第五章 22 雪原の追跡 野生の脂(ボア)
蟹の出汁を取った後、湊(inダグラス)は数名の動ける兵士を連れ、村の境界にある森へと足を踏み入れていた。
(ねえ、ダグラス、今の兵士たちにはもっとタンパク質とエネルギーが必要だよね。蟹の旨味を吸い込んで、なおかつ負けないぐらいの……あ!)
ダグラスの鋭い視力で見つけたのは、雪を掘り返した後と、粘り気のある泥が付着した樹皮だった。
『……ふむ。牙の高さからして、かなりの大物だな。ボアか……小僧、奴らの脂は甘く、この寒さでさらに厚みを増しているぞ』
湊は、ダグラスの身体を使って音もなく風下へと周りこんだ。目の前には、小型の馬ほどもある、黒い剛毛に包まれた巨躯のボアが、氷蓮の根を求め泥地を掘っていた。
『……一撃で仕留めねば肉が不味くなる……小僧、呼吸を止めろ!』
湊が動かす心臓が激しく鼓動するが、ダグラスの冷徹な精神力がそれを抑えている。ダグラスは軍刀を抜き放つと、魔力によるブーストを足にかけて、雪を爆ぜさせて跳躍した。
__ザシュッツ!!
ボアが異変に気付く暇も無かった。急所である延髄を一突き。巨体は声も上げすに雪の上に崩れ落ちる。
(すごい……。ダグラス、この肉があれば、鍋は完ぺきだ)
湊(inダグラス)は、手際よくその場でボアの血抜きをして、手近かな大枝を担架代わりにして村へと引きずり戻った。
広場で待っていた兵士たちが、巨大な獲物を見て歓声を上げる。
「ダグラス様がボアを仕留められたぞッ!」
「見てくれ、あの見事な脂の乗りを……!今日の俺たちは神に愛されているな」
湊(inダグラス)は、持ち帰ったボアの肉を厚めにスライスして、熱した平たい石の上で表面だけをサッと炙った。焼き目がつき、香ばしい脂の匂いが立ち込める。
(よし、そのまま蟹出汁の鍋に一口大に切ったボアの肉を放り込んで!脂がスープに溶け出して、氷蓮に絡むんだ……完璧だ)
黄金の出し汁、白い氷蓮、そして脂ののった美しいボアの肉。
全てのピースが揃ったのだった。




