第四章 15 現代 軍神の厨房 白河隊長と生姜焼き
「おおっ……この『ショウガ』なるものは……先ほどの『味噌』の地とはまた異なる、鋭く覇気を秘めておるな」
ダグラス(in湊)はショウガの塊を眼光鋭く睨みつけた。彼の前には、等間隔に寸分の狂いもなく並べられた豚のロース肉。そして、磨き上げられたフライパン。
「藤代君……そんなに怖い顔でお肉を見つめなくても……お肉が委縮しちゃうわよ」
傍らでクスクス笑うのは、クラスメイトの白河さんだ。彼女の友達のサキも一緒だ。屋上ですっかり仲良くなった白河さんと今日は湊の家で夕食を作ることになっていた。(湊の豹変を心配して買い物につきあい、メニューを決めたのも白河さんだ)
「白河隊長……料理とは戦だ。……火力の制御、投入のタイミング……一瞬の油断がこの料理を台無しにさせるのだ」
「ふふっ……相変わらずね。……でも、藤代君がそんなに真剣なら、私も張り切らなくっちゃ」
サキも湊のエプロン姿を見て、あまりの似合わない格好に笑っている。
「ねぇ、湊。アンタ昨日、阿久津を指一本で黙らせたって本当なの?怖くなって、ついてきたんだけどさ」
どこ吹く風といった面持ちで、ダグラス(in湊)は、おろし金を手に取った。面倒な作業だが、彼にとっては新しい玩具である。
脳内の湊が使い方を指示して、ダグラスがその通りに動いている。シュッシュッ、と高速かつリズミカルにおろし金が動く。湊の細い腕が、ダグラスの精神力によって限界まで効率化され、精密機械のような動きを見せる。
「……すご……。……藤代君、なんだか別人みたい……」
「だよねぇ……」
(……む。……ヤバイ)
脳内の湊とダグラスは一瞬動揺した。……しかし、この事態は本人たちだけではどうすることも出来ないのだ。
ダグラス(in湊)は、平静をよそおいながら、すりおろしたショウガに醤油、酒、みりんを調合していった。実際に比率を出しているのは湊。二人の共同作業である。
フライパンが熱せられ、薄く脂が引かれる。
「……白河隊長……これより作戦を開始する」
「えっ、あっ……はい」
ジューッ‼ という景気のいい音と共に、豚肉が投入された。ダグラス(in湊)は肉の色が変わる瞬間をじっと見極めている。
「……今だ。肉の表面が変化するとき……」
合わせ調味料を一気に流し込む。醤油が焦げる香ばしい香り、ショウガの爽やかな刺激が湊の家の台所から漂ってきた。
「……んんっ、……いい匂い!藤代君、これ……絶対美味しいよ……」
「……すご……湊、アンタ……いつからそんなに料理上手くなったの?」
白河さんが、思わず身を乗り出してフライパンを覗き込んだ。
サキも、思わず毒舌を忘れて見入ってしまう。
その横顔を見つめ、ダグラス(in湊)は、異世界の戦場では決して得られなかった「平穏な達成感」に、胸の奥がわずかに熱くなるのを感じていた。
「……うむ。白河隊長、魔法の箱の具合はどうだ?炊き立ての兵糧の準備は……整っておるか?」
一切れずつ、小皿に乗せてダグラス(in湊)は二人に差し出した。
「……‼」
白河さんとサキが同時に叫んだ。
「美味しいッ!……お肉が……脂が甘いっ⁈」「ご飯、ご飯っ!」
結局、二人は一口のつもりが「止まらない!」と大騒ぎをしている。
ダグラスと湊は、満足げに鼻を鳴らした。
(やったね!ダグラス!)




