表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/60

58. 三つの神託

お土産の石鹸に、荷台内に<安全運搬>を揺るがしかねないほどの激震が走った。


「なんですかこの石鹸は!?」

「毛並みがこんなに・・・」

「うう、こんなにさらさらで、艶やかに・・・」


歓喜、いや狂気とも言える声は獣人達、そしてノエリア、ヤコによるものだった。思いもよらない熱烈な評価にミロはたじろぎながら、<倉庫>の中にあっては欲しい時に言い辛いだろうと、石鹸を紙に包んで<状態固定>の魔道具で封をし、<談話室>の隅に置くことにした。


「たくさんあるので、なくなったらここから自分で取ってくださいね」


そう言って笑うミロに、祈りを捧げる者までいたという。


「しかしどうしてミロさんはこう、こんなにすごい物を『買い物の途中、露店で見つけました』みたいなテンションで持ってこれるんでしょうね」

「森の民の産物に精霊の加護ですからね」


ラキムとユゼンが<談話室>の端に積まれていく石鹸を見ながら、ははは、と乾いた笑いを漏らす。


「これ多分、ジニさん達にも何気なくプレゼントして発狂されるパターンだと僕は思います」

「ありありと想像できますね」





翌朝。

いつも起床時間の早いユゼンが今日に限ってなかなか姿を現さなかった。特に起床時間を定めているわけでもないので好きにしてもらっていいのだが、彼は<草原>にある桜の木の下で祈ることを朝の日課としているため、少し気になったミロはベルベリに頼んで様子を見てもらうことにした。

するとしばらく、疲れ果てたような顔のユゼンが、ラキムに肩を借りて<談話室>に現れた。


「ユゼンさん、大丈夫ですか!?」


様子を見に行ったベルベリは床に倒れているユゼンを発見。彼のステータスに「魔力枯渇」の状態異常があったため、急ぎ回復薬を飲ませたのだという。


「すみませんミロ君、貴重な魔力回復薬を使用させてもらいました」

「いいんですよそんなの!寝てなくて大丈夫なんですか?」

「今日はしばらく少し休ませてもらいます。ですがその前にお知らせしないといけないことがありまして」


ユゼンの頼みで主だった者達が<談話室>に集められた。


「獣人達からは俺とイッカが代表して参加する。他には後で俺から伝える、でいいかユゼン?」

「ええファンク、よろしくお願いします。・・・それで早速ですが、三つほど、神託を受けました」


三つも、と小さく悲鳴をあげたのはノエリアだった。

なにかと神との接点の多いミロにはいまいちピンとこないが、神託とは一つ受けるだけでも大変に貴重な出来事である。


「ただでさえ稀なものを三つも同時にだなんて、ただ事ではありませんわ!魔力も枯渇するはずです!」


ノエリアの言葉に、しかしユゼンは首を横に振り、大義ある旅に同行するのだからこのくらいのことは涼しい顔でできるようにならなくては、とひとり小さく呟くのであった。


「ほれで、ムグムグ、神託というのは、何なのじゃ?」

「もぐもぐ、何じゃのじゃ?」


そう言うラナとハッチは、だいぶ早めのおやつの時間を謳歌していた。

「一つだけですよ」とベルベリに念を押されたホットドッグには、すりおろした野菜の甘みを加えたトマトソースが溢れるほどにかかっている。


「一つは個人的なものですので簡単に」


ユゼンはルッサンモーヲの王都司教によって幽閉されていたのだが、それは神託を受ける能力がなくなった司教が私的に行ったものなのか、それよりも上、シェシュマ教の本部であるヤルジャハにもまだ黒幕がいるのか、ユゼンはそれを判断しかねていた。

というのも、


「実は私は次期教皇の候補だったものですから」

「「教皇様の候補!?」」


ラキムとノエリア、ヤコが同時に声を上げた。


「ええ、それで当時の教皇候補が私を狙ったのではと疑っていたのですが、神託はその候補の中の一人、私の弟が白だというものでした」


実の弟を疑うことに余程苦心していたのだろう、心底ほっとしたようにユゼンは微笑んだ。


「その言い方では他の候補者の線が消えたわけではないようですが、少なくとも肉親を疑う必要がなくなったのは良かったですわ。弟さんはヤルジャハに?」

「ええ。ヤルジャハで会えればいいのですが」


二つ目の神託は、シェシュマ神がコゾとの面会を望んでいるという内容だった。


「コゾ君とですか?ヤルジャハに着いた時に呼べばいいですかね」

「おお、どこからどう探したものかと思っていましたが、ミロ君のお知り合いでしたか」

「ツィーレの友達です。あ、<草原>の桜のところにあるメテアちゃん像を作ったのがコゾ君ですよ」

「なるほど、ではコゾ殿の件はヤルジャハ到着の際にお願いします」


最後の一つ、これがおそらく今回の本題なのですが、とユゼンは居住まいを正した。


「ヤルジャハでスタンピードが起こります」

「「スタンピード!!」」


皆の驚く様子に、ミロはことの重大さを予感し、


「ミロさん、スタンピードというのは、ごく稀に起こるダンジョンから大量の魔物が溢れて街を襲う現象のことです」


ラキムの説明に遅れて目を剥いた。


「た、大変じゃないですか!ユゼンさん、魔物が来るのはいつですか!?」

「すみません、いつ来るかまでは・・・。今日すぐにというわけではないと思いますが」

「そうですか・・・よし、わかりました」


ミロは迷う素振りも見せず立ち上がった。


「ファンクさん、獣人の皆さんには野営地食堂はしばらくお休みすると伝えてください」

「わかった」

「ラナは外のエルテと交代して、ヤルジャハまで全速力で飛んでくれる?」

「お安いごようじゃ」

「ハッチも飛ぶじゃ」

「み、ミロ君、行くのですか!?スタンピードはとても危険です。賢明な冒険者であればできる限り発生地域を避けるような現象なのですよ?」


ユゼンはミロに問うた。

ミロには縁もゆかりもない土地である。回避する選択肢もある、と。


「縁もゆかりもありありですよ、ユゼンさんの弟さんがいるんですよね!?それにユゼンさんに神託があったってことは、シェシュマ様は僕達に行って欲しいんじゃないでしょうか?僕にはよく運び、よく導くという使命があります。シェシュマ様が行けというのなら、僕にもできることがあるということです!」

「使命・・・あなたは・・・」


ちょうどそこにエルテから伝言を受けたというベルベリが現れた。


「マスター。エルテが野営地に到着したそうですが、何やら魔物が出現しているようで」


急いで外に出ると、エルテは見上げるほどの巨体、コウモリのような翼を携えた猫の魔物と対峙していた。周りには戦々恐々と武器を構える冒険者が数名、彼らに向けられた鋭い爪に蔦が絡まりギチギチと音を立てている。


「エルテ、大じょ・・・」

「魔力いっぱい!」


エルテに声をかけようとするミロの横を、ハッチが荷台から飛び出す。

やはり技名を詠唱することは叶わないが、魔力で膨れ上がった巨大な刀身が猫の巨体を綺麗に両断した。


「済まんのう、ハッチ」

「ハッチはスピピンカードで八十五ッピキも魔物を斬るだ!」

「なんじゃそら・・・」


安全を確認すると、ユゼンは傷ついた冒険者の元に向かおうとする。


「ユゼンさん、回復は僕が。ユゼンさんの回復魔法はスタンピードで必要になると思うので、今はしっかり休んでいてください」

「・・・そうですね。ではお言葉に甘えます」


ミロはユゼンの魔法の代わりにフルポーションを呼び出し、よく振ってから冒険者の傷にふりかけた。


「ふフルポーション!?・・・済まんが、手持ちがないんだ」

「構いませんよ、えっと、旅聖ですので」


ミロの言葉を背中で聞き、ユゼンはクスリと笑って荷台へと戻っていった。





神国ヤルジャハは大陸の最西端、海を背にして扇状に拡がる国である。

その中心、扇の要に位置するのは、崖壁から海を見下ろすように佇むシェシュマ教の総本山、パルシャーマ大聖堂。太古の昔、シェシュマ神がこの大陸に初めて足をついた場所がここだと言われている。

大聖堂の長を教皇という。これはすなわち各国に散らばる全ての神殿や教会をまとめ上げるシェシュマ教の頂点であるのだが、その教皇、ホエーデル=ヨルトに神託が下ったのは四日前のことだった。

数日中にヤルジャハをスタンピードが襲う。その神託は瞬く間に国中に広まった。

幸いだったのは、ヤルジャハの街や村が比較的密集して存在していることだった。スタンピードの報も速やかに知れ渡り、二日とかからないうちに避難を終えることができた。

他国で言うところの王国騎士団にあたるヤルジャハの守り手「武僧」なる者達と冒険者ギルドが連携し、迎撃体制も着々と整いつつある。それでも不安をぬぐいきれないのは、ヤルジャハが所有する大小十を超えるダンジョンの、そのどこから魔物が溢れてくるのかが分からないからだった。


「ヨルト様、ご報告いたします。結界の準備ならびに外街への武僧、冒険者達の配置が完了しました。さらに全方角十kmの位置に<遠視>スキル持ちの斥候を派遣、こちらも全て配置を完了しております」


報告を聞いたヨルトは小さくため息を吐き、


「ありがとうございます。戦力の分散には不安を覚えますが、どのダンジョンが溢れるかわからない以上仕方のないことですね」

「はい、これが最善かと」


うむ、と自分に言い聞かせるように深く頷く。

ヤルジャハは高い街壁によって、内側の中街、外側の外街に別れている。その強固な壁はそれ全体が結界の魔道具で、有事の際には外街の住民は中街に避難し、聖職者達によって張られた街壁の結界が外敵の襲来から民を守るのである。

そして外街――扇の周上に、弧を描くように戦力を配置、そこからさらに全方角十kmのところに<遠視>スキル持ちを配置し、スタンピードの発生を確認次第狼煙を上げ、十kmの余裕があるうちに全戦力を集めて迎撃するというのが今作戦の概要である。


「どうかヤルジャハの民の上に、シェシュマ様のご加護があらんことを」


そうして迎えた、神託から五日目の朝。

ヨルトをはじめとする聖職者達、そして武僧、冒険者達は、祈ることも忘れてただ立ち尽くした。

<遠視>スキル持ちを配置したのが八箇所。その全てから狼煙が上がったからである。

話数を間違えていました。57から58に修正しています。

ブックマーク登録や評価ポイントをいただきありがとうございます。引っ越しでネット環境が整わず、更新が途切れましたが、定期的に投稿できるようにしたいと思います。読んでいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ