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仮想 少年✖️少女  作者: libero protocol
大地✖︎少女の夏祭り編

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15/18

第15話 大地と金の狐


カンカンカンカン!!!


と激しく半鐘が打ち鳴らされる中、江戸の町は信じられないスピードで真っ赤な火の海へと姿を変えていった。


普通の火事ではない。


まるで意思を持つ巨大な生き物のように、炎は長屋の壁をなめ尽くし、天を焦がすほどの熱風を吹き付けてくる。


「おいおいおい、マジのやつじゃねえか! 避難だ避難!!」


「火事だ! 道をあけろォ!」


周囲では「め組」の町火消したちが必死に水を撒いているが、吹き荒れる熱気は凄まじい。


きらびやかな武家のお嬢様姿の少女は、「うぅ……暑い……」と今にも参りそうに顔をしかめていた。


その時、少女の吊り目が、炎が荒れ狂うはるか高い瓦屋根の上を捉えた。


「――ダイチ、あれ! あそこにいるわ!」


「あ? なんだよ、こんな時に……って、うお!?」


少女が指差した先。


激しく燃え盛る長屋の屋根の上を、まばゆい黄金の光を放ちながらひょいひょいと軽快に飛び回る、一匹の『金の狐』の姿があった。


今回のターゲットだ。


しかし、この火の海の中に突っ込んでいくのは、いくら何でも自殺行為だった。


「ねえ、ダイチ。あの狐を捕まえてきて。はい、これご褒美」


「むぐっ!?」


少女は、いつの間にか茶屋から拝借してきたあつあつの「まんじゅう」を、躊躇なくダイチの口へと力任せにねじ込んだ。


落とし穴の後のスイカ、お化け屋敷の後のチケットに続く、完全に投げやりでおざなりな事前ご褒美。


だが、13歳の胃袋はこれ以上ないほど素真面目だった。


「ふがっ……んぐ、うっま……!!」


口いっぱいに広がったあんこの甘さに一瞬で頬を緩ませたダイチは、まんじゅうを強引に飲み込むと、近くのめ組の火消しに猛然と掴みかかった。


「おいおっちゃん! 俺に水ぶっかけてくれ!!」


「おうっ!? 景気がいいなボウズ、行ってきな!」


バシャァァァンッ!!!

とバケツ一杯の冷水を頭から浴び、全身びしょ濡れになったダイチ。


木刀を腰に差したまま、長屋のハシゴを引ったくるようにして、一気に屋根の上へと駆け上がった。


「よっしゃあああ! 待てコラお狐様ぁぁぁ!!」


濡れた着物から激しく白い湯気を立ち上らせながら、ダイチは燃え盛る瓦の上を猛然と走り出した。


あのお化け屋敷で、ゾンビに追いかけられた時に開花した野生の韋駄天。


激しい熱風を切り裂き、崩れ落ちるはりを飛び越え、隣の屋根へと大ジャンプを繰り返しながら、金の狐との距離をグングンと縮めていく。


幕府を揺るがす大泥棒のようにすばしっこい金の狐だったが、ダイチが「もう一歩」という距離まで肉薄したその瞬間だった。


狐はダイチをあざ笑うかのように、見上げるほど巨大な「火の見櫓やぐら」の頂点に向かって、もの凄い速度で大跳躍を仕掛けた。


「あ、の野郎……っ!」


ダイチが足をとめ、上を見上げた。


はるか上空。届くはずのない絶対的な高さ。

普通ならここで諦めて、もたついているところだ。


だが、ふと下方の地上に視線を落としたダイチの目が、ハッと見開かれた。


火の手が急激に回り、少女のいる街道まで炎が迫っている。


お嬢様の綺麗な着物がすすで汚れ、熱風に身をすくめる彼女は、もう限界を迎えているのが丸見えだった。


(……ちくしょー、もたもたしてたら、あいつが危ねえ!)


届かないことは分かっている。


だけど、ダイチの胸の中で「あいつを守る」という魂の決意が、限界突破の火花を散らした。


「うおおおおおおおおっ!!」


ダイチは屋根の瓦を爆音とともに踏み砕き、虚空へと向かって力強く蹴った。


何としても少女を守るという決意が、ダイチの肉体に驚異的な『跳躍力』を宿す。


――ズバッッッ!!!


火の見櫓をはるかに見下ろすほどの高さまで、ダイチの身体が一直線に跳ね上がった。


凄まじい風圧の中、上空で驚愕に目を丸くしている金の狐が、目の前にグングンと近づいてくる。


「よしっ……届いたァァァーーーッ!!」


ダイチは決死の思いで両腕を伸ばし、空中を舞う狐の胴体を、逃がさないようにガシッと力いっぱいに抱きすくめた。見事に抱っこして捕まえたのだ。


パシィィィン!!!


抱きしめた瞬間、腕の中で金の狐が弾け、まばゆい光の粒子へと変わっていく。


と同時に、カラン、カランと、ダイチの右手の中に転がり込んできたのは、一気に『二つの金色の数珠玉』


「よっしゃあああ! 二玉同時に金玉ゲットォォォォォ――ッ!!」


江戸の夜空に響き渡る、本日最高音量のアホ全開の雄叫び。


――だったのだが、13歳の脳ミソが我に返ったのは、まさにその直後だった。


「って、うおおおおおおお待て待て待て高っけえええええ!? 飛びすぎて江戸の町が一望できちゃうんだけどこれマジで死んだわぁぁぁッ!!」


空中であられもない姿になってジタバタと絶叫し、本気でビビり散らすダイチ。


叫び終わった瞬間に達成感はどこかへ吹き飛び、眼下に広がる遥か遠い地上を見て金玉がすくむ。


「ぎゃあああああああ! 落ちる、落ちるって! 助けておっちゃん! 死ぬ死ぬ死ぬーーーっ!!」


数珠玉をがっちり握りしめたまま、上下の感覚すら失った真っ白な転移の光の中を、ダイチは涙目で絶叫しながら真っ逆さまに落下していく。


しかしその刹那、手の中の玉から駆け巡ったのは、これまでの比ではない冷気だった。


まるで全身の血液が、そのままガチガチに凍りつくかのような、圧倒的な冷たさ。


(う、あ……冷た、すぎ……っ、身体が、凍る……)


あまりの異様な寒気にダイチの思考が強制停止しそうになったその刹那。


崩壊していく江戸の火の海の向こう、地上から自分を見上げていた少女の姿が視界に映った。


きらびやかだったお嬢様の着物は煤に汚れ、彼女の顔に張り付いていたツンとした「お嬢様の表情」が、ハラハラと音を立てて完全に剥がれ落ちていく。


剥がれた隙間から覗いたのは、今にも消えてしまいそうな、あの生意気な少女の――本物の、ボロボロの泣き顔だった。


なぜ、あいつはあんな顔をしているんだ。

なぜ、こんなに胸が、張り裂けそうに痛いんだ――。


ダイチの必死の疑問を置き去りにするように、世界は硝子のようにパリンと激しく割れ


あの「醒めない夢の終着駅」へと激突していくのだった。

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