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英雄、家事野郎に転身しました~中身は主婦系男子の派遣労働~  作者: AKIRA


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第一章 5 雪山でのボアシチュー

 幕屋の中に、冷たい雪の香りが混じった獣のにおいが立ち込める。湊(inダグラス)は、兵士たちが担ぎ込んだボアの幼体の前に膝をついた。


『……小僧。その獲物は、まだ温かい。冷える前に「筋」を外せ』


頭の中のダグラスの指示と同時に、湊は軍用ナイフを逆手に取った。ダグラスの身体が持つ、戦場での「急所を断つ感覚」が港の「食材の構造を見極める知識」と重なる。


1:まず首すじの太い血管を最小限の刃渡りで断ち、鮮度を保つために素早く血を抜く。

2:硬い皮を剥ぎ、現れた淡い桃色の肉。湊は特に動かさない「首裏の脂肪層」とコラーゲンが豊富な「関節の結合組織」に目をつけた。

3:湊はダグラスの「闘気」を指先に集中させ、肉を叩く。細胞を壊さず、しかし熱を瞬時に内部へ通すための予備加熱だ。


(さて……この脂を、まずは鍋の底で「抽出」するんだ。それが、すべてのべースになる)


次に湊が手に取ったのは、不気味に青光する「地底茸」だ。これには、熱でも分解できない「水晶毒」が含まれている。


1:湊はダグラスの鋭い視力を使い、傘の裏にある独法の脈動を見切る。

2:鍋の縁を小石でリズミカルに叩く。ダグラスが身体を通じて送る微細な振動が、キノコの中の毒液だけを表面へ浮き上がらせる。

3:焚き火から出た「広葉樹の灰」を眩し、吸着した毒素を水で洗い流す。


いよいよ大鍋に火が入る。

鍋の底に、先ほど切り分けたボアの「背脂」を敷く。熱で脂が溶け出し、バチバチと音が鳴り始めると、刻んだ地底茸を一気に投入。

茸が脂を吸い込み、キャラメル色に変わった瞬間、雪を固めた氷の塊を投げ込む。

やがて、大鍋の湯気が、幕屋の天井を白く染めていく。


湊は、ボアの濃厚なスープを見つめながら、最後の「決め手」を求めていた。


(……ダグラス、やっぱり塩味が足りないや。このままだとみんなの身体に活力が戻り切らないよ)


『……案ずるな、小僧。我らが「本気」でこの鍋に向き合っていることは、此処にいる全員に伝わっている』


湊が静かに視線を向けると、そこにいた敵兵たちが、いつの間にか身を乗り出すようにして、大鍋を見つめていた。彼らの瞳には、捕らえられた恐怖ではなく、「同じ釜の飯を食った者」として、かつてない「敬意」と「希望」が宿っていた。


「……ダグラス殿、これを……使ってくれ。俺たちが持っていた最後の中身だ」


彼らは懐から小さな革袋を差し出した。中には鈍く光る「岩塩の塊」と保存用のカチカチに乾燥した「塩漬けの干し肉」が入っていた。湊はそれを無言で受け取った。


それは、単なる調味料ではなく、敵兵たちが「ダグラスの指揮するこの食卓」に自分たちの命を預けると決めた、降伏ではなく「信頼」の証だった。


湊は岩塩をナイフの柄で砕き、大鍋にへ放り込んだ。一瞬でスープの輪郭が引き締まり、脂の甘みが際立っていく。

次に刻んだ欲し肉を投入すると、熟成されたアミノ酸がスープに溶け込み、即席とは思えないほど深みのある味わいになったのだ。


(……有難う……最高のスープにするからね)


湊の心からの感謝が、ダグラスの低い声を通じて幕屋に響いた。


乱世の中「白濁のボアシチュー」は、敵味方分け隔てることなく、平等に分けられた。

雪山の暗闇の中、誰もが「明日も生きたい」と願いながら、温かいスープを啜る音だけが響いたのだった。

さて、第一章終わりです。

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