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見た目は超絶美少女(中身は俺)。女装コスプレでジョブを扱う探索者、クオリティを限界突破させて最強へ  作者: 折若ちい


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第6話 女子力2.5倍の衝撃 ―― 魔導士の初陣

「えー、こんばんは。御子柴梓です。二日ぶり、かな。みんな、待たせてごめん」


配信開始ボタンを押してから数秒。カクヨムライブの画面には、前回のラストとは比較にならないほど「整った」姿の俺が映し出されていた。

 

 同接数は開始早々に「12」を記録した。

 前回の配信から残ってくれた数人と、掲示板の書き込みを見て何となくやってきた新規のリスナーが数人。細々とした数字だが、俺にとっては十分すぎるほどの大進歩だ。


『!?!?!?』

『誰だこの美少女』

『え、チャンネル間違えた? 梓ってあの中身ピエロの巫女さんだろ?』

『待て、よく見ると顔のパーツは梓だ。……なんだこのクオリティ!?』


「あはは、驚いてくれたなら光栄だよ。前回の配信の後、ちょっと……いや、かなり気合を入れて装備を新調したんだ」


俺は照れ隠しに、さらさらとした質感の新しいウィッグの毛先を指で弄った。

 前回のようなテカテカした安物じゃない。光を自然に反射し、本物の地毛のようにしなやかなダークブラウンのロングヘアだ。

 メイクも、ドラッグストアで粘った甲斐があった。厚塗りをやめ、自分の色白な肌を活かした透明感のあるベースに、目尻を鋭く、かつ可憐に強調したアイライン。

 

 鏡の中の自分を初めて見たときと同じように、画面越しのリスナーたちも困惑し、そして沸き立っていた。


『可愛すぎて脳がバグる』

『あのひょろい男がこうなるのかよ……。メイクって魔法か?』

『衣装も似合いすぎだろ。どこぞの魔法学校の生徒かよ』


「今日着ているのは『魔導士の制服』。この格好をすることで、俺は魔法ジョブのスキルを扱えるようになる。……クオリティも上がったから、ステータス補正は現在、驚異の二・五倍だ」


俺は自慢げに拳を握ってみせた。

 細い腕だが、その中には二・五倍に増幅された魔力が脈動している。

 

「それじゃあ、今日はこの格好で『枯れ井戸の迷宮』のさらに奥――地下一階の隠しエリアに挑戦しようと思う。みんな、準備はいいか?」


俺はドローンカメラを従え、夜のダンジョンへと足を踏み入れた。


『枯れ井戸の迷宮』隠しエリア。

 ここは通常の地下一階よりも魔素が濃く、出てくる魔物も『スケルトン』や『ポイズンラット』といった、初心者にとっては一筋縄ではいかない連中ばかりだ。


湿った空気と、カビ臭い匂い。

 そんな無骨な迷宮の中で、紺色のプリーツスカートをなびかせて歩く俺の姿は、あまりにも場違いだった。


『梓、スカートが汚れそうで見てるこっちがハラハラするわ』

『それ一万以上したんだろ? 破れたら泣くぞww』


「大丈夫。汚れる前に、全部魔法で片付けるから」


強気なことを言ってみる。

 通路の曲がり角を抜けた瞬間、カタカタという不気味な音が響いた。

 

 スケルトンだ。

 錆びた剣を手に、虚ろな眼窩に赤い火を灯した骨の戦士が三体、こちらを認識して一斉に走り寄ってくる。


「……ふぅ。よし、いくぞ」


俺は右手を前方に突き出した。

 以前の俺なら、三体のスケルトンに囲まれた時点で詰んでいた。だが、今の俺には「ジョブ」がある。


「ジョブスキル――『マジックミサイル』!」


突き出した指先から、青白い光の弾丸が三つ、流星のような軌道を描いて放たれた。

 

 ドォン! ドォン! ドォン!


光の弾は寸分違わずスケルトンたちの胸板を撃ち抜き、その衝撃で骨の体は粉々に砕け散った。

 一撃。それも、詠唱すら必要としない無造作な一撃だ。


『は!? 今の威力が二・五倍の効果か?』

『エフェクトが巫女の時と全然違うぞ!』

『動きが完全に魔法少女のそれなんだが……w』


「すごい……。本当に、念じただけで魔力が形になる……!」


俺自身が一番驚いていた。

 巫女の時の『破邪の矢』は、どこか肉体的な疲労を伴う感覚があった。だが、魔導士ジョブは違う。頭の中に広がる魔力のプールから、必要な分だけを汲み出して放出するような、極めて洗練された感覚だ。


二・五倍の補正は、単なる数値以上の万能感を俺に与えていた。

 

 さらに奥へ進むと、今度は天井から巨大な蝙蝠、『ジャイアント・バット』の群れが襲いかかってきた。

 その数、十体以上。


「囲まれた……? いや、ちょうどいい。防御魔法のテストをさせてもらう」


俺は慌てず、自分の周囲に魔力の障壁を展開するイメージを浮かべた。


「『マナシールド』!」


俺の体を包み込むように、半透明の光の球体が現れる。

 蝙蝠たちが鋭い牙を剥いてシールドに衝突するが、キンッという硬質な音を立てて弾き返されるだけだ。


「……完璧だ。これならダメージを一切受けない」


シールドの中で、俺は少しだけ余裕を持ってウィッグの乱れを確認した。

 激しく動いてクオリティが下がれば、このシールドも一瞬で消える。

 だからこそ、今の俺は戦闘中であっても「美しくあること」を最優先に意識している。


背筋を伸ばし、顎を引き、スカートの裾が乱れすぎないように気をつける。

 その「意識」そのものが、シールドの輝きをさらに強めていた。


『何この配信ww 戦闘してるはずなのに、主がモデル歩きしてて草』

『お、よく見ろ。シールドの強度が上がってるぞ』


「はぁっ!」


俺はシールドを解除すると同時に、至近距離でマジックミサイルを連射した。

 蝙蝠たちは次々と撃ち落とされ、部屋の中には魔石だけが残った。


一時間ほどの探索で、俺は隠しエリアの魔石を大量に回収した。

 バイトの給料日を待たずとも、この魔石を換金すれば、次回の衣装代の足しにはなりそうだ。


「ふぅ……。そろそろ一旦戻ろうかな。魔力も少し減ってきたし」


俺がカメラに向かってそう言ったとき。

 

 ズゥゥゥン……!


ダンジョンの奥底から、重苦しい地鳴りのような音が響いた。

 隠しエリアのさらに奥、封印されていた扉がゆっくりと開く。


現れたのは、これまでの魔物とは明らかにプレッシャーが違う、一体の魔導士の亡霊だった。

 『レイス・メイジ』。

 ボロボロのローブを纏い、空中に浮遊しながら禍々しい杖を掲げている。


『おい嘘だろ、あいつ出現条件があったのかよ!』

『レイス・メイジってDランク上位のボスだぞ! 梓、二・五倍でもキツいって!』

『逃げろ! 魔法職同士の撃ち合いは、経験の差が出る!』


同接数がじわじわと増え、ついに「20」に達した。今この配信を見ている全員が、画面の前で固まっているのが伝わってくる。


レイス・メイジが杖を振ると、部屋の温度が急激に下がった。

 黒い炎のような魔力が螺旋を描き、俺に向かって放たれる。


「っ! 『マナシールド』!」


咄嗟にシールドを展開したが、黒い炎が激突した瞬間、シールドにパキパキと亀裂が入った。

 衝撃がシールドを突き抜け、俺の体を揺らす。


「くっ……重い……!」


俺は膝をつきそうになった。

 その拍子に、せっかく固定していたウィッグが少しだけ前にズレ、前髪が視界を遮る。


【警告:女装クオリティが低下しています】

【総合女装クオリティ:C- ➡ D+】

【ステータス補正:+2.5倍 ➡ +1.8倍】


「あ……。まずい……!」


魔力の出力がガクンと落ちる。シールドの亀裂がさらに広がり、今にも砕け散りそうだ。

 目の前では、レイス・メイジが追撃の魔法を準備している。


『梓! ウィッグ直せ! メイク直せ!』

『早くしないと死ぬぞ!』

『同接20人、全員がお前の「お色直し」を待ってるぞ!』


「……みんな、見ててくれ。俺はもう、負けないって決めたんだ!」


俺はシールドを維持する右手を震わせながら、空いた左手で懐からコンパクトミラーを取り出した。

 

 迫り来る死。

 砕け散る寸前の障壁。

 そんな絶望的な状況下で、俺は鏡の中に映る「自分」を睨みつけた。


ズレたウィッグを片手で力強く押し戻し、乱れた前髪を指先で整える。

 さらに、昨晩死ぬほど練習した「決めポーズ」を意識し、不敵な笑みを浮かべる。


「俺は――世界で一番、強い美少女(俺)になるんだよ!」


カチリ、と何かが噛み合った音がした。


【女装クオリティ:急上昇を検知】

【「究極の自己陶酔」を検知しました】

【総合女装クオリティ:Cランク(安定)】

【ステータス補正:+2.5倍 ➡ +3.0倍!!】

【特殊ジョブスキル『メテオ・ストライク(簡易)』を一時解放しました】


「いっけえええええええ!」


俺の頭上に、巨大な光の渦が発生する。

 シールドを突き破って放たれたレイスの魔法を、その渦がすべて飲み込み、さらに巨大な光の塊となってレイス・メイジへと降り注いだ。


ドォォォォォォォン!!


隠しエリア全体が白光に包まれ、亡霊の悲鳴すらも光の中に消えていく。

 光が収まったとき、そこには焦げた床と、一際大きく輝く紫色の魔石だけが残されていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


俺は、乱れた呼吸を整えながら、再びカメラの前に立った。

 ウィッグは……よし、完璧に固定されている。

 メイクも……汗で少し艶が出ているが、それすらも「計算通り」に見えるほど、今の俺は自信に満ち溢れていた。


『…………凄すぎる。』

『一瞬、本当に本物の魔法少女に見えた』

『悔しいけど、めちゃくちゃ格好いいな』


「……みんな。応援、ありがとう」


俺は、少しだけ恥ずかしさを残した、けれど堂々とした仕草で、スカートの裾を摘んで一礼した。

 

 五万三千円の自腹と、男としての尊厳を天秤にかけた戦い。

 その結果、俺が得たものは、ただの魔石以上の「何か」だった。


「次は……もっと高い化粧水、買おうかな」


ポツリと呟いた俺の言葉に、配信画面は「20人」のリスナーによる温かいツッコミと賞賛のコメントで埋め尽くされた。

 

 御子柴梓。二十歳。

 最強の美少女への階段を、俺は今、全速力で駆け上がっている。

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