第三章 9 軍神の料理 漆黒の救世主 1
重厚な鎧の擦れる音が、凍てついた空気を震わせる。
村人たちは、恐怖に身を縮めていた。最強と恐れられる軍神ダグラスの荒くれ者の軍勢が突如として山を下り、自分たちの村へと進駐してきたからである。
「……どうか……お、お助け下さい。私たちの村には、差し出せるような財宝も、若い兵も居りません!」
村長が雪の上に跪き、額を地面にこすりつける。その背後では、飢えで顔色の悪い子供たちが怯えた目でこちらを見ている。異様な風景だ。
湊(inダグラス)は、馬(ダグラスの巨体に耐えられる、まるで戦車のような巨馬だ)から降りて、村長を見下ろした。軍神の威圧感はすさまじく、ただ立っているだけで空気がピリつく。
(あーあ。みんなすっかり怖がっているよ、ダグラス。……なんていうかな、もっとこう……優しそうな顔できないの?)
『……ふん。小僧、私の顔は生まれつきこれだ。……それより、目的を忘れるな』
湊(inダグラス)は、膝をつく村長も前に、ゴトリと重い袋を置いた。中身は、昨夜仕留めたボアの肉だ。
「……頭を上げてください。僕たちは、略奪に来たのではありません。……『麦』を売って下さい。……それも貴方たちが食べられないと廃棄している皮が固い質の悪い麦でいいですから」
村長は呆然とした。……言葉遣いがあまりにも丁寧すぎてどうにも気持ちが悪い。言っている内容も理解できないものだ。
「……そ、そのようなものでよろしいのですか?あれは家畜のえさにするか、飢えを凌ぐために無理やり食べるような……」
「構いません……そして、良ければここで料理させてもらえませんか?ボアの肉もあります」
村のあちこちから、家畜のえさにするような、殻の固い「くず麦」が集められた。ダグラス(in湊)は
その麦の中に手をかざした。ジャリジャリと鳴っていたくず麦が、目にもとまらぬ速さで激しく振動し、爆ぜる。
(ねえ、ダグラス。これを細かく粉砕して「全粒粉」にしたいんだけど?)
『……っ、小僧!お前は我が魔力を何だと思っておるのだ⁈……しかし、いいだろう……見せてやろう』
「……うわぁ、すごい!殻が完全に粉になって、香ばしい良い匂いがしてきたぞ!」
広場には黄金色の「粉雪」舞い落ちる。美しい。粗末なくず麦は、軍神の魔法によって、大地の渋味をすべて含んだ極上の全粒粉が出来あっがった。
(ダグラス、細胞レベルでグルテンを叩き出したい。魔法で振動を与えながら超高速でこねて!)
『……っ、全く人使いの荒い小僧だわい』
と呆れながらもダグラスは言う通りにする。
「よし、次はボアの脛と皮を先に煮込んでゼラチンを取り出そう。それで団子を作るんだ。いいぞ」
湊(inダグラス)は持ってきた大鍋で、ボアの脛と皮の一部を煮込み、湯練りの技法を使った。デンプン質を糊状に変化させることで、もちもちとした食感と保水性を両立させる。湊の料理の知恵だ。




