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見た目は超絶美少女(中身は俺)。女装コスプレでジョブを扱う探索者、クオリティを限界突破させて最強へ  作者: 折若ちい


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第7話 魔石とメイクと、地道な積み重ね

隠しエリアの攻略から数日が経過した。

 配信での「あの勝利」以来、俺の生活はガラリと一変した。……と言っても、ダンジョンに潜り、魔物を倒し、メイクを直し、また魔物を倒すというルーチンワークそのものは変わらない。


ただ、一つだけ変わったことがある。

 それは、この地味で泥臭い「修行と金策」の時間が、俺にとっては何よりも贅沢で、そして攻略の楽しさに満ちたものになったということだ。


『枯れ井戸の迷宮』隠しエリア。

 今日も俺は、紺色のプリーツスカートを揺らしながら、慣れ親しんだこの迷宮の奥へと足を踏み入れた。


「……よし。ドローンカメラ、稼働開始。……みんな、こんばんは」


スマホの画面には、いつものメンバーに加えて、数人の常連予備軍が顔を見せている。同接は安定の「15〜20人」。派手な爆発も、命懸けのボス戦もない、ただのレベル上げ配信。だが、俺はこの時間が好きだ。


『お、梓! 今日もスカート可愛いな』

『ダンジョンの奥で優雅に歩いてるの、完全に異空間だぞww』

『今日は何狩るの?』


「今日は、ひたすら『スケルトン・アーチャー』の魔石を集める。こいつらの魔石は高く売れるんだ。……あと、魔導士ジョブの経験値稼ぎも兼ねてね」


俺は魔導士の制服の襟元を正し、ウィッグの毛先を指で整えた。

 隠しエリア特有の冷たい風が吹き抜けるが、今の俺にはそれを弾く『マナシールド』がある。以前のように「命がけ」で走り回る必要はない。余裕を持って、丁寧に魔物と向き合える。


カチ、カチ、と骨が鳴る音が聞こえた。

 三体のスケルトン・アーチャーが、暗闇から矢を放ってくる。

 俺は慌てず、軽く身をひねって矢を回避し、優雅に杖(代用の杖代わりの魔導具)を振った。


「『マジックミサイル』」


放たれた光の弾丸が、一体のスケルトンの眼窩を撃ち抜く。

 以前なら外していたかもしれない、細かな角度の調整。魔導士ジョブのスキルは、使えば使うほど「指先の感覚」として体に馴染んでいくのがわかる。

 まるで楽器を弾くように、あるいはダンスのステップを踏むように、魔法を放つ。


『梓、今の動きなんかカッコいいな』

『どんどん魔法の使い方が洗練されてきてないか?』

『動きが無駄にならなくなってる気がする』


「そうかな? 魔法っていうのは、ただ撃てばいいわけじゃないんだよ。魔力をどの位置で収束させて、どの角度で放つか。メイクと一緒で、すべては『バランス』なんだ」


俺は自分でも何を言っているのか少し恥ずかしくなったが、あながち嘘でもない。

 メイクのバランスが崩れればステータスが落ちる。魔法のバランスが崩れれば魔力を無駄にする。

 どちらも、自分という存在を磨き上げるための「技術」だ。


配信を始めて三時間が経過した。

 俺の手元には、大量の魔石と、少しだけくたびれたメイク道具。

 ダンジョン内での地味な活動は、ある種の「作業」だ。だが、この作業を丁寧に行うことが、確実に俺を強くしている。


部屋の隅で小休止を取り、俺は鏡を取り出した。

 薄暗いダンジョンの中、俺は丁寧にベースメイクを塗り直す。

 鼻筋にハイライトを入れ、頬にはほんのりと血色を足す。

 戦闘で少しだけ崩れたウィッグを、専用のコームでとかし、一本の乱れもないようにセットし直す。


それは、魔物を狩るよりも遥かに繊細な作業だ。

 同接20人のリスナーたちは、そんな俺の「お色直し」を黙って見守っている。


『ダンジョン内で優雅に化粧直しする探索者、世界広しといえどお前だけだぞ』

『でも、ちゃんと綺麗になったな。またシールドの輝きが増した気がする』

『これが「女子力(物理)」の正体か……』


「褒めても何も出ないよ。……でも、確かに綺麗に整えると、魔力の通りが良くなるんだ」


俺は鏡に映る自分を満足げに見た。

 前回のボス戦のようなギリギリの戦いも悪くはない。だが、こうして地道に技術を磨き、昨日よりも今日、今日よりも明日と、自分を「最適化」していく過程こそが、実はこのスキルの本質なのかもしれない。


ふと、ポーチの中に入っている『見習い魔導士の解放書』の隣に、もう一つ、小さな包みがあることに気づいた。

 あれは、掲示板の住人たちがスパチャで投げてくれた金で買った、少し良いアイシャドウだ。

 初めての「自分以外の力」で手に入れた道具。

 それを指に取り、そっと瞼にのせる。


今の俺は、一人じゃない。

 この地味で長い修行も、彼らが見ていてくれるからこそ、退屈な時間ではなく「物語」の一部になっている。


「……よし。もうひと頑張りだ。あそこの通路の先に、もう少し強いやつがいるはずだ」


俺は立ち上がった。

 紺色のプリーツスカートを翻し、魔導士の制服を美しく着こなす。

 鏡の中の美少女(俺)が、力強く頷いた。


特別なことは何も起きない、ただのレベル上げ配信。

 けれど、この地道な積み重ねが、いつか俺を、誰も到達したことのない高みへと連れて行ってくれるはずだ。


魔石を拾い、魔力を練り、メイクを直す。

 俺の女装配信者としての日常は、今日もこの薄暗いダンジョンの中で、最高にキラキラと輝いている。


……まあ、同接20人しか見てないんだけどな。

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