第6話 大地と夏の海
夏のバカンス編始まります。
――ザザァーン、と。
耳の奥に飛び込んできたのは、お囃子でも花火の爆音でもない、どこまでも優しく、だけどやけに壮大な波の音だった。
鼻腔をくすぐる匂いも、焦げたソースから一瞬で、ツンとした潮の香りと、どこか甘ったるい日焼け止めの匂いへと切り替わる。
ハッと気がつくと、ダイチはまばゆい白い砂浜の上に大の字で寝転んでいた。じっとりしていた浴衣の感覚は消え失せ、いつの間にか派手なアロハシャツと海パンに変わった素肌を、ジリジリと肌を焼くような真夏の太陽がこれでもかと照りつけている。
「うおっ、まぶし……っ!」
ダイチはたまらずにパチパチと目を瞬かせ、勢いよく上半身を起こした。
視界いっぱいに広がったのは、どこまでも青い空と、きらきらと光を反射して輝く見渡す限りの大海原。
「……海、じゃん! 今回は最高なシチュエーションじゃねえか!」
ダイチは一瞬でテンションを跳ね上げた。
ふと右手に違和感を覚えて視線を落とすと、そこにはあの夏祭りの山頂で少女に「早く捨てなさいよ」と呆れられた、あの『冷凍パイナップルの割り箸(木の棒)』が、なぜかそのままがっちりと握りしめられていた。次の世界にまで、このゴミを持ち越してしまったらしい。
けれど今のダイチにとって、これは立派な相棒だ。
「よし、海! 砂浜! 海の家! スイカ! ……かき氷は、うん、もういいや!」
前回の脳天を突き刺すような激痛を思い出してぶるりと首を振った、その時だった。
「ちょっと、ダイチ」
背後から降ってきたのは、お祭りの夜に聞いたのと同じ、だけどどこか少しだけ、いつもより弾んだ涼しげな声。
ダイチが勢いよく振り返ると、そこには、夏祭りの浴衣姿から一転して、自分の体型より二回りほど大きなダボッとしたTシャツを羽織った少女が立っていた。
裾からすらりと伸びた真っ白な素脚が、真夏の太陽の下でやけに眩しい。相変わらず少しつり上がった目を細めながら、少女は細い指先で遥か彼方の海を指さしていた。
「ダイチ、見てみて。あそこ」
「あ? なんだよ、何かあんのか!?」
少女の言葉にダイチの好奇心は一瞬で大爆発した。
手にした『最強の杖(割り箸)』を握りしめ、青い水平線に向かって砂を蹴り、全速力で突っ込んでいく。――が、力強く踏み出した五歩目だった。
すん、と足元から確かな砂の手応えが消えた。
次の刹那、ダイチの身体は重力に従って、不自然なほど綺麗に真下へと落下した。
「ぶふぉっ!? げほっ、ごほっ!」
ズサァァァッと派手な音を立てて、ダイチは細かい砂の底へと不時着した。幸いにも大した深さではなかったが、容赦なく砂が舞い上がって、口の中がジャリジャリする。
ペッペッと砂を吐き出しながら上を見上げると、そこはダイチの胸の高さまである、見事なまでに直角に掘られた『落とし穴』の中だった。
「な、なんだこれぇ!?」
落とし穴のフチから、まばゆい太陽の光を背負った少女がひょっこりと顔を覗かせた。
ダボTシャツの裾を上品に押さえながら、その特徴的な吊り目をこれでもかと意地悪そうに細めて、くすくすと肩を揺らしている。
「あはは! 大丈夫? ダイチ。まさかそんなに見事に向こう見ずに引っかかってくれるなんて思わなかったわ」
「お前……っ! 誘導するフリしてハメやがったな!?」
「何言ってるのよ。私はただ『見て』って言っただけじゃない。あんたが勝手に私の掘った穴に突っ込んできただけでしょ?」
少女はふふんと鼻を鳴らすと、腰に手を当てて、上から楽しそうにダイチを見下ろしている。
「このまま埋めちゃおうかしら? 砂風呂みたいで気持ちいいわよ、きっと」
「確信犯じゃねえか!! 深く掘りすぎなんだよ!」
顔を真っ赤にしてジタバタと暴れるダイチをひとしきり楽しんだ後、少女は満足したように微笑むと、落とし穴のすぐ脇をトントンと叩いた。
「はいはい、冗談よ。ほら、出しあげるから。その代わり、いいもの用意してあるわよ」
ダイチが泥臭く壁をよじ登り、砂まみれになりながら穴から脱出すると、目の前の砂浜には、見事な縞模様をした丸々としたスイカがドンと置かれていた。
いつの間にか、少女の手には黒い目隠し用の手ぬぐいが握られている。
「さあ、スイカ割りよ。その自慢の最強の杖で、一撃できれいに割ってみせたら、食べてもいいわよ?」
スイカ割りしたいなー




