第三十六章《運命》
その日はやってきてしまった。
あれから3年後の冬。
後に浄化機関となる組織では。
「魔法使いを保護する組織?」
「はい!そのような組織が最近誕生したらしいです!」
「……そうか。」
「あのー?どこへ向かわれるのですか?」
「ちょっと、様子を見に行く。」
この男は時雨の祖先だった。
そして、この男が数万年も変わらない浄化機関の裏のトップ。
「ちっ、魔法なんか嫌いだ。」
(魔法は呪いだ。俺の周りを壊していく。)
この男の名は夜桜真紘
真紘も魔法使いだった。
その魔法は不老不死だ。
だから、死にたくても死ねない。
真紘は自分が死ぬためにこの組織を作った。
「ここが理想郷機関か。」
厳重な鉄の扉が真紘の前にあった。
「こんなもの……!」
真紘が触れると、厳重な鉄の扉が粉々に跡形もなく壊れた。
ビービービー!
警報音が鳴り響く中、真紘は気にせず進んだ。
「侵入者だ!確保しろー!」
「銃を構えろ!それ以上進めば撃つぞ!」
そんな声にも耳を傾けずただ進む。
「撃てー!」
パーン!
銃声が響きわたる中、真紘は進む。
「な、なんだ?こいつ……銃が効かない?」
「なぁ、そんなものが効くと思ったか?」
「ヒッ!来るなー!」
「雑魚は引っ込んでろ。」
真紘が触れると、兵士の持っていた銃が粉々に砕け散った。
「なっ……!」
「だから言っただろ。雑魚は引っ込んでろって。」
真紘は倒れた兵士たちを一瞥し、再び歩き始めた。
「侵入者を確認! 至急、幹部に連絡しろ!」
「面倒くさいな……。」
真紘はため息をついた。
そのとき。
「そこまでにしてもらおうか。」
目の前に、一人の男が現れた。
「お前がここの責任者か?」
「違う。だが、君の相手をするには十分だろう。」
「……そうか。」
真紘は興味なさそうに男を見つめた。
「一つ聞かせてくれ。」
「なんだ?」
「お前たちは、なぜ魔法使いを保護している?」
男は少し考えたあと、静かに答えた。
「魔法が使えるというだけで、人を傷つけていい理由にはならないからだ。」
「……はっ。」
真紘は小さく笑った。
「綺麗事だな。」
「そうかもしれない。」
「魔法使いがどれだけ恐れられているか、お前は知っているのか?」
「知っているつもりだ。」
「なら、なぜ守る?」
「守らなければ、誰が守るんだ?」
「……。」
真紘は黙り込んだ。
その言葉が気に入らなかったのか。
それとも。
ほんの少しだけ、何かを思い出したのか。
「くだらない。」
真紘は男に向かって歩き出した。
「君は何をするつもりだ?」
「決まっている。」
真紘の目が、冷たく光った。
「お前たちを潰す。」
「なぜだ!」
「俺が死ねないからだ。」
「……え?」
「何万年も生きてきた。何度も死のうとした。だが、俺は死ねなかった。」
真紘は自分の手を見つめた。
「この忌々しい魔法のせいでな。」
「だからといって、なぜ我々を……!」
「お前たちがいる限り、魔法使いは生き続ける。」
真紘は顔を上げた。
「魔法使いがいなくなれば、俺もいつか死ねるかもしれない。」
「そんな保証はどこにもない!」
「……ああ。そうだな。」
真紘は淡々と答えた。
「だが、もうほかに方法が思いつかない。」
次の瞬間。
真紘の姿が消えた。
「なっ――!」
男が振り返ったときには、すでに目の前に真紘が立っていた。
「悪いな。」
真紘が男の胸元に触れようとした、その瞬間。
「やめてください!」
始まりの魔法使いが、二人の間に飛び込んできた。
「……あ?」
真紘は手を止めた。
その近くには片割れも立っていた。
「はー、また面倒なことに首を突っ込みよって。」
「でも、助けたいんです。」
「そうか。わしは眠い、だから手短にな。」
「はい。」
「おい。お前邪魔だ。」
始まりの魔法使いは震えながらも、真紘をまっすぐ見つめていた。
「どうして……どうして、そんなことをするんですか?」
「どけ。」
「嫌です!」
「死にたいんだよ、俺は。」
真紘の声が、わずかに低くなった。
「お前に何がわかる?」
始まりの魔法使いは唇を噛みしめた。
「わかりません……。でも、あなたが死にたいからって、ほかの人まで巻き込んでいい理由にはなりません!」
「……。」
真紘は始まりの魔法使いを見つめた。
その瞳に映る自分の姿が、ひどく気に入らなかった。
「……そうか。」
真紘は始まりの魔法使いから目をそらした。
「なら、見せてやるよ。」
「え……?」
「魔法使いを守ろうとした人間が、最後にどうなるのかをな。」
真紘は再び歩き始めた。
「待ってください。」
「黙れ、うるさい。」
「でも……。」
「黙れと言っているだろ!」
真紘は始まりの魔法使いに触れた。
「えっ?」
始まりの魔法使いは狐の仮面を残して消えた。
「おい!おぬし!わしの連れに何をした。」
「見ればわかるだろ?殺した。」
「なんじゃと?」
「俺は触れたものを跡形もなく粉々にする魔法が使えるんだ。」
「……くっ。」
「そして、その魔法は俺の意思ではない。自動で常に発動している。」
「貴様!よくも。」
「安心しろ、お前もすぐにあいつのところまで送ってやる。」
「来るな!」
次の瞬間、片割れは消えた。
「死んだか。」
片割れは死んだわけではなかった。
タイムスリップしたのだ。
始まりの魔法使いがタイムスリップした時代に。
二人は同じ人間だった。
だから、二人は離れられない。
同じ時代にいるしかないのだ。
そして、その日。
理想郷機関は、一人の男によって壊滅的な被害を受けることになる。
そして、この事件をきっかけに理想郷機関は変わった。
「我々は我々のためだけの世界をつくる!」
守るだけじゃない。
排除し始めた。
魔法が使えないものを。
それと同時に真紘は、ある計画を立て始めた。
魔法使いを保護する組織を、二度と生まれさせないための計画を。
数万年後。
その計画は、浄化機関という形で完成することになる。
そして、その組織に立ち向かうことになる少女の名は――
夜桜時雨。
真紘の、遠い遠い子孫だった。




