光は、風に吹き消された蝋燭の火のように一瞬で消え去った。
彼女はうつむき、わずかに開いたままのドアの隙間に視線を落とした。
もう、いない。
格子の光影の中にあの細く凛とした姿が立つことも、ドアが開いた瞬間に振り向いて、あの自制に満ちた瞳で自分を見つめてくれることもない。朝の光が横顔を冷たい彫像のように切り取る中、書式の間違いを厳格に咎めながらも、夕暮れまで辛抱強く教えてくれる人など、どこにもいなかった。
顧知微は下唇を噛み、震える指先でマウスを動かし、空白の入力欄にカーソルを合わせた。
キーを一つ叩いた、その瞬間だった。
チャット上部のステータスバーが不意に跳ね上がり、名前だけが表示されていた帯の横に、前触れもなく極めて小さな灰色の文字が点滅した。
【相手が入力中……】
顧知微の息がぴたりと止まり、全身の血が一瞬にして凍りついた。
その文字は小さく震え、二秒ほど点滅したあと、何事もなかったかのように掻き消え、元の死んだような空白へと戻っていった。
そして工業団地のもう一端で、許嵐枝もまた【相手が入力中】の文字を目にし、キーボードから弾かれたように両手を離していた。胸が狂ったように波打ち、取り返しのつかない過ちを犯した子供のように、慌ててウィンドウを閉じたのだった。
「今月末は忘年会だぞ!みんなしっかり仕事を片付けておけよ、そうじゃないと遊ぶどころじゃなくなるからな!」太った主管が丸々とした手を高く掲げると、フロアの面々から一斉に歓声が上がった。
あ。
顧知微はカレンダーを開き、赤く囲まれた二十八日の日付と、その下に添えられた【忘年会】のメモを見つめた。閉じては開き、閉じては開き、まるでそうすれば時間の流れが速くなるかのように、何度も何度も繰り返していた。




