IF第52話 醜い聖女と王子
戦いの後で意識を取り戻したユームは恐怖にかられて王宮の外に逃げてしまった。側近の声が後ろから聞こえていても気にすることなく外に向かうために走っていった。自分だけ助かるためにだ。
「もう駄目だ……! あんな化物が現れたんじゃこの国はもうおしまいだ!」
目覚めた直後に逃げ出して走り出していたため、悪魔がシシラ達の手で倒されたことなど知りもしない。負傷した兵士がいても介抱することもなくユームは走り続ける。
同じく逃げるために走っていたアビスとぶつかるまでは。
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
ユームとアビスは互いにぶつかって倒れ込む。そして、互いにぶつかった相手が誰か分かると怒りを向けて騒ぎ出した。
「アビス! お前、お前が、お前が悪魔なんかを復活なんかさせたからこの国はもう滅茶苦茶だ! どうしてくれるんだ!」
「ユーム様!? な、何よ! 悪気なんかなかったのよ! 偶然復活しただけじゃない! 私を悪く言うなんてそれでも婚約者なの!」
「お前なんか婚約破棄だ! こんな馬鹿な女だと知っていればシシラを捨てたりなんかしなかった!」
「なんですって! 私は馬鹿じゃないわ! 馬鹿なのは貴方でしょ! 害虫駆除なんかのために私をこき使って! 王子様のくせに甲斐性なしにも程があるわ!」
「な、なんだと! この状況の元凶のくせに! 見ろ! あの王宮の惨状を!」
ユームが指さした王宮は半壊していた。それもこれも巨大な悪魔が暴れまわった結果だった。そんな王宮を目にしたアビスは罪悪感を抱くよりも危機感を感じた。
「そうだった、悪魔が王宮にいるんだわ。早く逃げないと!」
「おい待て! この状況で聖女が逃げるな! 責任持って戦え!」
王宮から離れるように走り去ろうとするアビス。そんな彼女の手をユームが掴む。元凶のアビスに悪魔と戦わせようとしてのことだが、アビスはそんなつもりは毛頭ない。
「王宮に戻って悪魔と戦え! 頭のイカれた偽物聖女が!」
「ふざけんじゃないわよ! 私の手を離せ! 【ホーリースパーク】!」
「ぎゃああああああ!?」
アビスは魔法の雷を掴まれた手から放出してユームを攻撃した。ユームは堪らず手を離して痙攣を起こす。
「ふん! 王子のくせに聖女様をなんだと思ってるのよ!」
「あ、あ……!」
倒れ込むユームとそれを侮蔑の目で視るアビス。そんな二人の耳に思いも寄らない知らせが耳に入る。
『皆の者! 朗報だ! 隣国の聖女シシラ様が悪魔を打ち倒してくださった! 脅威は去った!』
「「っっ!!??」」
拡声器による国王ジョケア・ジュンメウキ自らの音声放送、嘘を言うはずがない。それを聞いて王宮の兵士たちは勿論、王宮の外に出ていたユームとアビスも驚愕した。
「し……シシ、ラ……が、悪、魔……倒……し、た……?」
「う、嘘でしょ!? あんな恐ろしい化物をお姉様が!? そんな馬鹿なことが……!?」
二人は信じられずに動揺してその場で動けないままでいた。だが、王宮で悪魔の騒ぎが聞こえなくなり兵士たちの治療がされていると知るとやっと信じて王宮に戻っていった。




