第一章 4 雪山の夜明け
「生きることは食べること」それは「何を食べるか」ではなく「どう食べるか」がその人の魂を決める。
夜明け前の幕屋の中、湊(inダグラス)は空の大鍋の底にこびりついた、わずかな脂の跡を見つめていた。腹の虫が鳴り、兵士たちの視線が「次」を求めて自分に集まっているのを感じる。
『……おい、小僧。現実を見ろ。昨夜は敵まで食わせた。今、この陣営には食料一かけらもない……次の「補給」が無ければ今日中に全滅だぞ』
ダグラスの冷たい指摘に、湊は空の鍋を握りしめる。
(……分かっているさ。でも、昨日食べたみんなの身体には、まだ熱が残っている。今なら……動けるはずだ。ダグラス……貴方の知識を貸して。この近くで、冬眠し損ねた獲物が居そうな場所とか……)
『……仕方ねえな。確率は低いが……この崖下の「地熱が沸く岩場」を探せ。そこなら寒さを凌いでいる獲物や地底茸があるやもしれん』
湊は即座に、まだ空腹で青ざめている部下たちの顔を見据えた。
「……みんな聞いて!……この下の岩場に、僕たちが今日を生き抜くための『食材』があるかもしれないんだ。……信じてくれるなら、僕と一緒に来て欲しい」
いつもの隊長の言葉づかいではない。しかし、兵士は、昨夜のスープの「奇跡の味」を思い出していた。
「そうだ!隊長の言う通りだ!このまま空の鍋を見つめていても死ぬだけだ!」
彼らは、空腹を「希望」に変えて、吹雪の中を駆け出して行ったのだった。
数時間の死闘の末。
兵士たちは湊(inダグラス)が指示した通りの岩場で、寒さに震えていた「フロストボアの子供」を仕留め、生えていた「地底茸」を搔き集めることが出来た。
「……た、隊長……!やりました……!これで、これで鍋を……」
雪にまみれ、息を切らして戻った彼らの手には、確かな「命」があった。
湊は震える手でそれを受け取り、ようやく焚火の上の鍋に火を入れた。
(……有難う……さあ、これからが僕の戦いだ。最高に美味しいものを作ってあげるからね)




