nAmBAr.12「如雨露の台座」
私が何も分からないままローニャの警戒態勢が続く中で、私は不甲斐なさを感じつつも彼女の頼もしさに一目置いていた。私の心音の使い処はここでは無い、と言う事なのだとしてもだ。申し訳無さで一杯になる。私の代わりに神経を擦り減らし、神妙な面持ちをしている。頭でも撫でてやりたいな、と思ったがそれはそれでおかしな自己欺瞞か、私は彼女の気持ちを知っている訳では無い。そんな事でいちいち関係修復が困難な事態を招くのも賢い判断では無い、それに頭のお星様群が邪魔で撫でるとこまでなかなか行けないかも知れないしな…などと自分を誤魔化していると、来た。鈍い私の感覚にも、はっきりとした違和感が。
「あっ…」
ローニャの一声。彼女は何やら指差している。見ると、前方に台座の様な物が出現している。ここまで決定的な正体を感知するまでにも何かを察していたローニャの在り様は全く以って正しかった、と言う事の裏付けの様で自分の事みたいに嬉しくなった。だが嬉しがってなど居られまい、これは何らかの門扉、異常事態の始まりを知らせる警鐘に過ぎないのだから。
「行こう、ニパ君。もう事が始まっているのかも知れないから、慎重にね」
「ああ、分かった」
恐る恐る我々は接近して行く。手に汗握る状況とはこの事か。今までの19.9からと9.9からの異空間はもう異空に飲み込まれた時点で事が発生したので或る意味で諦めの境地が有った。だが今回は自らの歩幅、歩むペースが状況変幻のきっかけを作る。否応にも躊躇いの心境が生まれているのが分かった。だが二人三脚とでも言うか、勇敢なローニャの歩みが自然と私を前へ前へと導いてくれる。これでいい、変幻するなら早くしろ、覚悟が覚悟の形状でいる内に、イバの生命の小宇宙よ、私の持てる力を試す機会を寄越せ。
台座の目の前まで来た。台座には如雨露の様に見える物が乗っかっている。いや、緊迫した環境にそぐわない物でしか無かったから一瞬脳がバグを起こしたかと思ったが見間違いでは無い、はっきりとそれはその園芸道具だ。
「ん…。これって植物に水を上げる如雨露だよね。アメロッカのアメは雨かなん。これで水を撒いてみましょう、何か素敵な事が起こりますよ、なんて話だったら楽でいいんだけどそんな訳無いよねぇ」
ローニャがやや脱力しながらそんな事を語尾交じりに呟いている。彼女の気持ちが或る程度和んだ事は微笑ましかったがしかし、何も状況は進んでいない。この一見可愛らしくお間抜けな如雨露の先に、何かの飢えた獅子が眠っている、そんな気がしてならない。触れば、恐らく門扉は開く、我々が望むと望まざるとに拘わらず。




