第三章 12 スノーベア、胃袋に捧げる狩猟
敵味方の兵士たちが、まるで取りつかれたように雪深い森へと消えていった。
後に残ったのは、温かい団子汁で人心地ついた村人たちと、大鍋の前に立つ湊(inダグラス)だけだ。
(……ふぅ。みんな、あんなにやる気を出してくれるなんて。ねえ、ダグラス、次の料理を作る前にさ、『これ』を何とか出来ないかな?)
湊(inダグラス)は、先ほど溜まり醤油を漉しとった後の石壺の底を、木のスプーンで慎重に浚った。そこには大豆の粒が形をのこしたまま、深い飴色に発酵したどろどろの塊__醤または「味噌」のようなものがたっぷりと沈殿していた。
『おい……小僧。……それはさきほどの「漆黒の雫」よりも、さらにいい香りがするな……まるで大地の精霊たちが集まって凝縮されたような、力強い香りだ』
(うん、そうだね。醤油が「華やかな香り」なら、これは、また一段と「深いコク」が加わったみたい。……さらに美味しいものが作れるかもね)
「あのぅ……ダグラス様……」
おずおずと声を掛けてきたのは、先ほど団子汁を食べていた村の老婆だった。彼女たちの目にはもう、恐ろしい「軍神」への怯えはない。自分たちを飢えから救ってくれた、不思議な慈愛に満ちた守護者への信頼が宿っていた。
「……料理に是非使って下され……今年の冬は特に厳しく……これぐらいしか残っていませんが、雪の下に隠しておいた野菜です」
彼らは、乏しい食料からわざわざ少ないながらも食材を持ち寄ってくれたのだった。雪下人参、泥付きのネバネバした芋や小さな蕪、乾燥させた保存食の山菜たち。
(……すごいや!これで、どんな料理が出来るかな?)
湊(inダグラス)はこの食材たちを無駄にせずに、いかにして美味しい料理をするか考え始めた。
やがて、遠くの森から地響きのような咆哮と、男たちの雄たけびが聞こえてきた。
うおぉぉぉぉぉぉっ!!
声のする方向を見ていると、ダグラスの兵と敵兵たちが、互いに肩を貸し合い、太い蔦で編んだ即席の網を引きずって戻って来るではないか。
その網の中には、村の小屋ほどもある巨大は「スノーベア」が、なんと三頭も仕留められていた。
「はぁ、はぁ……!ダグラス殿、取ってまいりましたぞッ!」
「一番でかいのは、俺たちが仕留めたんだ」
敵兵たちが笑っている。本来なら一頭仕留めるにも小隊が全滅しかねない魔物、それを空腹と「醤油への渇望」に突き動かさた兵士たちは、危険も顧みずに三頭も狩りつくしてきたのだ。
(うわーっ‼……すっごいや……本当に獲ってきちゃったんだね。……ねぇ、お願いダグラス、解体を手伝ってね)
『おうよ、小僧。ちょいとばかし、下処理が面倒なんだが……見せてやろう。私の力を』




