誰かに似ている
山林の豪雨は鈍い雷鳴を伴い、幾重にも重なる谷間にこだましながら、深秋の夜を墨を流したような深い闇へと染め上げていた。
吹き荒れる突風が、今にも崩れそうな粗末な丸太小屋の板壁を激しく揺らし、梁の隙間からは雨水が絶え間なく滴り落ちて、単調で冷ややかな音を立てている。
「天気予報では雨脚が強いけれど、じきに止むと言っていたわ」
許嵐枝は部屋の隅から、森林警備員が残していった湿気たマッチの小箱と、乾いた松の薪を見つけ出した。
彼女は床にしゃがみ込み、か細い火種に息を吹き込みながら、ひと苦労して部屋の中央にある錆びついた鋳鉄製の薪ストーブに火を灯した。橙色の炎が薪を舐めるように燃え広がり、パチパチと音を立てる。その貴重なかすかな温もりは、二人の体を包んでいた湿り気と冷えを少しずつ払っていった。
「濡れたセーターを脱いで」
許嵐枝は火の粉に背を向け、顧知微のキャンバスバッグからまだ湿っていない予備の長袖Tシャツを取り出した。そして自身のカシミヤコートとともに差し出す。その声には、泣いたあとの微かな嗄れが残っていた。
顧知微は乾いた薪の山に寄りかかり、唇は相変わらず青白く、全身が小刻みに震え続けていた。彼女は素直にうなずき、薄暗がりの中でゆったりとしたTシャツに着替えると、許嵐枝のコートをきつく身にまとった。コートにはストーブの余温だけでなく、許嵐枝特有のひんやりと幽かなウッディ系の香りが立ち込めており、彼女の全身を隙間なく包み込んでいく。
揺れる炎が、顧知微のやつれた青白い頬を赤く照らし出した。
「もう少しこっちへ。火のそばに座りなさい」
許嵐枝はストーブの脇に腰を下ろし、隣の乾いた床板を軽く叩いた。
顧知微はすり寄り、許嵐枝の膝に肩を触れさせた。濡れそぼった長い黒髪が、白くほっそりとした首筋や頬に幾筋も張りつき、毛先からは冷たい雨の滴が時折こぼれ落ちる。
その痛々しく儚げな姿を見つめる許嵐枝の胸に、再び抑えきれない痛みが走った。彼女はバッグから乾いた清潔な小さなタオルを掴み出すと、手を伸ばし、きわめて柔らかな手つきで顧知微の頭にそっと触れた。
濡れた髪をタオルで優しく揉むように拭きながら、許嵐枝はわずかに身をかがめ、白く細い指を顧知微の冷たい髪の間へと滑り込ませた。指先が時折、敏感な耳たぶやうなじをかすめるたび、顧知微の体がかすかに震える。
「まだ寒い?」
許嵐枝が低い声で尋ねた。そこには普段無理に取り繕っている威厳や冷淡さは微塵もなく、隠しようのない慈しみだけが満ちていた。
「寒くありません」
顧知微は顔を上げ、目を細めて微笑んだ。
「火が消えない限り、あなたがいてくれれば、それだけでとても温かいです」
炎が許嵐枝の横顔に揺らめく金赤の光を投げかけていた。許嵐枝は伏し目がちに指先を顧知微の額へと移し、雨で眉骨に張りついていた後れ毛を優しく払い除けた。指の腹が少女のふくよかで温かい額を滑り、やがて白く色を失った唇の端にとどまる。
あまりにも近すぎた。
狭いストーブの脇で互いの吐息が絡み合い、互いの瞳の奥で揺らめく鮮やかな炎までが見て取れるほどに。
許嵐枝は胸の中で厳しく平静を保とうとしたが、どういうわけか無意識に顧知微の靴を脱がせ、靴下を脱がせて脇で水気を絞っていた。ふと我に返ると、足を温めている顧知微の顔は、炎の光に照らされて真っ赤に染まっていた。
許嵐枝は唐突に気づかされた。こうして相手の体を拭い整える動作が、まるで染みついた筋記憶のようであることに。
けれど、彼女は顧知微を単なる世話の対象として見ているわけではなかった。
自らが想像していた以上に、彼女に触れたがっていたのだ。
許嵐枝は靴下を干し、再び元の位置に腰を下ろした。
薪の焦げる芳ばしい香りに、どこか火照るような熱気が溶け込んでいく。静まり返った廃屋の中で、激しい鼓動がひとつ、またひとつと強く打ち鳴らされ、互いの鼓膜を叩いた。
許嵐枝は堪えきれず、さらに身を寄せていく。
顧知微は身を引かなかった。じっと許嵐枝を見つめ返すその澄んだ黒い瞳には、激しくうねる愛着と情熱が溢れんばかりに湛えられていた。微かに震える許嵐枝の長い睫毛を見つめ、目と鼻の先にある潤いを帯びた薄い唇を見つめる。顧知微の喉がわずかに上下した。まるで何かに魅入られたかのように、抑えきれない衝動のままわずかに身を乗り出し、自らの息を相手へと捧げるように近づけていく。
許嵐枝の呼吸が不意に止まった。
拒絶することなど、いくらでもできたはずだった。
理性が脳の深淵で甲高い警告を叫んでいた。だが、彼女の体は巨大な引力に縛りつけられたかのように、その場から動くことができない。目の前の少女は清らかな横顔を上げ、潤んだ瞳で、ありったけの真心と脆さを何の防備もなく曝け出している。
この全身全霊の歩み寄りは、長年暗闇と苦痛の中でもがき続けてきた許嵐枝にとって、致命的で抗いようのない誘惑だった。
許嵐枝はわずかに顎を引き、胸の内に激しく芽生えた渇望に身を任せ、震える顧知微の唇へと自らの唇を寄せていった。
二センチ、一センチ、五ミリ……
熱を帯びた息が唇の間ですでに絡み合い、互いの唇に触れる細かな産毛の感触さえ感じ取れるほどだった。溺れていくような息苦しさと胸の高鳴りに、吹き荒れる嵐の中の古びた小屋で、二人は今にも理性を完全に失い、堕ちていきそうになっていた。
まさに二つの唇が、隙間なく重なり合おうとしたその刹那——
顧知微は間近にあるその瞳を見つめながら、ふと視線を彷徨わせた。揺れる炎が許嵐枝の凛として冷たい眉の稜線、すっと通った鼻筋、そして目元にある特徴的な小さなほくろを浮かび上がらせる。魂の奥深くに埋もれていた激しい疼きが、何の前触れもなく顧知微の心臓を撃ち抜いた。
「許……」
顧知微は無意識のように呟いていた。わずかに開かれた唇から漏れ出た温かな呼気が許嵐枝の口元をかすめる。その声は山間に消えゆくため息のように微かだった。
「以前お話ししたことがあったか分かりませんが、あなた……本当によく知っている人に似ています」
許嵐枝の動きが、空中でぴたりと凍りついた。
顧知微は相手の体が急激に強張ったことに気づかないまま、その奇妙な既視感の中に浸り、かすかに震える指先を伸ばして許嵐枝の眉骨にそっと触れた。その声は低く、茫然としていた。
「気性のことだけじゃなくて……最初の日、印刷室であなたを見かけた時から、ずっと懐かしい気がしていたんです。あなたの目元も、人を見つめるその眼差しも……誰かにそっくりで……」
その言葉が、許嵐枝を貫いた。
ドカン——!
凄まじい雷鳴が小屋の屋根の上で轟音を立てて炸裂した。青白い稲光が壊れた窓から差し込み、部屋全体を陰惨なほど白々と照らし出す。
今や許嵐枝にとって、この雷鳴さえ取るに足らないものに思えた。
母さん!
顧家!
気づかれたのだ。
甘く温かだった空気は、一瞬にして凍てつく地獄へと変貌した。目の前にある清らかな顔立ちは、電光が瞬く一閃の中で、許嵐枝の記憶にあるすべての忌まわしい悪夢と重なり合っていた——臨終の間際に許晴言が流した血を吐くような慟哭……
「っ……!」
激しい恐怖、屈辱、そして生々しい罪悪感が毒蛇のように瞬時に許嵐枝を締め上げ、窒息しそうなほどの生理的嫌悪を催させた。
許嵐枝は焼けつく鉄塊に触れたかのように、いきなり両手を突き出し、顧知微を激しく突き飛ばした!
何の構えもしていなかった顧知微の華奢な体は、床へと激しく打ち倒され、肘が薪の角に当たって鈍い音を立てた。
顧知微は痛みに耐えながら上体を起こし、驚愕と混乱に満ちた目で彼女を見つめた。
許嵐枝はよろめきながら数歩後ずさり、粗削りの木の壁に背中を激しく打ちつけ、荒い息を激しく吐き出しながら肩で息をしていた。
——あの子もそうだ。
——あの子だってそうだ。
——その鼻も、その耳も。
——私の母さんにそっくりじゃないか。
許嵐枝の声は激しく震え、崩壊寸前の鋭さを孕んでいた。
「顧知微、よく見なさい! 私はあなたの上司よ! あなたのくだらない妄想や、訳のわからない親近感を私に押し付けないで!」
顧知微は床に座り込んだまま、一瞬にして氷のように冷たく凍てつき、警戒と怯えを浮かべた許嵐枝の瞳を見つめ、心臓を鷲掴みにされたように痛んだ。
つい先ほどまで間近にあった温もりとときめきは、まるで束の間の幻影だったかのようだった。
「私……何か間違ったことを言いましたか?」
顧知微の目元が微かに赤らみ、声は掠れて途方に暮れていた。
「あなたは何も間違っていないわ。狂っているのは私よ」
許嵐枝は青ざめた下唇を強く噛み締め、その胸を引き裂くほど澄んだ瞳から無理やり視線を逸らした。
彼女はもう顧知微を見ることができず、揺らめく温かな炎に近づくことすらできなかった。部屋の最も隅にある暗闇へと退き、窓の隙間から吹き抜ける冷たいすきま風に、身にまとった薄いシャツを冷え切るがままに任せた。
深入りするわけにはいかないのだ。
薪ストーブはパチパチと音を立てて燃え続けていた。けれど、この狭く崩れかけた小屋の中で、縮まりかけた二人の距離は、身の上を突き刺すその一言によって、底知れぬ氷の亀裂を無残に引き裂かれていた。
光と影に分かれ、それぞれが自らの領域を守るように、二人は死んだような沈黙へと沈んでいった。




