第三章 14 150人の笑顔
「……ようし。……これなら、全員分タップリありますよ。さ、遠慮しないで!」
湊(inダグラス)の声が、雪山の静寂を温かく切り開く。
大鍋の中では、醤油麹でもみ込まれ、魔法で極限まで柔らかくなったスノーベアの肉が、飴色の味噌スープの中で誇らしげに踊っている。
血抜きを徹底し、野菜の皮で臭みを吸着させたその肉からは、獣特有の嫌な臭いは微塵もしない。
代わりに、発行した大豆の芳醇な香りと、雪下人参の甘みが混ざり合った、美味しい匂いが立ち込めている。
ダグラスの部隊、敵残党兵たち、そして村の住民たち。村人たちが持ち寄ったそれぞれの器に、琥珀色の肉入りスープが満たされていく。
「……っ、な、なんだ!この柔らかさはっ!これが……あの硬くて臭いスノーベアだというのかっ!」
一人の敵兵が、震える手で肉を口に運び、絶叫した。
噛んだ瞬間、醤油麹の効果で繊維がホロリとほどけ、中から閉じ込められていた肉汁と味噌のコクが溢れ出す。
「脂が……脂が甘い……スープを吸ったこの芋も、……人参も……信じられないほど味が濃い……」
隣では、ダグラス軍の兵士たちが「生きてて良かったなぁ……」と呟き。器を両手で包み込んでいる。
かつて戦場で殺し合っていた男たちが、今は同じ鍋を囲み、同じく舌鼓を打っている。
彼らは同じ「旨い」という感情だけで繋がっていた。
(……よかった。全員にいき渡ったね、ダグラス……これなら、もう誰も戦う必要なんてないはずだよ)
湊(inダグラス)は、お玉を置いて、湯気の向こうで笑顔を見せる人々に目を細めた。
『……ふん、小僧め。……剣で150人を制圧するのは容易いが、……これほどまでに深い「心服」を引き出すのは……我には出来ぬ芸当よ』
ダグラスの言葉には、どこか満足げな響きがあった。
最強の隊長は今、破壊の力ではなく、人を生かすための「火」を操ったことに、奇妙な高揚感を覚えていた。




