IF第56話 閉じ込められる者
公爵がシシラに接触を図ろうとして失敗した頃、王宮で損害が少ない区画の一室で一人の王子が軟禁された。それは
ジュンメウキ王国の第一王子ユーム・ジュンメウキだった。
「父上! 開けてください! どうして僕が部屋に軟禁されなければならないんですか!?」
ユームは部屋の外にいるであろう父であり国王ジョケア・ジュンメウキに向かって開けてほしいと叫ぶ。だが、国王は王子であり息子を部屋から出すつもりはなかった。
「この馬鹿息子が! お前は私を見るなりなんと言った? 『僕のシシラはどこですか? 婚約者として彼女の安否が心配です』だと? シシラ嬢との婚約などお前の身勝手でとっくに白紙になっておるわ!」
「そ、それは、何かの間違いがあって、」
「それは聖女アビスのことか? 大方、全て聖女アビスが悪いことにしてシシラ嬢との婚約を戻そうかなどと考えておったのだろう。そんな恥知らずな真似なんぞさせるわけなかろう!」
「ぐ……」
ユームは顔を歪める。その通りだった。ユームは本当に有能な聖女はシシラの方だと確信し、彼女との婚約を破棄してアビスを選んだことをあらためて後悔したのだ。そして、アビスの婚約者だという立場上、自分の将来に危機を感じてシシラを自分のもとに取り戻そうと考えていた。頭の中ではすでにシシラの婚約者の気分……そんな思惑を国王に見透かされて今の状況になったわけだ。
「何が恥ですか! シシラはもともと僕の婚約者だった女です! 僕の方からよりを戻すように言えば、シシラだって泣いて喜ぶに決まっています!」
「そんな訳あるか! お前みたいな浮気性な上に遊び呆けるだけの駄目王子なんか誰も欲しがらんわ! 大体、シシラ嬢にはガミオ王子がいるのだ! お前なんぞ選ぶわけなからう!」
「そ、そんな!」
「ガミオ殿下はお前と違って最高の王子だと言っていい。そんな男がシシラ嬢を逃すわけなかろう。そして、シシラ嬢もおそらく彼のことを……」
「……ッ!」
国王ジョケアの言っていることの意味くらいユームも理解できてしまった。ジョケアの憶測にすぎないが、シシラとガミオは恋仲になっているだろうということを。実のところ、ユームも薄々そんなふうにも思っていた。ただ、そうでもない可能性も捨てきれていないし、そうであってほしくないとも願ってもいた。
「な、なんだよそれ……姉妹揃って、なんて……」
「今度はシシラ嬢を貶めるような事を言うつもりか? 言っておくがお前とシシラ嬢との婚約などあの体育館で破棄されている。それを多くの生徒が目撃しているんだ。お前に彼女を貶めたり貶す資格など無い!」
「う、う……」
「もうしばらくに部屋にいるんだな。いい加減に反省してくれ……」
国王ジョケアはその場を離れていった。この後で残っている国の重鎮達とこれから先のことを話し合わなければならない。馬鹿息子の世話をしている時間さえ惜しいほどに。
「馬鹿息子め……こうなると聖女アビスを牢屋に入れて正解だったな」
聖女アビスは現在牢に入れられている。そこまでする意味は、罪人扱いでもあり大人しくしてもらいたいということでもあった。アビスがなにかしようとする時は大抵ろくでもないことだったからだ。




