IF第54話 聖女の扱い
「ひっ、来ないでよ……私は、そんなつもりじゃ……」
「ふざけんな! 国も王宮も滅茶苦茶にしやがって!」
「この国をどうしてくれるんだ! 死んで償うのか! ああ!?」
傷ついた兵士たちが憎悪の目でアビスに迫りくる。元凶と言ってもいい存在が目の前にいる、どうしたいのかアビスでも分かる。
「ああ……アビス、ごめん!」
「あ、お母様!? 行かないで!」
アビスの母、公爵夫人はアビスを置いて逃げていってしまった。しかも、王宮の外の方向、父公爵とは正反対に。つまり、アビスは父にも母にも見捨てられたことになった。
「そんな、お父様もお母様も……!」
アビスは絶望した。見下していた姉に負け、王子見捨てられ、両親さえも自分を見捨てる。そのうえ自分が原因で悪魔が現れたという。
「なんでよ……何でこうなったのよ……私は悪くない、悪くないのに……!」
「……な、なんだコイツ、魔力がおかしくないか?」
「魔力暴走かもしれん……近づくのは危険だ!」
絶望したアビスの心は深い悲しみと激しい憎悪に染められていった。迫りくる兵士たちすらも目に映らないほどに。その負の感情が魔力にまで影響を及ぼしている。幸いなことに兵士たちはアビスの尋常じゃない魔力の放出に危険を察知して下がっていった。
「そこまでだ【スリープショット】」
「え……、……?」
アビスがまさに魔力暴走を起こしそうになった直前、何者かが後ろから眠りの魔法を放ってアビスを眠らせた。そして、眠りについたアビスに二人の男たちが近づいてくる。魔法を放った宰相のボッスン・ローチと騎士団長ウォルフ・オルフノクだ。
「我が国の聖女がこのような女性とは、嘆かわしいものですな」
「公爵家の教育が間違っていたのだろう。劣っていると思われたシシラ嬢のほうがよっぽど聖女だ。彼女が隣国の聖女になってしまったのは本当に痛手であったな」
ウォルフは眠ったアビスをしかめた顔で抱きかかえる。彼もまたアビスに対して思うところはあるのだが、眠ったまま放っておくわけにもいかなかった。仮にも聖女であり、処分を与えられなければならない立場でもあるからだ。
「もうシシラ嬢が我が国の聖女になっていただくことは無理でしょう。今はシシラ嬢を通して隣国と良好な関係を気づいていくという方針でいくしかありません」
「シシラ嬢に我が国と隣国の架け橋になっていただくと?」
「ええ、年々国同士の結びつきが薄くなっていくのは存じているでしょう。それを解決していく役目をシシラ嬢に担っていただくのです」
ショーツカ大森林には魔物がいる。封印の祠に聖女が魔力を捧げることによって魔物の力を抑えられるが、聖女の素質を持つ女性は中々見つからないことが多い。祠に魔力を捧げる聖女が不在だったり、アビスのようにサボる者もいる始末。危険を犯してまで他国に行くのは避けたいため、自然と国同士の交流は最低限になる。
「……そうなると我が国の聖女は新たに探すしかなくなるわけか」
「もしくはアビス嬢に厳しい再教育を施すかですね」
「まともになると思うか? この娘が?」
ウォルフは手に抱えるアビスを見る。可憐な顔と容姿だが、その性格は難があるにもほどがあるのだ。それを悪魔の騒動で嫌と言うほど思い知っている。ジュンメウキ王国の上層部が皆把握していることだ。ボッスンも忌々しげにアビスを睨むが、仕方ないという感じで首を横に振る。
「そんな娘でも聖属性の魔力持ち。利用できるなら利用したいものですよ。勿論、再教育は公爵家に任せずに教会の方で厳しくしていただきます。変な物が無い所でお願いするのも忘れずにね。それでも駄目なら、教会に一生預けるだけです。罰を込めて……」
ボッスンは心底ではアビスが再教育を受けてもまともになるとは思っていない。むしろまともにならなくてもいいとすら思っていた。




