表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見た目は超絶美少女(中身は俺)。女装コスプレでジョブを扱う探索者、クオリティを限界突破させて最強へ  作者: 折若ちい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/8

第5話 美少女への道は、バイト代を削ることから始まる

「……よっし、やっと審査が通ったか」


六畳一間のアパート。ダンジョンから帰宅した翌日の昼下がり、俺はスマートフォンの画面を見て、深いため息と小さな喜びを同時に吐き出した。

 カクヨムライブの配信収益化審査。切り抜き動画が掲示板で話題になったおかげで、ようやく通過の通知が届いたのだ。


俺は震える指で管理画面を開く。

 先日の『ジャイアント・ラット』討伐配信で得た、リスナーからの投げ銭の合計額。

 ……一〇二〇円。


「……少ない。これだけか」


いや、冷静になれば当然だ。同接が数人しかいない弱小チャンネルに、そんな大金が転がり込むはずがない。

 だが、この一〇二〇円を稼ぐために、俺はダンジョンで泥水を啜り、ウィッグをズラし、ピエロのようなメイクで死線を潜り抜けたのだ。


「この金だけじゃ、まともなウィッグ一つも買えないな」


俺は決意を胸に、自分の財布の中身を確認する。

 そこに入っているのは、コンビニの夜勤バイトで必死に貯めた、次月の家賃と食費を合わせた全財産。五万三千円。

 これを崩して、今の安っぽい巫女服と百均コスメから脱却しなければならない。


「ここでケチったら、ステータスもゴミのまま。探索者としても、配信者としても、一生底辺のままだ」


俺は財布を握りしめ、アパートを飛び出した。

 目的地は、駅前にある市内最大のドラッグストア、および大型のバラエティショップだ。


自動ドアをくぐると、華やかな香料の匂いと、明るすぎる照明が俺を迎え入れる。

 普段着のパーカー姿で突っ立っている俺は、明らかにこの空間で浮いていた。

 周りには楽しそうに最新のコスメを選ぶカップルや女子高生たち。その横を、ひょろりとした冴えない男が冷や汗を流しながら歩く。


(落ち着け。これは探索者としての装備品選びだ。剣や鎧を買うのと何も変わらない……!)


俺は自分にそう言い聞かせ、まずは『ベースメイク』のコーナーへ向かった。

 先日の配信で「顔が能面みたいだ」「首と色の差がひどい」とコメントでいじられた反省を活かさなければならない。


「ファンデーション……どれがいいんだ。俺のこの青白いというか、不健康な肌に合うのは……」


棚の横にあるテスター用の色見本を手に取り、恐る恐る自分の腕に塗ってみる。

 隣にいた女性客が、不審そうな視線を投げてきた。ひょろっとした男が真剣な顔で自分の腕にファンデーションを塗りたくっているのだ。不審者そのものだろう。

 俺は顔を真っ赤にしながら、その場から逃げるように『スキンケア』のコーナーへ移動した。


(クオリティを上げるには、上塗りの技術だけじゃダメだ。土台そのものを整えないと、ステータス補正の基礎値が上がらない……!)


俺はこれまで適当に済ませていた洗顔を改めるべく、少し高めの泥洗顔料と、保湿力の高そうな化粧水、乳液をカゴに入れた。合計五千円。財布が痛い。


次に俺が向かったのは、バラエティショップのウィッグコーナーだ。

 数千円の安物だった前回のウィッグは、激しい戦闘ですぐにズレるし、質感もテカテカしていて「偽物感」が強すぎた。


「……これだ。高級耐熱繊維」


値札には一万八千円の文字。

 収益の一〇二〇円を足しても、到底足りない。俺は貯金から大きく金を崩す決意をした。

 カードではなく、手持ちの現金を財布から抜き取り、レジへと差し出す。心臓が痛い。これで今月の食費は、完全にカップ麺とモヤシに固定された。


最後に、衣装エリア。

 俺は、ジョブ解放書に記されていた第二のジョブ『見習い魔導士』用の衣装を探した。

 膝丈のスカートに、大きなリボンのついたブラウス。


「……これを、俺が着るのか」


ハンガーにかかった紺色のプリーツスカートを見つめ、改めて自分の境遇に目眩がした。

 周囲に人がいないことを確認し、速攻でカゴに放り込む。


帰宅した頃には、日はすっかり暮れていた。

 机の上には、バイト代を削って購入した戦利品が並んでいる。


「よし。さっそく、特訓だ」


俺はまず、泥洗顔料で顔を洗い、化粧水をたっぷりと染み込ませた。

 肌がしっとりと吸い付くような感覚。これだけでも、なんだかステータスが+1くらいされたような気分になる。


そして、鏡の前に座り、新しいメイク道具を広げた。

 今回は「厚塗り」を卒業し、素肌感を残しつつ、パーツを女性的に寄せる『ナチュラル盛りメイク』に挑戦する。


「アイラインは……目尻を跳ね上げるように……。いてっ、目に刺さった!」


涙目になりながらも、筆を動かし続けた。

 これは修行だ。ダンジョンの素振りと同じだ。

 一時間後。俺は慎重に新しいウィッグを被り、ピンでガッチリと固定した。

 そして、紺色のスカートと、白いフリルブラウスに袖を通す。


鏡の中に立っていたのは――。


「……え?」


思わず、自分の声が裏返った。

 そこにいたのは、さっきまでの「ひょろい男」ではなかった。

 少し気弱そうで、それでいてどこか芯の強そうな、黒髪ロングの可憐な少女。

 もちろん、よく見れば肩幅や男の名残はあるが、パッと見の印象は劇的に変化していた。


【固有スキル『コスプレ・ジョブ』、装備更新を確認】

【着用衣装:魔導士の制服(高品質)】

【メイク完成度:改善(54点 / 100点)】

【総合女装クオリティ:C-ランク】

【ステータス補正:全能力値 +2.5倍!】


「二・五倍……! 一気に跳ね上がったな」


体の底から、巫女の時とは違う、もっと濃密で鋭いエネルギーが溢れてくる。

 これなら、Dランク中位のダンジョンでも十分に通用する。


俺は、自分の細い指先を見つめた。

 この指で、次はもっと強い魔物を倒し、もっと多くのリスナーを驚かせる。

 五万円近い自腹を切った価値は、この二・五倍のステータスに間違いなくある。


「……よし。準備は整った」


俺は、スマートフォンの配信開始ボタンに指をかけた。

 今月の食費はピンチだが、そんなことはどうでもいい。

 鏡の中の「彼女」が、不敵に微笑んでいる。


「今夜の配信、みんなの脳をどこまで破壊できるかな」


俺は深く息を吸い込み、スイッチを入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ