第二章 7 白銀の兵糧と新しい仲間
【学校:校門前 8:15】
お米パワーを全身の細胞に巡らせたダグラス(in湊)が校門の前に差し掛かると、そこにはいつもの「壁」が立ちはだかっていた。
湊を執拗にイジメて、パシリに使っていた不良グループのリーダー阿久津だ。
「よぉ、もやし……今日もいい買い出し日和じゃねえか」
阿久津が湊の肩に手を置こうとした、その瞬間。
「……退け、雑兵!」
「あ……?」
言葉は短く、声量は小さかった。だが、その瞳。
幾多の戦場を切り抜け、幾千の首を跳ねて来た「本物の死神」の眼光が、もやしっ子の湊の瞳の奥から、獲物を射抜くように放たれた。
「ひっ……⁈」
不良の手が、触れる寸前で止まる、いや、恐怖で硬直したのだ。
湊の細い体躯から放たれているとは信じがたい、圧倒的な「暴力の気配」と岩山が崩れ落ちてくるような重圧。
「……貴様のような志の低い者が触れるな。……死にたくなければ、二度とその薄汚い手を私に向けるな」
ダグラスは一歩。ただ静かに足を踏み出した。
不良たちは、まるで人格が変わったような湊の変貌に驚き、慌てて道を開けた。彼らは、湊が通り過ぎるまで、ただ呆気に取られるばかりだった。
「……な、何だよ……今の。あいつ……あいつ本当に藤代か……?」
傍らで事の成り行きを見ていた白河 琴音も驚く。
「……あれって……湊君……よね?」
話し方、態度……全てにおいて全く別人である彼を見て周りの学生も混乱しているようだった。
『ちょっと、ダグラス……止めてよね。変なことしないでよ』
方や脳内の湊は、必死にダグラスに呼び掛けていた。
【学校:屋上 12:30】
場所は変わって、屋上の静寂。
ダグラスは、竹皮を広げた。そこには湊指導の下、軍神の手で作り上げた巨大おむすびが並んでいる。
モグッ、モグッ……。
「うむ……冷めてもこのコメというものは旨いな、湊」
『でしょでしょ?……僕、日本に生まれて良かったって思うもん。……美味しいよね?ごはんって』
一人だが、ダグラスと湊はおむすびの旨さに二人で話を盛り上げていた。
そこへ、ランチボックスと一冊の文庫本を抱えた白河さんが、意を決して、近づいてきた。
『……げ。委員長……白河さんだ』
「……いいんちょ?何だ?……新手の兵種か?」
『……えーと。クラスのリーダーさん。うーんと……部隊をまとめる隊長みたいなものだな』
咄嗟に湊が答えた。
「なんだ。私と同じか?それならば、敬意を払わねばならん」
ダグラスの言葉に湊は黙り込んでしまった。
「……藤代君……今朝からちょっと変だよね?何かあったの?」
朝からの阿久津への態度……そして膝の上のバカでかい握り飯。明らかにいつもの藤代 湊ではない。
「……む、白河隊長か。……見ての通りだ。旨いな、この「おむすび」という食べ物は」
「は?……隊長?……藤代君、一体あなた何の話をしているの?」
「もやしっ子」の藤代 湊が自分を「隊長」と呼び、まるで戦場帰りのような顔で笑っているのだ。
『ギャーッ!! ダグラス……お願いだから黙ってて。普通は隊長なんて呼ばないんだよっ!……話がややこしくなる』
(黙れ、小僧!……規律を重んじる者同士、挨拶を交わすのは当然の礼儀だ)
ダグラス(in湊)は更に一歩、白河さんに歩み寄り、残った握り飯を差し出した。
「白河隊長……貴殿の部隊の平穏は、この私が保証する。……貴殿もこの「コメ」の確保に協力して欲しい」
「……ねえ、藤代君、あなたそのおむすび……ひょっとして何か変なものが入っていた?それともどこかで頭を打ったとか……」
「案ずるな、隊長……私は大丈夫だ……食べなさい。元気が出るぞ」
執拗に勧められるままに、白河さんは恐る恐るその巨大なおむすびを口にした。
はらはらと崩れる米粒。空気を含んだそのおむすびは柔らかく軽いものだった。
舌の上で優しく溶け解ていく感覚。
言葉が出ない。彼女が今まで「おにぎり」だと思っていたものと根本から次元が違っていたのだ。
「……おいしい……藤代君、これ……信じられないぐらい美味しいわ」
彼女は心からの賛辞を贈った。
ダグラスは満足げに鼻を鳴らした。湊もはらはらしながら……自分の料理が認められたことに小躍りして喜んでいたのだった。
試行錯誤しながら、頑張っています。




