↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

第17話 吹けば飛ぶ木の家

 せん人様の背中を追いながら、俺たちは森の中を進んだ。


 日はすでに落ちかけている。

 木々の隙間から差し込んでいた夕陽はほとんど消え、森の奥はじわじわと黒に沈み始めていた。


 先頭を歩くのは、せん人様。


 目指す方向には迷いがない。


 俺が何度歩いても分からなかった森の道を、まるで自分の庭でも歩くみたいに、すいすい進んでいく。


「すごいな……」


 思わず声が漏れた。


 すると、隣を歩いていたベルさんが、せん人様の背中を見たまま低く言った。


「あれは、お前のスキルっていうのは本当か?」


「本当ですよ。けど、どこかが変な俺のスキルって感じです」


「よく分からん……」


「ですよね……俺自身が分かってないんで……」


 ベルさんの頭にたくさんの疑問符が見えた。


 正直、せん人様に関しては正しい返事が見つからない。

 俺だって、自分のスキルを完全に理解しているわけではないのだ。


 ボー、ヒョロ、ガーリならまだ分かる。

 俺が呼んで、俺が指示して、時間が来たら消える。


 だが、せん人様は違う。


 呼んでないのにいる。

 命令してないのに動く。

 そして何より、時間が来ても消えない。


 (そして今……何? この高性能ナビ……)


「まあ、敵でないのは確かです」


「確か……か」


「おそらく……」


「一気に不安が増したぞ」


「何事も疑り深い性格なもので……」


「己のスキルも信用できないとは……不憫なやつだな」


 ド正論。


 ベルさんは剣の柄に手を置いたまま歩いていた。

 さっきよりは、力みが取れた気もする。


 (しかし……まだ、警戒してるな)


 せん人様の背中から、視線を外さない。


 それが少し不思議だった。


 ベルさんは強い。

 さっきのゴブリンも、一瞬だった。

 そんな人が、あの小さい背中に気を張っている。


 俺にとっては、自堕落な守り神のような存在なのだが。

 ベルさんには、どう見えてるんだろう。


 同じものを見ているのに、見え方が違う。


 (不思議だ……)


 しばらく歩くと、木々の間に見覚えのある倒木が見えた。

 その奥に、雑に組まれた枝と草の影。


 俺の拠点だ。


「着いた……!」


 ほっとした瞬間、全身から力が抜けそうになった。


 今日一日で、いろいろありすぎた。

 リーフ族の里を探して迷子。

 ぬるい湧き水。

 ゴブリン。

 ベルさん。

 牙ウサギ。

 そしてまた迷子と。


 俺の人生、迷ってばかりだ。


「ここが、俺の拠点です」


 俺は胸を張った。

 誇らしく伝えた。


 ベルさんは無言で、俺の拠点を見た。


 暗がりの中、枝で組んだ屋根。

 草を重ねた壁。

 雨避けのつもりで作った、微妙な傾斜。


 近くには焚き火に使う枝の山。

 そして俺が精一杯に整えた寝床。


 俺にとっては、命をつないでくれた大事な場所だ。


 ベルさんはしばらく黙っていた。


 そして、静かに言った。


「これが、お前の拠点?」


「そうですけど……何か?」


「これは……薪置き場だ」


「あ、刺さった!」


 俺の汗と涙の結晶は、一瞬で薪置き場になった。


 いや、たしかに枝は多い。

 草も多い。


 遠目で見たら、薪を雑に積んだ場所に見えなくもない。


 だが、そこには俺の生存本能が詰まっているのだ。


「一応、雨風をしのぐために作ったんですけど……」


「雨はしのげるのか?」


「はい……気持ち程度には」


「風は?」


「……まあまあ?」


「魔物は?」


「そこは……気合いで」


「気合いで、魔物が倒れてくれればいいな」


 言い返せない。


 ベルさんの言葉は淡白だ。


 けれど、的確に痛いところをついてくる。


 俺がしょんぼりしていると、せん人様はいつもの神座という名の少し高くなった場所へ、当たり前のように向かった。


 そして、すとんと腰を下ろす。


 いや、腰という概念があるのかは分からない。


 でも、座った。


 あの場所、完全に自分の定位置だと思っている。


 ベルさんがその様子を横目で見た。


「ずいぶん……くつろいでいるな」


「はい。あそこがせん人様の玉座です」


「玉座にしては、ずいぶん粗末な作りだ」


「今日一日、もう疲れてるんだから……体に堪(こた)える、やめて」


 スゥが足元でぷるんと跳ねる。


 ボーたちはすでに消えている。

 暗くなった森の中、俺たちを囲むように夜の気配が濃くなっていった。


 ベルさんは辺りを確認し、短く言う。


「まあいい、アタシは野営の準備はしてきているが、少しでも雨風がしのげれば、助かる……しのげるならな」


「ですよね……!」


「まずは、火起こしと食事だ」


 そう言って、ベルさんは左手にぶら下げていた牙ウサギを地面に置いた。


 三匹。


 さっきの戦いで倒した、顔が怖い通常生物である。


 普通のウサギ。


 嘘つけ!


 いまだに納得できない。


「解体する」


「……お願いします」


「お前もやるんだよ」


「一応、この前やりました」


「一度か……?」


「はい。貴族の出身なもので慣れてないんです」


「そうなのか!?」


「嘘です」


「……やれ!」


「はい……」


 ベルさんは腰の道具袋から、小さな刃物を取り出した。

 解体用のナイフらしい。


 迷いがない。

 手つきが速い。

 躊躇(ちゅうちょ)もない。


 俺が以前、半泣きで牙ウサギを解体した時とは大違い。


 皮を剥ぎ、肉を分け、使える部分とそうでない部分を分ける。

 その動きは、戦闘とはまた違う意味で洗練されている。


 俺もさくっと包丁もどきを生成、挑戦してみる。

 相も変わらずヨレヨレの包丁だったせいか、俺の手先が不器用だったせいかは分からないが、ベルさんのようにはいかない。

 俺が捌(さば)いたそれは食材とは言い難く、ただの肉塊になった。


 珍しくスゥがピッタリと、俺にくっついている。

 料理に興味があるのだろうか、静かに俺の包丁テクを見ていた。


「スゥ、料理に興味があるのか?」


 ぷる。


 微妙な反応だった。

 どうやら、興味は別のものらしいが、今の俺には分からなかった。


 スゥからベルさんに視線をやると、俺の苦戦はどこ吹く風といった感じでサクサクと解体をこなしていた。


「すごいですね……」


「冒険者なら、これくらいできないと生きていけない」


「食べるためには、食べ物にするまでの技術が必要ってことですね」


「何を言ってるか分からんが、そうなのかな……」


 前の世界で、YouTube動画を作る時もそうだった。

 撮影することと、編集から投稿まで、完成品にする作業は、似ているようでまったく違う工程だ。


 (素材から完成品に仕上げるって、ホントに大変なんだよな……)


 そんな俺の妄想を尻目に、ベルさんは手際よく肉を切り分けると、自分の荷物を開いた。


 そこから出てきたのは、水袋。

 硬そうな携行食。

 肉の干物。

 それから、小さな革袋が二つ。


「それは?」


「これは調味料だ」


 調味料。


 (調味料……調味料……)


 その言葉を聞いた瞬間、俺の心が震えた。


「調味料……?」


「ほんの少量だ。使いすぎると後が困る」


「いえ、持っているだけで興奮ものです!」


「大げさだ」


「何を言うんですか。こっちは味付けなしで何日も過ごしたんですよ!」


「……どんな生活をしてたんだ、お前」


「野生と人とのギリギリで生きてました」


「よくそれで、今日まで生きてこられたな」


 ベルさんは火を整え、鍋代わりに使っていた俺の生成鍋を確認する。


「今、何をした?」


「鍋を作りました」


「あぁ、アイテムボックスというやつか、アタシは見るのが初めてだ」


「いえ、文字通りたった今、作りました」


「作った……?」


「はい」


 ベルさんの頭に再び、たくさんの疑問符が見えた。


「俺は召喚だけでなく、物を作りだすこともできるみたいなんです」


「闇や光の類か……この世界には、光属性や闇属性のスキルや魔法に、いろいろなタイプがあると聞くが、奥が深いのだな」


「魔法!? そんなものあるのですか?」


 この世界で魔法というワードと、初めて出会ったことに心が躍る。


「当たり前だろう、現に今、お前が使っている召喚も魔法ではないのか?」


「そう……なんですかね? 実は俺、自分の能力もよく分かってなくて」


「そうか……機会があれば、アタシも一緒に確認してやろう」


「本当ですか! ありがとうございます」


「ところで、この鍋は妙に歪んでいるが、使えるのか?」


「信頼と実績の鍋です」


「お前たちの信頼と一緒だな」


「それは誉め言葉ですね!」


「……皮肉だ」


 今日はベルさんが火起こしをしてくれた。

 持参したバッグから繊維の毛玉みたいなものを取り出した。


 カッチカチ。


 毛玉に石で火花を放ち、あっという間に着火。

 きっと、この世界の便利グッズだろう。


 何て卑怯なチートアイテムを持っているんだ。


 ずるいぞ、ベルさん!


 だが、それは決して本人には言えない。


 俺はまだ、死にたくない。


 料理が途中だったことを思い出し、作業に戻った。


 火にかけた鍋に、水と牙ウサギの肉。

 わずかばかりの干し肉。

 そこにベルさんが、二種類の調味料をほんのひとつまみ入れた。


 香りが変わった。


 それだけで、世界が変わった気がした。


「……え」


 俺は鍋を見つめた。


 スープから立ち上る湯気。

 肉の匂い。

 草っぽさ。

 そこに、今までなかった香りが混じっている。


 水炊きとは違う。

 鼻をくすぐる。

 そして、何より香高い。


 それにこれは……スパイスだ。


「ベルさん」


「なんだ」


「これ、飯です」


「そう……だな」


「今までの俺の食事は、生まれたての原始人レベルだった。でもこれは、ちゃんとした人類の飯です」


「そうか……」


 ベルさんは呆れた顔をしながらも、かすかに口元を緩めた。


 俺は一口、スープを飲んだ。


 熱い。

 でも、うまい。


 適度な塩気。

 獣臭さが取れた肉。

 ほのかに舌を刺激するスパイス。


 味のある料理が、ここまで幸せだと感じたことはなかった。


 口と胃が喜んでいる。


「……味が、増えている」


「泣くほどか?」


「勝手に目から出てきました」


「重症だな」


 ベルさんはそう言いながら、自分もスープを口に運んだ。


「確かに悪くない」


「美味しいって言えばいいのに……」


「事実を言ったまでだ」


「そうですか……」


「そうだ」


 久しぶりの人に出会って、上手く話せるか不安だったけど。


 この他愛もない掛け合いと最高の食事。


 (……あぁ、幸せだ)


 スゥは足元でぷるぷるしていた。

 食べるわけではないのに、湯気に反応している。

 もしかして、匂いは分かるのだろうか。


 せん人様は、神座で微動だにしない。

 だが、視線は感じる気がする。


「せん人様も、いつか食べられるようになったらいいんですけどね」


 俺がぽつりと言うと、ベルさんが妙な顔をした。


「あれも食事をするのか?」


「分かりません。でも、せっかくなら、みんなで飯を食った方がいいじゃないですか」


「……変わり者だな」


「よく言われます」


「そうか……」


 ベルさんはそれ以上、何も言わなかった。


 ただ、せん人様の方をちらりと見た。


 警戒。

 不気味さ。

 そして、わずかな諦め。


 そんなものが混じった視線だった。


 食事を終えるころには、森は完全に夜になっていた。


 火の周りだけが、ぼんやりと明るい。

 その外側は、黒い。


 この森の夜は何度経験しても慣れない。

 音が近い。

 闇が深い。

 見えない場所に、何かが潜んでいる気がする。


 ベルさんは火の位置を少し直し、俺の寝床を見た。


「アタシはこの森の調査のため、しばらくはここに世話になるつもりだ。だが、この場所にはしっかりとした手直しが必要だな」


「最近、現れた乱暴な客のせいで、手直しはしたんですけどね」


「客?」


「魔獣です。ここに攻めてきました」


「魔獣が? そうか、それは大変だったな」


「あの時は本当に死ぬかと思った……」


「明日はお前ご自慢の拠点とやらを直そう。すべてはそれからだ」


「ここ数日、ずっとリフォーム業者だ……」


「リ、リフォなんだって?」


「いえ、こっちの話です」


 前の世界でのことが、つい口をついた。


 (仕方ない、だって人げ……地球人だったもの……)


「このねぐらを見ていたら、お前のセンスが伺えるな」


 ごもっとも。


 まったくもって、彼女は絶口調だ。


 (……いや、これで合ってる)


 でも、不思議と嫌な感じはしなかった。

 言い方はきつい。

 だが、ベルさんから不器用な気遣いが伝わってくる。


 俺のために言ってくれてる言葉もある。


 それは、なんとなく分かった。


 ――その夜、俺はいつもの寝床に横になった。


 ベルさんは火の近くに座り、周囲を警戒している。

 ベテラン冒険者の背中は頼もしい。


 スゥは俺のそばで丸くなり、せん人様は神座で静かにしていた。


 ボーたちは、とっくに退社した。


 風が吹くと、草の壁が頼りなく揺れる。


 ベルさんが言った薪の置き場所。

 今夜は、その言葉が妙に耳に残った。


 温かいスープを飲んだせいか。

 人の温かみのせいか。

 今日は、少しは眠れそうだ。


 そう思ったところで、俺は眠りに落ちた。


 ――翌朝。


 目を覚ますと、ベルさんが拠点の前に立っていた。

 俺よりも遅く寝て、俺よりも早起きだった。


 腕を組んでいる。

 顔が険しい。


 いや、普段からわりと険しい気もするが、今朝は特に険しい。


「おはようございます」


「明るくなって分かったことがある」


「何がですか?」


「昨日、暗くてよく見えなかったが、これはかなりひどい」


「朝の挨拶よりも、ベルさんの挨拶らしいですね」


「昨日は薪置き場だと言ったが、訂正しよう」


 ベルさんが不気味な間を置いた。


「ここは魔族に滅ぼされた村の薪置き場だ!」


「直したのに、もう滅んでる!?」


 ベルさんは俺の拠点を見回した。


 屋根。

 壁。

 寝床。

 薪。

 入口。


 それぞれに視線を止めていく。

 俺はそのたびに、なぜか採点されている気分になった。


「ここは風が吹いたら、お前ごと飛ぶぞ」


「俺ごと!?」


「あと入口が丸見えだ。魔物には、お前が皿に盛られている餌に見えるだろうな」


「皿の餌……」


「あと薪も湿っている。火を起こす前に心が折れるぞ」


「それは、もう折れました」


「威張ることじゃない」


「それに寝床が低すぎる。お前は虫と所帯(しょたい)を持ちたいのか?」


「持ち……たくないですね」


 棘のある言葉は優に超えている。

 これは、そう暴言の乱射事件だ。


 容赦がない。


 だが、反論できる材料もない。


 実際、俺の拠点は、俺が死にもの狂いで作った場所だ。

 けれど、プロの目から見れば、穴だらけなのだろう。


 俺はぽりぽりと頭をかいた。


「そういえば、俺のいた国には、ブタ……えっと、家畜が木材の家を建てて、狼に吹き飛ばされる童話がありました」


「お前の国では、家畜が家を建てるのか!?」


「建てませんよ」


「ならばなぜ、そんな話があるんだ?」


「俺にも分かりません」


「変な国だな……」


 否定できない。


 前の世界の童話にまでダメ出し。


 ベルさんはため息をつき、腰に手を当てる。


「直すぞ」


「今からですか?」


「今からだ。このままでは冬どころか、そよ風でも終わる」


「ここを倒すのに、狼はいりませんね」


「少し直せば、狼でも倒せんさ」


 そう言って、ベルさんは作業場所を指示し始めた。


 まずは支柱を太くし、屋根に傾斜をつける。

 草を重ねただけの雨避けでは、本気の雨には負けるらしい。


 薪は地面から浮かせ、火床は石で囲み、寝床は虫と湿気を避けるために少し高くする。

 さらに入口を隠し、逃げ道もひとつ作る。


 やることが多すぎる。


 俺一人なら、どこから手をつけていいか分からなかった。


 でも、ベルさんが言うと、全部がなるほどと思える。


「ボー、ヒョロ、ガーリ!」


 ぽぽぽんっ。


 三体を召喚する。


「今日は拠点改修だ。ボーは枝運び。ヒョロは支柱の固定。ガーリは……えっと、それ以外の作業を頼む」


 ガーリが、ぴしっと腕を上げ敬礼っぽくしてみせた。


 やる気はあるらしい。


 ボーはさっそく枝を運び始めた。

 ヒョロは太めの枝を支える。


 ガーリは周囲を見回し、小さな枝や蔓を拾い始めた。


「お、いいぞ」


 俺は火を起こそうと、いつものように木の棒と板を用意する。


 こすって、こすって。


 煙が出るまでが長い。

 ここから火種にするまで、さらに長い。

 俺の掌が、先に火が付きそうだ。


 いつも通り、心が折れそうになる。


 その時、ガーリが横からちょこちょこと近づいてきた。


「ん?」


 ガーリは俺の手元を見て、首を傾げた。


「どうした?」


 そして、俺から木の棒を受け取る。


「え、やるの?」


 ガーリは細い腕を器用に動かした。


 こすり方が違う。

 力の入れ方が均一。

 角度も一定だ。


 ボゥッ!


 火が付いた。


 !?


「はやっ!」


 にしても、何だろう。


「今、煙も上がらず火が付かなかった?」


 首をこてんとさせる。


 俺が数十分かける作業を、ガーリはあっさり進めていく。


 (火種……育てる必要がないほど、しっかり火がついてる)


 枯葉を寄せ集め、枝を上に重ねて焚き火の完成。


「ガーリ……お前、めちゃくちゃ器用だったんだな!」


 ガーリが胸を張る。


 胸は棒だけど。


 ベルさんも横から見ていた。


「こいつは細かい作業向きだな」


「やっぱりそう思います?」


「戦闘で目立たないやつほど、こういうところで役に立つこともある」


「そうだったのか……縁の下の力持ちだ」


 今のガーリは、戦闘では決定打に欠ける。

 俺よりは戦力になってくれているが、三人の中では見劣りする。


 でも、火起こし、細工、罠作り。

 そういう分野ではかなり使えるかもしれない。


「ガーリ、お前、将来的には料理人になるんじゃないか?」


 ガーリが首を傾げた。


「いや、その前に料理を食べられるようにならないとだな」


「おい! その前に、家の補強をやれ」


「……はい」


 ベルさんによって、現実への強制帰還。


 作業は思ったより進んだ。


 ボーが枝を運ぶ。

 ヒョロが支柱を押さえる。

 ガーリが蔓を結ぶ。


 スゥは屋根や補強に使う、草系の作業だ。

 ベルさんが指示を出し、サポートに徹する。


 ちなみに俺はベルさんのサポートのサポートだ。


 せん人様は所定のポジションでこっちを見てる。

 当然、働く気はないらしい。


「せん人様、監督ですか?」


 せん人様はくるりと巻いた手をわずかに上げた。


 肯定なのか、気のせいなのか。

 解釈は自由だ。


「お前のところは、妙なのばかりだな」


「個性的で愉快な仲間たちです」


 そんなことをしているうちに、俺はふと違和感に気づいた。


「あれ……!?」


「どうした」


「そういえば……ボーたち、今日はこっちにずいぶん長居するね?」


 いつもなら、一分ほどで消えていた気がする。


 いや、正確に数えているわけではない。

 だけど、前は六十秒前後で消えていたはずだ。


 今は、明らかにそれより長い。


 ボーはまだ枝を運んでいる。

 ヒョロも支柱を押さえている。

 ガーリも蔓を結んでいる。


 作業中に何度か再召喚はした。

 それでも、一回ごとの持ちが、前より伸びた気がする。


「前より、滞在時間が長くなってる気がする」


「スキルレベルか?」


「そう……なのですかね」


「自分のことだろう」


「俺のスキル、誰にも説明してもらってないんです」


「そもそも、スキルは誰からも説明されないが……どういうことだ?」


「分からないことだらけだ、ということです」


「ステータスカードを見せろ」


「え……」


「確認した方が早い」


「それは……今はちょっと」


「なぜ渋る?」


「見せたくない部分がある、というか恥ずかしいというか」


「モジモジするな、とにかく見せろ」


「あなたは、鬼ですか?」


「戦士だ……」


 それも、ごもっとも。


「まあいい、ステータスカードは、明日確認する。今は先に拠点だ」


 ベルさんはそう言って、俺の逃げ道を一日だけ残し、作業へ戻った。


 俺のステータスカード。

 そこには、あの文字がある。


 クリエイターズ。

 階級、お絵描きニート。


 人様に見せるには、あまりにも重い十字架だ。


 ――作業を続けるうちに、拠点は少しずつ形を変えた。


 吹けば飛ぶような木の家。

 朝の段階では、本当にそうだった。


 (ですが、何ということでしょう……!)


 拠点には太めの支柱が入り、中は広めの贅沢空間、屋根が厚くなり傾きができたことで雨もしのげます。

 さらに入口が隠れ、寝床も前より高くなり、虫や湿気に強くなりました。


 火床は頑丈になり、火は消えにくい構造に。

 薪置き場ができたことで、もう壊滅した、村の薪置き場とは言わせません。


 ふぅ。


 コテージなんて、夢のまた夢だが。

 拠点がまたパワーアップできた。


「どうですか?」


 俺はちょっぴり期待しながら聞いた。


 ベルさんは拠点を見回す。


「ズバリ、このお宅の信頼度は? まさかの高得点がでるのか!?」


「……三割くらいだな」


「上がった……か!?」


「まだ及第点(きゅうだいてん)にはほど遠い」


「でも、三割です。朝よりはいいですよね?」


「生存率は、幾分か上がったんじゃないか」


「ですが、猿が人にはなれましたよね?」


「……お前の例えは、個性的すぎる」


「よく言われます」


 他愛もない、会話が飛び交う。


 ――俺は改修された拠点を見上げた。


 風はまだ入る。

 隙間もある。

 きっと、嵐が来たら負ける。


 だが、それがいい。


 俺一人では、きっとここまで作れなかった。


 召喚棒の三人の協力があった。

 ガーリの思わぬ個性も見えた。

 スゥも手伝ってくれた。

 ベルさんがそれら全部をまとめ上げてくれた。


 せん人様は……ちゃんと見ていた。


 きっと必要なことだ。

 そうに違いない。


 こうして俺の拠点は、壊滅目前の薪置き場から、少しは耐えられる木の家へと進化した。


 夜になり、俺はわずかに丈夫になった木の家の中で横になる。


 昨日より、風は少ない。

 火もいい感じだ。


 それと、虫と所帯を持たなくてよかった。


 今日もやれることを頑張れた。


 だが、俺には明日がある。


 ベルさんにステータスカードを見せる明日。


 俺は、少しだけ丈夫になった木の家の中で、吹けば飛ぶような尊厳を抱えながら――


 明日に震えて眠った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。