IF第53話 公爵の見切り
アビスは王宮に戻っていくとすぐに両親と再会を果たした。公爵夫妻もまた王宮から逃げ出していたのだ。
「お父様、お母様!」
「あ、アビス……っ」
「無事だったのね……っ」
ただ、喜びの再会とはいかない。互いに動揺と複雑な感情が混ざっていることもあり喜べる状態ではなかった。悪魔の騒ぎとその悪魔とアビスとの関わりからすれば当然だ。
「お姉様が、悪魔を倒したとか聞こえてきたけど……」
「どうやら本当のようだ……兵士たちの誰もが口を揃えてシシラが悪魔を倒したと言うのだ」
「そ、そんなの……きっと隣国の王子さまのお陰ですよね!」
「その隣国の王子もシシラのサポートみたいだって……真の聖女様の助力に務めていただけ……」
「シシラがメインで戦ったらしい……国王までそう言っておられた……」
「……何よそれ」
アビスは両親の口からも『シシラが悪魔を倒した』と聞いて驚きを隠せなかった。ただし、驚き以上にシシラに対するどす黒い感情が生まれていた。
(何よそれ、お姉様なんかが悪魔を倒したってこと? そんな偉業をなすなんておかしいわ! 私よりもずっと劣っているはずのお姉様なんかが私よりもすごいことをして偉くなるなんてあり得ない! 気に入らない! 認めないわ!)
こんな状況になってもアビスはまだシシラを下に見ていた。というよりも下でいてほしかったらしい。だが、現実はそんなアビスの思いを嗤うかのように動き続ける。
「シシラが……こんなに凄い娘だったなんて……」
「お父様?」
「こんなことなら、あの子も可愛がればよかったわ……」
「お母様!?」
「それに比べてアビスは……」
「え?」
公爵夫妻は今更になって悔やみ始めていた。シシラを蔑ろにしてきたこと、アビスを優先しすぎたこと、挙げ句に公爵はアビスに侮蔑の目を向けるのだった。
「アビス、お前がこんなに愚かだったとは思わなかった……聖女でありながら姉に仕事を押し付けた挙げ句に悪魔の復活、こんなおぞましい娘を可愛がっていた自分が情けない……」
「な、何を言うのよ!?」
「黙れ……この後でお前には相応の罰が下るだろうが、それはお前一人で背負うのだ。決して私達、私にまで及ばないようにしろ」
「あ、貴方!? 何を言うのですか!?」
「当然だろう? この娘のせいで……いや、今はシシラだ」
公爵は妻と娘を顧みることなく王宮の奥まで走っていった。目当てはシシラだ。シシラに縋り、アリゲイタ公爵家をなんとか守ろうという算段だった。
(今の現状では、アビスが元凶である以上、シシラしかアリゲイタ公爵家を守れない。隣国の聖女となってしまったがシシラはこの国を助けるために戻ってくるような娘だ。この私が縋り尽くせば助けてくれるはずだ! 頼む、どうかそうであってくれ!)
走っていく公爵を呆然と眺める妻と娘。しかし、いつまでも眺めている場合ではなかった。傷ついた兵士たちがアビスの存在に気づいたのだ。
「アビス……アリゲイタ……」
「悪魔を、復活させた元凶……!」
「よくも、よくも……!」
アビスが悪魔を復活させたという話は謁見の間にいた兵士たちだけが知っていた。運命の悪戯か、彼らこそがその兵士たちだったのだ




