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第18話 お絵描きニート、公開処刑される

 俺のプライドが処刑される朝が来た。


 昨日、補強された木の家は、思ったよりも寝心地が悪くなかった。


 だが、問題は俺の尊厳のほうだ。


 一晩眠ったくらいでは、まったく回復しない。


 そして朝。


 できれば、もう少し寝ていたかった。

 いや、永眠とかではない。

 そこまで追い詰められてはいない。


 (今は……まだやれる)


 せん人様はいつもの場所で寝ている。

 ただ、珍しく寝相が悪い。

 うつ伏せで、倒れたように寝ている。


 それはまるで、保存された殺人現場のようだ。


 この光景……シュールだ。


 せめて、俺もせん人様のように、三度寝くらいは許してほしかった。


 だが、現実は甘くない。


「カードを出せ」


 ついに断頭台に立つ時がきた。


 焚き火の跡を軽く整えていたベルさんが、当然のように言った。


「おはようございます、ベルさん」


「おう、カードを出せ」


「朝の挨拶って知ってます?」


「知っている。カードを出せ」


「それ、挨拶じゃなくて尋問ですよ」


 俺は乾いた笑いを浮かべた。


 昨日、召喚時間が伸びているかもしれないと気づいた。

 だから、ステータスカードを確認する必要がある。


 そういう流れだったか。


 分かっている。

 そんなことは分かっているさ。


 俺のステータスカードには、見られたくない文字がある。


 職業、クリエイターズ。

 階級、お絵描きニート。


 こっちに来たばかりの時に、宴会芸と笑われたやつだ。

 なぜ、俺がこんな目に遭うんだ。

 ステータスカードの表示、書いたやつ出てこいや。


 ――何度、想像してもあまりにむごい。


 俺の人生を、一行で馬鹿にする悪意を感じる。


「ベルさん」


「なんだ」


「人は秘密が多いほど、人生に深みが出るんだぜ……」


「アタシは浅瀬でいい、カードをさっさと出しな」


「盗賊のような言い方になってますよ」


「いいんだよ。それで」


「せめて心の準備を」


「昨日の夜からあっただろう」


「一晩では足りませんでした」


「なら一生足らんな」


 四面楚歌(しめんそか)……逃げ道が塞がれた。


 はぁ。


 深いため息をつく。


 俺は諦めて、ポケットからステータスカードを取り出した。

 親指を当てると、薄い光が浮かび上がる。


 そして、空中に俺の情報が表示された。



 【氏名】:リュート

 【種族】:ヒト族

 【Lv】:6/10

 【職業】:クリエイターズ(階級:お絵描きニート)

 【スキル】:

 棒人間召喚(Lv6)最大数:3/持続時間:70秒

 道具生成(Lv2)サイズ:小型限定(魔力消費あり)

 アトリエポケット(Lv1)収納数:0/3


 【せん人様】:常時具現化/体術:Lv8/?????

 【契約獣】:スゥ(スライム)


 【HP】:E 【MP】:C 【STR】:E 【VIT】:E

 【AGI】:E 【DEX】:D 【INT】:D 【LUK】:C


 【称号】:召喚されし者/雨夜の生存者/森の迷い子

 【概要】:

 描いたものを具現化するスキル(芸術センスに依存)



 沈黙。


 ベルさんが、じっとステータスを見ている。


 俺は心の中で祈った。


 頼む。

 スキルを見てくれ。

 レベルを見てくれ。


 せめて称号で笑ってくれ。


 そこじゃない。

 そこだけは見るな。


「お絵描きニート」

「アウチッ!」


「目に入った」


「そうでしょうよ」


「ニートとは何だ……強いのか?」


「まぁ、ある意味……最弱です」


「なら、ピッタリだな」


「…………」


「ニートは職業なのか?」


 (もう、恥ずかしいから……ニートを連呼しないで!)


「俺の住んでいた国では、職業……だった?」


「なぜ、聞き返す?」


「それは、俺が一番聞きたい!」


 涙交じりの情けない声が聞こえた。

 ベルさんは、口元をわずかに歪めた。


 笑うな。

 いや、笑ってはいない。

 でも、笑う寸前の顔をしている。


「森の迷い子」


「そこもダメです!」


「昨日のことが、もう反映されているのか」


「森の迷い子のどこが称号なのですか、ただの失敗談でしょう……」


「便利なカードだな」


「俺の話、聞いてました? それにしてもステータスカードって、こんなに煽ってくるものなのですか?」


「分からない。少なくとも、アタシはカードに煽られたことはない」


「そう……ですよね、カードがおちょくってくる訳がない」


 俺は顔を覆った。


「まぁ、なんだ。それは、逆にお前がこの世界に期待されている裏返しではないか……恐らく」


 (ベルさん……逆の裏で表になってるよ)


「無理にフォローしなくていいです」


「そうか……すまない」


 プライドは死んだ。

 朝から、俺の首は見事に真っ二つだ。


「棒人間召喚Lv6。道具生成Lv2。アトリエポケットLv1。召喚維持時間は約七十秒……なるほど、あの珍妙なヒモ人形か」


 珍妙なヒモ人形……言い得て妙。


 なるほど、せん人様はヒモだって。


 ぷぷっ。


 色んな意味で、その通りだ。


 ゾクッ。


 そんなことを考えていたら、突然、背中に鋭利な視線を感じた。


「この森に来てから、俺を守ってくれている頼もしい……仲間です」


 (これは本心だ、決してせん人様の顔色をうかがった言葉ではない)


「仲間か……あれはお前が、意識して出せるのか?」


「はい、今は三体まで出せます」


「あそこで寝そべっている、アイツも出しているのか?」


「いいえ、彼……彼女、かは分かりませんが、あの人は俺の意思とは無関係に、いつも飛び出している状態です」


 横柄に頬杖をついて、こっちを見ている気がする。


「初めから居たのか?」


「いいえ、スキルを使い始めて少し経ったあと、召喚した棒人間がいきなり光って……そこからずっとあんな感じです」


「なるほど……それでアイツがカードでいう【せん人様】ということか」


「はい、召喚の最大数も別枠の扱いだし、もしかしたら棒人間に悪霊が乗り移っているのかもしれません!」


 ゾクッ。


 本日、二度目の尖った視線。


「確かに妙に気になるオーラが、あいつにはある」


「そうなんですか!? まぁ、素性は怪しいですが頼れる仲間です」


「だが、戦ってくれるか分からないやつを、戦略に組み込むことはできない。あくまで、補欠だ」


 俺自身でも分からなかったカードのこと。

 今でも詳細は不明だが、戦闘でどう活かすか、それだけをベルさんは深掘りしてくれている。


「召喚したヒモを、出していられる時間は七十秒か。やり方次第では使えそうだな」


「最初は短時間でしたが、今では一分を超えるようになりました」


「戦術の幅は広がりそうだ」


「召喚に関してはこんな感じです」


 ベルさんは淡々とスキルを確認していく。


「生成は……物を生み出す能力か」


「はい、俺が想像できるくらいの小物を出せます」


「なんでも、便利に出せるわけではないのか」


 ベルさんが難しい表情に変わる。


「ところで、昨日お前が夕食で出した鍋。なぜ、ゴブリンに殴られたみたいにボコボコ、ヨレヨレだったんだ?」


「それは……俺に絵心がないから、ですね」


 痛いところを突かれた。


「つまり、召喚も生成もお前が描いたモノが飛び出してくる……ということか」


「そうなります……」


「……悲劇だな」


 ゴブリンに後頭部を殴られたような衝撃が走った。


「…………」


 (泣いてもいい……?)


「ま、なんだ、これから実戦で使える部分、いらない部分を確認していこう」


 数回の精神的殴打で済んだのは軽症だった。


 そう思ったところで、俺は新しいスキル名に目を止めた。


「……アトリエポケット?」


 そういえば、最初から表示されていた気がする。

 けれど、使い方が分からなくて、ずっと放置していたやつだ。


 説明欄を意識すると、短い文字が浮かんだ。


 【アトリエポケット Lv1】

 生成物や小型素材を収納できる。

 収納数:0/3


「収納……?」


 俺は思わず身を乗り出した。


「ベルさん、これ、めちゃくちゃ便利そうですよ!」


「そうだな、使えれば……だが」


「ですね……」


 俺は右手を見つめた。


 これまでも、生成や棒人間召喚は基本的に右手だった。

 なら、きっとこれも右手で使うのだろう。


 俺は地面に指を向ける。


「アトリエポケット!」


 何も起きない。


「収納!」


 何も起きない。


「出てこい、俺の収納ボックス!」


 何も起きない。


 ベルさんが冷ややかに見ている。


「何を遊んでいるんだ?」


「そこそこ、かなり真剣に頑張ってます」


「そうだな、気合いでスキルが使えたら苦労はない」


 ド正論。


「スキルの説明が不親切すぎる!」


 何でもいい。

 スキルを使うためのとっかかりが欲しい。

 俺は試しに、生成で小さなナイフを作った。


 ぽんっ。


 相変わらず、歪み気味の生成ナイフだ。

 刃物として完璧ではないが、紐を切ったり、簡単な作業をするには使える。


 ただ、具現化している間は、体の奥からじわじわと力が抜けていく感覚がある。


 重くはない。

 でも、生成した物を、ずっと出したままにしていると少しずつ削られていく感覚だ。


「これを収納できれば、維持が楽になるかも……」


 俺はナイフを右手で持ち、念じた。


 収納。

 入れ。

 しまえ。


 ポケットに飛び込め。


 何も起きない。


「……入らない」


「アタシが持ってる布袋の方が便利そうだな」


「このままじゃ、俺のスキルが、布袋に負けてしまう」


 俺は焦った。


 便利そうなスキルなのに、使い方が分からない。


 またか。

 またトリセツなしか。


 右手を振る。

 ナイフを掲げる。

 地面に丸を描く。

 空中をなぞる。


 全部駄目。


「クソッ!」


 憤(いきどお)りを抑えきれず、思わず両手で地面を叩く。


 その時だった。


 左手の指先に、限りなく黒に近い透明な炎が揺らめいた。


「……ん?」


 それは、見逃してしまうほどに、わずかな揺らぎだった。


 今まで、役立たずだった左手。


 いつもの眩(まばゆ)い光じゃない。


 アツっ……く、はないな。


 鈍く揺蕩(たゆた)う熱くない炎。

 指先は夜の奥をすくい取ったような、透き通る闇を纏った。


「左手……?」


 俺は左手を持ち上げた。


 ベルさんの目が細くなる。


「右手とはタイプが違う」


「はい、正直俺も初めて見ました」


「すべて自分で切り開け……ということか」


「そうなんでしょうね」


 一歩前進だ。

 けど、まだ使い方はわからない。


 今は左手に黒い火が灯っただけ。


「アトリエ、収納……空間、ボックスと言えば、丸か?」


 無い知恵を必死に振り絞る。

 試しに俺は左手の指先で、空中に丸を描いてみた。


 何も起きない。

 だが、描き始めのほんの一瞬、反応した気がした。


「……丸じゃない?」


「なぜ、丸なんだ」


「ポケットって穴かなと」


「浅いな……」


「俺は褒められて伸びるタイプですよ」


 アトリエポケット。


 アトリエ。

 絵。

 キャンバス。

 額縁(がくぶち)。


 俺はふと、そんなことを思い浮かべた。


「……四角?」


 左手の指先で、空中に四角を描く。


 一。

 二。

 三。

 四。


 四角が閉じた瞬間――空間が、薄く開いた。


「開いた……?」


 それは穴というより、白いキャンバスだった。

 外側は闇、中心が白くぼやけている。


 奥があるのか、ないのか。


 描いたキャンバスの裏側が気になった。


「何もない!?」


 俺がいる側の空間しか見えない。

 つまり、反対に回るとキャンバスそのものがない。


 不思議だ。


 さて、どうやってしまうか。

 俺は恐る恐る、生成ナイフを近づけた。


 ナイフの先端が白い内側に触れた瞬間、輪郭がふっと薄れる。

 消えたのではない。


 真っ白なキャンバスに、絵画が吸い込まれていくように見えた。


 次の瞬間、俺の体にまとわりついていたわずかな脱力感が、すっと消えた。


「……魔力の消費が、止まったってことか?」


 収納数の表示が変わる。


 収納数:1/3


「入った……!」


 俺は思わず声を上げた。


 その一瞬、額縁の奥に白い部屋が見えた気がした。


 床に転がる絵画。

 その一枚は、さっきの生成ナイフの絵が描かれている。


 そして、小さな棒人間が、キャンバスをせっせと整理していた。


「……今、中に図書館の司書さん、みたいなのいなかった?」


 シュールな光景を見た。


「知らん」


「あの中で棒人間が働いてました」


「……時々は休ませてやれ」


 俺はブラック企業の社長か。


「俺の本意じゃないですよ」


 他愛もないことを話していると、額縁はふっと消えた。


 取り出し方は分からない。

 分からないが、収納には成功した。


 しかも、生成ナイフをしまっている間は維持コストが必要ないっぽい。

 これはかなり大きい。


「便利なスキルだ」


「ですよね!」


 俺はほんの少し興奮した。


「だが、発動が遅い。正直、実戦では使い物にならんな」


 確かに。

 戦闘中にこれをやれと言われたら、たぶん途中で死ぬ。


 収納数も三つだけ。

 使いこなすには、練習あるのみだ。


「もし、どうしても使うなら、戦う前に取り出しておけば使えそうだ」


「なるほど……」


 ベルさんはそんな俺を見て、腕を組む。


「今のスキル、使いこなせれば、活かせる時もあるだろう」


「ですね……」


「それと……出す方法は知っているのか?」


「あ……」


 そこまで考えていなかった。


 俺は空中を見つめた。

 生成ナイフは、今もアトリエポケットの中だ。


 取り出し方は不明。

 つまり、収納できたが取り出せない可能性がある。


「取り出し方、知ってます?」


「知っていると思うか?」


「……ぃぇ」


 恐ろしい、圧力。


「それは後で試せ」


「出せるようにしておきます」


「お前のカードは一通り見た、次はアタシのカードだな」


 ベルさんはそう言って、自分のカードを取り出した。


「お前のカードだけ見るのは、フェアじゃない」


「いいんですか?」


「悪人以外には見られても、大した問題はない」


「それは信頼されてるのか、馬鹿にされてるのか」


「半々だ」


「そうですか……」


 ベルさんがカードを起動する。



 【氏名】:ベルヴェット・クロウゼン

 【種族】:ヒト族

 【Lv】:36

 【職業】:戦士

 【冒険者ランク】:B


 【スキル】:

 剣術 Lv7

 危機察知 Lv5

 身体強化 Lv5

 雷属性 Lv5

 重力属性 Lv2

 魔力操作 Lv3


 【HP】:B 【MP】:C 【STR】:B 【VIT】:C

 【AGI】:B 【DEX】:B 【INT】:C 【LUK】:D



「強っ……」


 俺は素直に声を漏らした。


 同じステータスカードとは思えない。

 ベルさんの数値は鍛え上げられた鋼、それに引き換え、俺のは木の枝。


「Bランクでこれですか?」


「Bの上の方ではある。だが、Aには届いていない」


「十分すごいと思いますけど」


「冒険者ランクは強さだけでは決まらない。パーティ実績、依頼達成数、信用なんかがある。ソロだと満たしにくい条件もある」


「じゃあ、ベルさんはソロだからB止まり?」


「そういう面もある」


 ベルさんは淡々としていた。


 すごいな。

 自分を大きく見せない。

 この人はたぶん、自分が届いていない場所を分かっている。


「Sランクの上には、マスタークラスっていう最上位ランクもある。国家規模の依頼や、災害級の魔物討伐に関わるような連中だ」


「マスタークラス……」


「東西にそれぞれ、ひとパーティずつ、西の黒鉄の箱舟(ブラックノア)。東なら勇者パーティ、暁光の天翼(ルミナスセラフィス)あたりだ」


「勇者パーティ!?」


 勇者。

 その言葉が、胸の奥に引っかかった。


「なんでも、完全無欠の東大陸最強らしい」


「最強……」


 俺とは似ても似つかない、雲の上の存在。


「そんなことより、今はこっちが大事だ」


 ベルさんはカードを軽く叩いた。


「スキルレベルは基本的に十段階で見る。Lv1は覚えたて。Lv3で実戦最低限。Lv5なら熟練。Lv7なら一流。Lv8なら達人級。Lv9以上は英雄だの化け物だのと言われる領域だ」


「じゃあ、剣術Lv7って一流じゃないですか」


「鍛錬は十分やった。だが、それで通用するほど世界は甘くない」


「せん人様は……」


 (前に見た時は、詳細不明とかで分からなかったんだよな……)


 俺は自分のカードに視線を戻した。


 【せん人様】:常時具現化/体術:Lv8


 ベルさんの顔が険しくなった。


「体術Lv8……達人級だな」


「やっぱりすごいんですか?」


「あれを見た目で判断するな。アタシが警戒した理由が少し分かった」


 (噂をすれば……)


 いつの間にか、寝ていたせん人様がムクッと体を起こした。

 どうやら、目を覚ましたようだ。


 キョロキョロ。


 辺りを見渡してるのか。


 (あ、また寝た)


 緊張感の欠片もないその姿。

 心から羨ましい。


「結局、詳細は、またもや謎だらけ……か」


「少しずつ積み上げていくしかない」


「そう、ですね」


 俺のスキル……俺にくらいは教えてくれよ。


 ふと、ベルさんのカードの一項目が目に入った。


「重力属性って、何ですか?」


「ああ、それか……」


 ベルさんはわずかに肩をすくめた。


「端的に言えば……わからん」


「分からない?」


「アタシの環境では、ということになるが……」


「……?」


「自分の武器や、相手に少し負荷をかける程度だ」


「強そうじゃないですか」


「対人戦ならな。だが魔獣戦では使いにくいったらない。動きが安定しない上に、下手すると自分の間合いまで狂う」


「便利そうで難しいんですね」


「使いこなせればそこそこ便利なのだろうが、今のアタシでは対人戦でも、相手の動きを止めるには至らない。使いどころが限られるってことさ」


 彼女でもまだ手に余るということか。


 ベルさんはそこで話を切った。


 雷属性。

 重力属性。

 魔力操作。


 (十分すごいけど……)


 ベルさんにも、まだ使いこなせていないものがある。


 それが少し意外だった。

 この人でも、届かない高みがあるのか。


 俺が黙っていると、ベルさんが俺のカードをもう一度見る。


「それで、お前のレベル上限は十か」


「はい。これ、低いですよね」


「低い、それにお前のカードを見ていて思ったが、アタシのステータスのレベルには上限がない」


「ホントだ!」


「これは風の噂で聞いた話だが、まれに上限に達したあと、限界を超える者がいるらしい」


「え?」


「条件や試練を越えることで、レベル表示が一度戻り、上限が変わる者がいると聞く」


「つまり、俺もその可能性が……?」


 ベルさんは俺を上から下まで見た。


 長い間。


「……ないな」


「溜めが長い!」


「あくまで噂だ……事実かどうかはわからない」


「何とかして確かめる必要がありそうですね」


「スキルは自分で訓練して、実戦に落とし込む他にない」


「はい、ありがとうございます」


 ――とりあえず、生存の糸口は見つかった。


 召喚時間の延長。

 アトリエポケット。


 少しずつ鍛えていこう。


 できること。

 頼れるもの。

 生き延びるための選択肢。


 ベルさんはカードをしまうと、俺を見た。


「今のお前の欠点は分かった」


「なんですか?」


「スキルに頼り過ぎて、自衛できないことだ」


「…………」


「お前はスキルが機能しなければ、確実に死ぬ」


「……死」


「スキルはお前の一部、それは否定しない。だが、万能じゃない」


 痛恨の一撃だ。


「打開する方法はただひとつ」


「何ですか……?」


「お前……明日から、剣を握れ」


「剣……?」


「何も剣士になれと言っているわけじゃない。最低限、自分自身を守れるようになれればそれでいい」


「俺に剣の才能、ありますか?」


 ベルさんに一点の迷いもない。


「まったくない。今のところはな」


 俺のプライドは、朝に続いて二度目の断罪を受けた。

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