nAmBAr.20「心音のハーモニー」
残りのメートルで事態の進展を伺い知ると言うよりはローニャの言葉を待った方が正確かも知れない。そしてその言葉は来た。
「今、12.8、か。距離だけじゃ計り知れない事も有りそうだなん」
距離だけなら12は突破した感じの位置まではもう来ている。つまり、この太陽の火球の厄介さはこれで終わらないと言う事だろう。見ると三発目の他後方に四発目も有る。
「なるほど、二人にそれぞれの分の火球が用意された様だな、視線での加速ストップも今までの様な生温さと言う訳には行かないか」
「そうだね、四発目がどうもあちきの方を向いている火球みたいだ。ここはチームプレイからソロプレイに移った物と見ていいね」
「語尾が無いけど結局あちきとかは使うのか」
「茶化さないでよこんな時に、あちきとあーしは地球への想いを迸らせる意味合いも有るからそう簡単に辞める訳にも行かないあーしのアイデンティティだからね」
「悪かった、じゃ健闘を祈る」
「そっちもね」
三発目にローニャが巻き込まれる事の無い様若干二者間で距離を取る。それは四発目をローニャにどうにかして貰う他無いと言う作業分離の面も孕んでいたが致し方ない、その上でどうにか隙を突いて虹の膜を触る所まで行く必要が有る。ただ、透明に近い方の膜は勝手に破れてくれたが今回のこれは恐らくローニャの協力無しでは破れてはくれないと言う可能性もある。そこも考慮して自分のやるべき事を終えたらローニャに助け舟を出せる様な状況にはしておきたい。
一か八か、私は走る。驚いたローニャが一瞬こちらを見た。
「見るなこっちを! 視線はあっちだ」
視線を火球に向けたまま私は言い放った。
「あっごめん。うー辛い」
予期した通りだ。どうも分業を迫ったと言うよりは狙うべき対象、つまり虹の膜への接近者を優先的に迎撃する様になっている。二発は私を直線的に狙っている。二発有ろうと根幹に有るのは太陽との根性比べ、そのコントロールもある程度は自由が利く。そして、二発を限界まで引き付けた後、私は回避行動として跳んだ。
「うおお!」
ずざざ、と地面に対し滑る足をなんとか抑え込み転倒は阻止した、こんな所で転んでは居られないのだ。それに回避の方も上手く行った、虹の膜に接近する方向に跳んだ為一石二鳥の行動だったと言える。火球は二発とも地面において燃え尽きた。ローニャの走り込みタイミングは確保出来たのでは…とそこでローニャの驚愕のツッコミが入る。
「げげ、太陽自体が落下して来てる…?」
なんと言う事だ、自身を落下させて全てを終わりにしようと言うのか。まあアレが太陽自身では無い幻であろうと言うのは先刻触れた通りだがまさか自身をアクティブに動作させこちらを葬り去る行動に及ぼうとは想像の範疇を超えた所に有る現象だった。アレが落下すればその影響半径は計り知れない。落下自体、させてはならない。一瞬だけ視線を外し見るとローニャは太陽を涙目で見つめながらこちらに向け走り出していた。
「10.5だ、もう事は閉じようとしているよニパ君」
太陽の落下の前にローニャが隣に来てくれた。10.5、この0.5の壁を削り切らねばイバの救出どころでは無く私達と言うレスキュー部隊の短い人生も閉じてしまう。短いとは言え人の在り方の夢見期間は長かった方かも知れないがこんな蝉の飛翔期間にも準えられる実践的な活動の喜びに満ちたローニャとの「今」を手放す事など有ってなるものか…!
その時、二者の心音がハーモニーとなった。ローニャもそれは感じている様で戸惑いと共に私の方を見る、心音のベースライン響き渡る音響空間とはローニャの言だが本人自身言外の意味がそこに有るとは思っては居なかったのでは無いだろうか。
「なんだか不思議な感覚…心音が同期してる? 何となくこの世界の理に繋がる言葉かなと思って心音ベースって話をしたんだけどこれは…」
「あ、ああ、確かに超常の統べる何かに巻き込まれている感じだ。それに今は太陽の進行も止まっている様だ。何が切っ掛けでこうなったのかは掴めないが、行けるなこれ」
「じゃ、迷わず行こうか行けば分かるよん」
「よし、では虹の膜の彼方へ」
そのまま我々は虹の膜に両者の腕を伸ばせる位置まで辿り着く。そしてジリジリと照り付ける接近した太陽の灼け付く光を肌に感じつつ、10歳世界へと私達は光に包まれながら旅立った。




