nAmBAr.00-20「星の少女」
10秒と5秒の間で揺れる内、台座が光を強く持ち始めた。来る、今度こそだ。私はローニャの方を見やる、ローニャもこちらを強く見て頷いてくれている。始まる、長らくお預けだったフラワー未遂に次ぐ儀式の到来だ。空間の裏返り、と称して来た物より激しく強烈な転移現象に巻き込まれながらも、私は台座を強く持ち離さない様にしていた。ローニャもそれは同じ様で、私を種子凍結の道に導くまいと言う強い意志が伝わって来る。その強い決意に私は感謝しながら、次の世界への扉を二人で開けに行ったのだった。
始まったのは、無だった。何もない、そこに居ろ、と言う事なのか。ただこれは宇宙空間のただ中だ、普通この状況に置かれたら即時死亡、試練としては有り得ない純度の高難度シチュエーションと言える。それでも我々は死に至っては居ない、思考は出来る、手足も動かせる、五感で知覚出来る。特殊な守護の元、我々の居る領域は厳として存在していると言う事らしい。
「うっぷ、これ分かってても自分死ぬんじゃ…? って意識に飲まれそうになるね。あたかも深海に急に転移させられた様な感覚。フラワー未遂であった小宇宙なんてもんじゃない、ガチ宇宙って奴だ。それとあのフレイムシュートであーし達を守ってくれた心音の繋がりが常に機能している感じだね。それが尽きたらこれ冗談抜きであの世行きだよ…元々あの世に居た様なあーし達が言う様な事じゃ無いかも知れないけどさ」
「ああそうなんだろう、俺の方も心音の高鳴りがひしひしと感じられる。俺単体でもお前単体でもこの均衡は崩れるんだろうな」
言いたい事はアンテナの少女ローニャが全部言ってくれた。極寒かつ空気も無い宇宙、我々は霊体と言う物でも無くそれでも生理現象の必要性の弱い半生命とでも言うべき存在だが霊体然として宇宙空間を何の不自由も無く揺蕩うとまでは自由は利かない筈で、その意味で心音のハーモニーと言う追加要素無しでは深海で溺死するとでも言うべき瞬時の生命の閉塞が待って居るだろう。私は、生命を繋げる為にここに居る、生命を投げ打ちに来た訳では無い。何とかこの漆黒の深海に於いて不格好な魚を演じ切り、元居た異空間に帰らねば。
「それにしても地球って綺麗だねー。子供の時分に図鑑で見た記憶は有るけどもそんなんじゃ言い表せない煌めきと美しさに満ちている。そんな所でミサイルとかシェルターの心象を持って居たイバの心の在り様に疑問を抱きたくなる位の圧倒的な光景だなん…うっとり…」
ローニャはこんな状況でも余裕を見せて地球鑑賞を楽しんでいる。それ位で丁度いいのかも知れない、我々はここにある種祝福を受けて存在している、ここに居てもいい、この煌びやかな星々のただ中で生命を謳歌していい、そんな喜ばしい許しの下、死の予感に怯え時間が過ぎゆくのをひたすら待つと言う様な次善策は愚行と言えるかも知れない。
「ああ、本当にな」
私は、星の冠を頭に抱いたローニャの本当の立ち位置がここである様な気がした。だから今の言葉は、本人が気付く事は無いだろうが半分ローニャ宛だ。




