表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄、家事野郎に転身しました~中身は主婦系男子の派遣労働~  作者: AKIRA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/14

第一章 3 英雄の食卓、 戦場の均衡

 雪山の断崖絶壁に広がる、頼りない幕屋。外では猛吹雪が吹き荒れ、数国までは「敗残兵の墓場」だった場所が、今は奇妙な沈黙に包まれていた。


「……隊長、もう一口、いただいてもよろしいでしょうか?」


副官が縋るような目で見つめる。湊(inダグラス)は、その視線を受けるたびに、胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚を覚える。ダグラスの強靭な肉体と、湊の繊細な感受性が混ざり合っていた。


「……ああ……ゆっくり食べな」


湊が念じると、ダグラスの巨体は驚くほど優雅な仕草で器を差し出した。

その時、ふいに幕屋の外がざわめいた。


『……小僧、警戒しろ……獣ではない。人の気配だ。それも訓練された「軍」の足音だ』


脳内のダグラスの声が鋭く響く。湊の身体が意識するよりも早く、戦士の反射で立ち上がる。その動きは無駄がなく、恐ろしいほどの威圧感を放っていた。


幕屋の布を少しだけ開けると、そこには敵軍の鎧を着た五人、寒さと飢えでふらつきながら立っていた。彼らは自分たちの「味方」を見失い、追い詰めたはずのこれまた瀕死のダグラス軍に遭遇して、複雑な顔をしていた。


彼らは剣に手を掛けたが、振るう力はもう残ってはいない。そして、彼の背後から漂う温かな、美味しそうなにおいが、彼らの指を止めさせた。


「……なんだ、この匂いは」


偵察兵の一人が、ゴクリと喉を鳴らす。戦場で生きる者にとって、温かい食事の香りは、時にどんな武器よりも強力な誘惑だ。


『……愚かな。ここが死の地であることを理解せぬか……』


最初に対峙した時、彼らの瞳は飢えと狂気で濁り、もはや人間を「同胞」ではなく「食料」として見つめ始めていた。

しかし、漂う魔獣の骨から出た濃厚な出汁の香りは、彼らに「理性」を戻したのだった。


湊が何も言わず、差し出したスープ。そこには、ただの肉の出汁ではなく、(誰かが手間をかけ、技術を尽くして美味しくしようとした湊の意思)が込められていた。


敵味方関係なく兵士たちは、熱い脂を啜りながら、声をあげて泣いた。


凍った脛肉という、戦場で最も粗末だったはずの部位が、湊の手によって「人間であるための誇り」を繋ぎ止める一杯に変わったのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ