第2話 大地とかき氷
第2話です。一文無しの少年が、洗面器のようなかき氷の山に挑みます。
『さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 毎年恒例、山盛りかき氷の早食い競争だぁ!』
と盛り上がりを見せる会場にダイチはいた。
「……おい。お前、これが何のイベントか分かってやってるな。ただの嫌がらせだろ!」
低く威嚇するダイチに、対面に座る少女は、その特徴的な吊り目を少しだけ不満げに細めた。秘かにスプーンをもてあそびながら、心外だと言わんばかりに唇を尖らせる。
「何よ、人聞きが悪いわね。私はただ、かき氷が食べたかっただけよ。お祭りに来たら普通でしょ?」
「お前なぁ……!」
普通、洗面器サイズの氷を一人で食おうとは思わない。そう言い返そうとして、ダイチは口を閉じた。肩からすっと力が抜けていく。
「……はぁ。だろうな。そうだと思ったよ」
結局、ダイチはあいつに逆らえなかった。いつもそうだ。
散々からかって、振り回して、煮湯を飲ませてくる、最悪に生意気な吊り目の少女。
――だけど、あいつはいつも、ダイチが限界を迎える直前に、その世界を抜け出すための『小さなヒント』を置いていってくれるのだ。
姿の変わらない自分。外見の変わらない、あいつ。自分自身すら渡ってきた世界のベテランのつもりだったが、あいつの余裕を見るたびに、ダイチは確信する。
きっとこの少女は、俺なんかよりも遥かに長く、この終わらない世界にいる。
「何ぼーっとしてるのよ。早く食べないと、優勝商品の花火もらえないでしょ」
少女はスプーンの先で、夜の山頂に妖しくそびえ立つ、あの巨大な鳥居をツン、と差した。
「ほら、がんばって、ダイチ」
あいつが、鈴の鳴るような声で、少年の名前を呼んだ。あいつだけが、この世界で唯一、俺が『ダイチ』であることを知っている。
(優勝商品が……花火?)
ダイチの脳裏に、ひらめくものがあった。ただのかき氷早食い大会の景品にしては妙に具体的だ。間違いない、それが今回の世界をクリアするための『ヒント』だ。
ダイチはニヤリと不敵に笑うと、スプーンを握り直した。
『さあ、位置についてーー……よーい、スタート!!』
パーン! と間の抜けたクラッカーの音が響き渡り、周囲の群衆が一斉にスプーンを動かし始める。
「くそっ、食えばいいんだろ、食えば! 花火は俺がもらう!」
ダイチは半分やけくそでスプーンを山盛りのイチゴ氷に突き刺し、大きく口に放り込んだ。刹那、頭の中心を、カミナリが落ちたような激痛が貫いた。
「がっ……あ゛ッ……!?」
容赦なく襲いかかってくる、生々しい痛覚。脳が凍りつくような激痛に、ダイチは思わず机に頭をぶつけそうになる。空っぽの胃袋は悲鳴を上げ、頭痛はガンガンと視界を揺らす。
涙目で前を見れば、少女は吊り目をさらに細めて、くすくすと笑いながら、小さな口で綺麗にかき氷を口に運んでいた。
謎の少女何者なんでしょうか




