nAmBAr.00-11「二人でのV」
再度放置プレイ状態だった台座の方に向き直る我々。如雨露の再発現が未だ無いのを見るに、擬人化した言い方をした場合の我慢の限界とまでは来て居ないのだろう。もしかして再発現が有ったとしてもまた触れば空間の裏返りのフェイズに入ってくれるのかも知れないが何事も慎重にするに越した事は無い。
「ローニャ、話がまとまった所で早速台座に触って欲しいんだがいいかな。そろそろ如雨露が顔を出しそうな気配もある気がしてるしな。失敗が何度も許されるとも思えないし」
「そうだね、あーしも同感だよん」
二人して触り始めた。間に合った、と言う事なのか、また裏返りの兆候としての空間の騒めきが我々を包み出した所でローニャが切り出した。
「時間的猶予の許容範囲が不明な中であーしも手を放したのは或る種賭けだったんだよね。ニパ君の気持ちを聞いた所で選択肢を選ぶ時間が完全にシャットアウトになって聞き出した事実関係が無に帰する危険性もあった。実際口喧嘩なんかしてたらそれを何処かで妥協して中断しない限り二人とも種子凍結の道に行かざるを得なくなってたんじゃないかなん。それでも触ってからにしたかったのはやっぱりあーしの本気度をニパ君に伝えたかったから。
それと、自殺なんて強い言葉で驚かせちゃったね。私にはまず一個の監視者としての立場が有ったから、ガトー君がこれは完全にそぐわないなって素振りを見せたらそうする様に義務付けられていたんだよ。これは私だけじゃなく、一番手の初恋としての幻影存在全体の話だろうだけどね」
「私? それに俺の本名ネタまで」
今の後半の下りでのローニャは妙に目線を尖らせていた。まるで女主人公の英雄譚の中でその人物が見せる表情を演じているかの様だった。
「そう、ちょっと本気度昂って来たんでダイアとしての一人称で頑張ってみました。どう? カッコいい? 惚れ直したかなん?」
うっ、自覚的になったばかりの所で惚れた腫れたの部分を突っつかれるのは参るな。ここは平静を装って彼女の言い分を流す自分を演じる。
「まああんまり慣れない感じでコケそうになるんでなるべく通常モードで居て欲しいかな、とは思う」
「そっかー。あ、コケコッコー懐かしいね、こんな感じでさ、両手をVの字に上げてやる奴」
そう言いながらまさかまた台座から手を放すんじゃないかと思ったが、彼女は空いている左腕だけで半分のVの字を作っていた。補う為か指先でピースサインを作っているが、もう、この空間裏返りをキャンセルして後に戻る事は無いと言う象徴的なポーズだった。片方だけのV、もう片方を作るのは私だな、と言う事で私は自分の右腕で応じそうになったが絵面的に間抜けなので心の中でだけで留めて置いた。Victory、それが有るとするならば。人の字は二人の人が寄り添っている字形、と言う話では無いが、Vの字の片方の斜線ともう片方のそれを二人で作り、そして手を繋いで全身全霊前進あるのみだ。




