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仮想 少年✖️少女  作者: libero protocol
大地✖︎少女の夏祭り編

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第1話 大地と腹の虫

初めまして、Libero_Protocolリベロ・プロトコルと申します。

祭り、かき氷、一文無しの少年、そして謎の少女。

どこかバカバカしくて、どこか切ない「仮想世界」の物語、始まります。

仮想、仮想、仮想、どこまで行っても仮想の世界。


 自分も仮想なのか、何者かもわからない。

 名前も、呼びかけられるダイチとしか。


 本当の名前なのか嘘なのか、とにかく全部仮想だった。


 じっとりと肌にまとわりつく夜気。

 ズン、ズン、ズン、と鼓膜を震わせ、腹の底を揺らす和太鼓の音。


 暗闇の奥まで延々と、まるで世界の果てまで続いているかのように明滅する夜店の灯り。


「――っ、うおおおおおおお最高ォォォォ!! 今回は祭りだァァァッ!!」


 少年――ダイチは、賑やかな雑踏の真ん中で目を覚ました瞬間、両拳を天に突き上げて雄叫びをあげた。


 一歩、また一歩と露店の並ぶ通りへ足を踏み入れるたび、ダイチのテンションは爆発寸前まで跳ね上がっていった。


「すげえ! 前回は食いもんなかったからなー! 最高の当たり引いたぞこれ!」


 色鮮やかな水風船が水槽の中でぽよぽよと揺れ、甘いあんず飴の香りが鼻をくすぐる。お面を被った子供たちが笑いながら横をすり抜けていく。


胸の奥から湧き上がってくるこのゾクゾクするような高揚感の前に、ダイチの血はガンガンに狂わされていた。


 見上げる先、夜の山頂には闇にそびえ立つ、巨大すぎる鳥居。あの美しいシルエットすら、今は最高の冒険の入り口のように見えて、ダイチの目をらんらんと輝かせる。


 ダイチは自分の両手を見つめる。相変わらず、いつもと同じ、見慣れた自分の手だ。


 世界が変わるたび、今度こそ現実に戻れるかもしれないと、心のどこかで淡い期待を抱く。


けれど、その期待は毎回あえなく裏切られる。今回も無駄だった。結局、このお祭りと同じ、いつか消え去るただの幻の中に自分はいる。


もう、現実の自分がどうだったのかすら分からなかった。


 けれど、そんな小難しい不安なんて、じゅわあっと露店から漂ってきた強烈に美味そうなソースの焦げる匂いの前には秒で粉砕された。


「……うぅ、お腹減った……!! 死んじゃう……」


 思わず両手でお腹を抱え、文字通りくの字に折れ曲がる。仮想世界だろうが何だろうが、ひもじいものはひもじい。お祭り特有のあのソースの匂いは、残酷なほどに、ひたむきにリアルに胃袋を刺激してくる。


「ちくしょー! 仮想世界なら、もっとこう、願った通りに世界を書き換える力があってもいいだろ!」


 お伽話の主人公なら、格好よく手をかざして奇跡を起こして、あの美味そうな焼きそばを山ほど出して爆食いしているはずだ。なのに、俺ができることと言ったら、一文無しで焼きそばの匂いに涎を垂らすことだけ。


 これだけ最高な祭りなのに、買い食いの一つもできないなんて拷問だ。


 藁をも掴む思いで、浴衣のポケットに手を突っ込んでまさぐってみる。


「あ、何かある……!」


 期待に目を輝かせて引っ張り出したそれは――前の世界で適当に突っ込んだ、クシャクシャに丸まったラムネの包み紙と、出所のわからない小さなプラスチックのゴミ屑、そして冷たい金属の破片だけだった。お金なんて1円も入っていない。


「ゴミじゃん……。俺のバカ……。お金、ないじゃん」


 完全に一文無し。ダイチはあからさまに肩を落とし、犬のようにしょんぼりと項垂れた。一文無しで焼きそばの匂いに涎を垂らすことしかできない自分の無力さに、心の中で盛大に涙を流す。


「舐めたら死ぬ……。とにかく俺は非力な少年なんだ。早くあいつを探して、さっさと次へ行こう」


 あまりの居心地の良さに、何度も立ち留まりたいと願った、あたたかい世界が確かにあった。しかし、もしあのまま立ち止まっていたら、自分はどうなっていただろう。想像するだけで深い身震いがする。


 ダイチは無理やり足を前に動かした。歩みを早め、人混みをかき分けて進む。ターゲットは、この不自然な箱庭のどこかに紛れ込んでいる『金色に輝く何か』だ。


 金色。それはこの世界を終わらせるための鍵。けれど、それを視界に捉えるたびに、なぜか胸の奥が冷たく凍りつくような感覚に襲われる。


「どいてくれ、邪魔だ……って、うおっ!?」


 走り抜けようとした瞬間、ダイチは強固な人間の壁にぶつかり、たたらを踏んだ。神社の境内に、お祭り一番の凄まじい人だかりができている。


『さあさあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 毎年恒例、山盛りかき氷の早食い競争だぁ!』


 メガホンを持ったおじさんの声が夜空に響き、舞台の上には洗面器のような器にこれでもかと高く盛られた、原色の氷の山が並んでいた。


「……おいおいおい、嘘だろ。お腹は減ってるけど、かき氷かよ!」


 せめて優勝賞品は、温かい食べ物かお金だろうな?


 半分やけくそで舞台の上へ視線を向けた、その時だった。


「――っ!?」


 ダイチの息が止まる。

 洗面器のようなかき氷の山を前に、スプーンを握って不敵に笑っている、一人の『参加者』がそこにいた。


 いた。あいつだ。


 なぜかいつも自分の前に現れる、あの意地悪な少女。


 少しつり上がった目を不満げに細め、浴衣を着ていながらも、その立ち姿はどこか大人びていて、ダイチを見下ろす視線は妙に冷たい。あいつはただ、当たり前のようにそのかき氷早食い大会にエントリーしていた。


 俺と同じ状況なのか? それともこの世界のシステムなのか? それはわからない。


 ただ、今回の世界の鍵があいつの近くにあることだけは、嫌というほど理解できた。


 少女がふと顔を上げ、人混みの奥にいるダイチを見つけて、ニヤリと挑発的に口元を歪める。


「……上等だ。かき氷だろうが何だろうが、受けて立ってやるよ」


 ダイチはポケットから手を抜き、ゴミをぎゅっと握りしめ、お祭りの熱気に背中を押されるようにして、舞台へ向かって歩き出した。


 謎の少女との、術中にはまったと知りつつもワクワクしてしまう、負けられない戦いが始まる――。

第1話を読んでいただき、ありがとうございました!

一文無しで焼きそばの匂いに悶絶していたダイチですが、目の前に現れたつり目の少女と共に、次話、とんでもない「かき氷早食いバトル」に巻き込まれていきます。

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