第三十二章《始まり》
「……こんにちは。」
少女――黎華が、僕たちに声をかけた。
「……こんにちは。」
僕が返事をすると、黎華は少し驚いたような顔をした。
「喋れるんだ。」
「うん。」
「あなたたちは……人間?」
「分からない。」
「分からない?」
ベテルギウスが答える。
「僕たちは、ずっと前からここにいる。でも、自分たちが何なのかは知らない。」
「そうなんだ……。」
黎華は僕たちをじっと見つめた。
そして――。
「私も、よく分からない。」
「え?」
「私は何者なのか。」
「……。」
「でもね。」
黎華は空を見上げた。
「一つだけわかるの。」
「えっ?」
「私は始まりの魔法使い。」
そして、地上を見た。
「魔法は使える。」
「うん。」
「でも、どうして使えるのかは分からない。」
「……。」
「いつから使えるようになったのかも分からない。」
僕たちは顔を見合わせた。
「もしかして……。」
「うん。」
僕とベテルギウスは、同時に思った。
この少女は、僕たちと似ている。
人間なのに。
どこか、人間とは違う。
「ねぇ、黎華。」
「なに?」
「魔法って、怖い?」
黎華は少し考えた。
「……分からない。」
「分からない?」
「魔法はただの力だから。」
黎華は自分の手のひらを見る。
すると、小さな光が生まれた。
それは、僕が昔生み出した光とよく似ていた。
「これで誰かを助けることもできる。」
光が消える。
「でも……誰かを傷つけることもできる。」
「……。」
「だから、魔法そのものが怖いんじゃない。」
黎華は静かに言った。
「魔法をどう使うかが、大切なんだと思う。」
僕たちは何も言えなかった。
その言葉が、とても印象に残った。
「……変なの。」
ベテルギウスが笑う。
「何が?」
「なんだか、ずっと昔から知ってるような気がする。」
「私も。」
黎華は少しだけ笑った。
「初めて会ったのに、不思議だね。」
僕たちは知らなかった。
この出会いが、世界の歴史を大きく変えることになるなんて。
黎華が――。
魔法の始まりに関わる存在になることも。
そして。
いつか、この少女が一人ではなくなることも。
「また会えるかな?」
黎華が尋ねる。
「うん。」
「きっと。」
僕たちはそう答えた。
このときは、まだ何も知らなかった。
黎華が抱える運命も。
魔法使いと人間の争いも。
そして――。
僕たち自身が、その歴史の中で重要な役割を担うことになることも。




