56. 野営地食堂
56. 野営地食堂
「野営地で食堂ですか?なんだか面白そうですね」
<食堂>の厨房で朝食の準備をしながら、ノエリアはミロの構想に目を輝かせた。同じく手伝いをしていた獣人達も、ノエリア同様に興味津々である。
「獣人の皆さんをゾトに送ったら始めようかと思ってるんですよ」
「え、・・・あの、ヤルジャハまでの道中ではできないのですか?」
ミロの言葉に、獣人の一人がおずおずと尋ねた。
ミロとしては「一刻も早く故郷に帰りたいだろう」と獣人達の心情を慮ったつもりだったが、意外にも獣人達はそうでもないらしい。
「よければ私達もお手伝いさせていただきたいのですが」
「いいんですか?ゾトに着くの遅くなりますし、あまり稼げないと思うのでお給料もまともに出せないと思いますよ?」
「お、お給料!?命を助けていただいた上、毎日充分な食事をいただいているというのに、お給料などとても貰えません。それにこの荷台での経験はとても貴重なものばかりですので!」
うんうん、と他の獣人達も大いに頷く。
「そうですわミロ君。ミロ君の美味しいお料理を沢山の方々に食べていただきたいです!」
声を張るノエリアに、これにもまた獣人達が頷いた。
「・・・私も、お手伝いしたいです」
消え入るような声で主張したのは、猫の獣人だった。暗殺者ギルドの地下牢で、腐敗の進んだ姉の亡骸を抱いていた少女である。精神的に一番病んでいた彼女も、徐々にではあるが日常を取り戻しつつある。まだ心の傷は癒えてはいないものの、何かをしている方が気がまぎれるからと、昨日から厨房へ顔を出すようになっていた。
「じゃあ、やってみますか」
かくして一行は、ツィーレから次なる目的地、神国ヤルジャハまでの道中、ミロの念願だった野営地で食堂を開くこととなった。
*
「これがトーフ、という食べ物ですか・・・」
「何だか白い粘土のようですわ」
初めて見る食材に、ユゼンとノエリアは訝しげな反応を示した。
現在ミロ達は野営地食堂の開店に向け、四つの班に分かれてそれぞれ行動中である。
第一班、ミロとラナはツィーレの王都ソントプソンをひたすら北上した大陸の端、見渡す限りに広がる大海原に来ていた。その目的は<ユニットタイプ:海>の開放、そしてに「にがり」である。荷台内に設置した<海>の海水からにがりを生成し、早速豆腐を試作したのであった。
その豆腐に苦めの評価を下したのが、荷台の中で食材の下準備をする第二班、ユゼンとノエリアだ。同じく第二班の獣人達も、控えめではあるが訝しげな目を豆腐に向けている。
「あはは、食べると美味しいですよ?しかもこれ、冷たい暖かい、主菜副菜を問わずいろんな料理に使えるんですよ」
ミロは言って、豆腐をスプーンで掬って醤油を一垂らし。ユゼンとノエリアは恐る恐るといった風に口へと運ぶが、口に入れた瞬間、その表情が一変する。
「あれ?美味しいです」
「ええ。薄味ですが味わい深いと言うか。この醤油との相性も抜群ですね」
「同じ大豆からできてますからね」
ユゼンとノエリアの反応を見て、獣人達も豆腐を口にする。あっという間に試作品がなくなったのは言うまでもない。
一方、先に野営地で降ろされていた第三、第四班は、周辺の森で狩りと採取に勤しんでいた。
「向こう三百メートルのところにレッサーコッコが三羽おるのう。む、あそこに果物もある。果物はプトラが好きじゃから是非採取したいところじゃ」
エルテの索敵を受けて行動を開始するのは、魔道具『千手の一角』をすっかり使いこなすようになったヤコ、そして元は冒険者をしていたという虎の獣人ファンクである。
獣人は、よりヒト族に見た目の近い者、より獣の要素が強い者と様々だが、彼は後者である。エルテより大きく逞しい体を覆う毛並みには、トラ特有の縞模様が走り、鋭い爪を有する手には、ミロから譲り受けたサラコナーテ・ダンジョン産の黒刀を携えている。
木々の合間を縫うように、その刀身は正確にレッサーコッコを捉え、美しい羽の黄色を血の赤に染めていく。
「見事じゃ」
「いや、半分以上は刀だ。こんなに良い剣を本当にもらって良いんだろうか」
「うちで剣を扱うのはハッチとラキムくらいじゃからな。主殿が良いというなら貰っておけばええじゃろうて」
「なんというか、全く頓着しないのだな」
「何に頓着するかの違いじゃろう?今も何とかという食材を求めて龍を飛ばしておられるくらいじゃからな。フォフォフォ、ほんに面白いお方じゃ」
「ふふ、そうだな」
レッサーコッコの血抜きを簡単に済ませ、解体は荷台の中の第二班に任せる。
ヤコは果物を採取し終え、ミロがよく使用している野草の採取に取り掛かっていた。伸縮自在の魔力の腕が存分に役立っている。
「エルテ様、果物の収納をお願いします。それと、これは確かシオナ草ですよね?」
「様などいらんわい。確かに、主殿が味つけによう使う草じゃな」
探り探り、しかし順調に第三班の食材調達は進む。
もう一つの狩り、採取班はラキム、ハッチ、そしてこれも元冒険者だという梟の獣人イッカの三名である。
イッカはヒト族の要素が強く、ヒト族の体に、鼻から上だけ梟の被り物をしているような姿である。背中の翼は普段は腕にぴったりと張り付いていて、必要があれば広げて空を飛ぶこともできるのだという。
<遠視>スキルによる索敵と弓を操る、典型的な狩人が彼女である。
ファンクもイッカも普段は解体係としてミロの手伝いをしているが、よければ体を動かしたいと、狩り採取班に組み込んでもらっていた。
「こちらの方角、二百メートル先にフォレストボアがいますね」
草食で臭みがない、美味しい、というイッカの情報を得て、ハッチが我先にとフォレストボアの元へ向かう。
「あ、待ってよハッチ!」
「メだ!ハッチは待ってよしない!・・・あ!」
ラキムが後を追うが、ハッチは何かを見つけ途中で方向転換。結局ラキムは一人で、彼の四倍ほどの巨体を沈める羽目になった。
「はあ、はあ、雷魔法を使わなくても余裕で勝てるくらい修行しないと・・・」
雷魔法を得意とする彼は、しかし「雷を使うと肉が焦げる」とラナやハッチに怒られるので、最近では魔法無しで戦うよう努めている。イッカの弓のサポートがあったとはいえ、ある程度の余裕を持って魔物を狩るあたり、さすがは【勇者】といえる。
「イッカさん、サポートありがとうございました!すごい威力ですね」
「いえ、完全に弓の力です」
イッカの握る弓もまた、ミロから譲り受けた渓谷ダンジョン産のものである。魔力の矢を生成するという魔弓は相応に魔力を消費してしまうのだが、矢を持ち歩かなくていいという大きなメリットはそれを補って有り余る。
「しかしこんな素晴らしい弓を貰ってよかったのでしょうか。売れば相当な額になるでしょうに」
「ミロさんはそういうこと、あまり気にしませんからね。額を知れば多少驚くかもしれませんけど、それでも結局はイッカさんに渡したと思いますよ。僕のこの剣もミロさんに貰ったものです。恩返ししたくて頑張ってるつもりなんですけど、ミロさん何でもできるんで、全然返せてなくて」
ミロに命を救われたという同じ境遇のラキムが笑うのを見て、イッカは魔弓を握りしめる。
「そうですね。私も恩を返さないと」
「とりあえず今は食材調達班として貢献できるように頑張りましょう!」
「はい!」
決意を新たにする二人。そこに果物を抱えホクホク顔のハッチが合流した。
「ラキム見て!プトラのオミアゲがたぷたぷだ!」
「あ、ハッチどこ行ってたの!?フォレストボアと戦うの大変だったんだよ?」
「む!ラキムもイッカもコラですよ!マイーゴにならないために、みっちりハッチについてくるんですよ!」
あくまで自分は悪くないと主張するハッチを筆頭に?、第四班の食材調達もそれなりに?順調である。
*
日が傾き始める頃には各班合流し、野営地にて食堂の準備に取り掛かっていた。
下準備はすでに終わっているので、あとは煮込むだけ焼くだけの調理をミロとノエリアが担当、金銭のやりとりはユゼン、一応の護衛役をエルテとファンクが担当する。他の者達は荷台内の<草原>で野営地食堂ごっこをしているらしい。
野営地にはミロ達の他にも冒険者パーティーが二組。そして商隊が一組、これも護衛に冒険者を伴っている。設営の手際の良さから冒険者の質が伺えた。
「お客様がいて良かったですわね」
「ふふ、食べてもらえるかは分かりませんけどね」
「まあ!ミロ君のお料理ならきっとすぐに売れてしまいますわ!私が保証します!」
ノエリアが鼻息荒く、声高らかに宣言する。
ラキムが木板に電熱で焦げ目をつけて作ったお手製の看板を荷車に掲げると、すぐに注目が集まった。しかしそれは冷ややかで、多少攻撃的なものをはらんでいた。
「食堂?こんな野営地で?」
「やれやれ駆け出しの商人ですか。他と違うことをすればいいというものではないのですがねえ」
「どうせ食料が手に入りにくい場所なのをいいことに、質の悪い干し肉か何かを方外な値段で売りつける気だろ?」
しかし冒険者や商人達のそんな予想も、調理が進むにつれ裏切られることとなる。
本日のメニューは具だくさんの豚汁風味噌鍋とレッサーコッコの焼き鳥。独特な、しかしどこか懐かしい味噌の匂いと、甘辛いタレが焦げる香ばしい匂いに、冷ややかだった彼らの目にも次第に興味の色がさしていった。
「・・・なんだ、この匂いは」
誘惑に勝てずミロに話しかけたのは冒険者パーティーの一人だった。
「君が店主かな?とてもいい匂いだけど、どういう料理なんだい?」
「いらっしゃいませ。こっちの鍋は味噌、こっちの焼き鳥は醤油という調味料を使っています。一パーティにつき一人に限りますけど、ご試食いかがですか?」
「聞いたことのない調味料ばかりだな。じゃあ僕が代表して試食させてもうおうかな。『宵越し長者』のル=チエンだ」
「僕はミロです。パーティーは組んでませんけど、C級冒険者をしています」
「商人では・・・んっ!!」
商人ではなく冒険者の、しかもC級がこんなリスキーな商売を。そんなチエンの疑問は、鍋の汁を口にした途端に忘却の彼方へと吹き飛んでいった。
「う、うまい!おい、みんな!!」
利発そうな出で立ちのチエンは目を剥いて仲間達を呼び寄せた。
「鍋も串も四人前頼むよ!いくらだい?」
「鍋がこの器一杯で五十オロン、串が一本十オロン、四人前で二百四十オロンです」
「おい、結構な額だが、いいのか?」
「そうよ!あんたいつも倹約倹約ってうるさいくせに」
「で、でも、とってもいい匂い・・・」
「安いな。串は一人三本でお願いできるかい?」
「「ええっ!!?」」
リーダーだというチエンは普段は相当の節約家であるらしく、彼の大盤振る舞いに何事かと仲間達がたじろぐ。
「えっと、じゃあ全部で三百二十オロンですけど、いいですか?」
「ああ、頼むよ」
珍しいこともあるもんだ、と盾職らしき大柄の男が目を丸くする。
「もうじきツィーレに着くってのに、こんなところで無駄遣いしてどうすんのよ!」
「無駄遣い?ふふ、食べた後でもそう言えるなら、ここのお代は僕の取り分から出そうじゃないか。こんな野営地で、しかもこの味、この価格なら買いも買い、大買いだ!こんな珍しい料理を食べ損ねたら【商人】職の名が泣くというものだよ!」
頼みもしないのにチエンが大声で宣伝してくれたおかげで、様子を見ていた他のパーティーもぞろぞろとやってきた。鍋と串肉が飛ぶように売れていく。
「な、なんだこの味は!?」
「豆腐?聞いたことないが・・・いやうまいな!」
「野菜も肉もたっぷりでうめぇ!!もう一杯!」
「串肉もサイコー!この甘辛いタレは何!?」
それぞれの設営場所に戻るのも忘れ、大鍋の周りを囲むように座り込み、味の感想とおかわりの声が飛び交う。皆が一心不乱に食べる様子をミロ達は満足げに眺めていた。
「具材もなくなってきたし、そろそろシメのうどんにしようかな。ノエリアさん、薪を追加して火を大きくしてもらえますか?」
「心得ましたわ・・・あれ?なんだか急に火が大きくなったような。どうです、ミロ君?」
「あホントだ、追加しなくてもちょうどいいですね」
半茹でにしておいたうどんを鍋に入れ、野菜やボア肉の出汁が染み込んだ味噌スープを吸わせる。別に出した小さな鍋にはスープを移して卵を落とし、ポーチドエッグも作る。
サンプル用の器にうどんと卵をよそい、最後にネギを散らせば味噌煮込みうどんの完成である。
「シメのうどんはいかがですか?この量で、十五オロンでいかがでしょう」
ミロの言葉に、三杯目をどうしようかと悩んでいた者達が迷わず食いついた。
「くう、これもうまい!こんなに太い麺は初めてだが、モチモチでいいな!」
「半熟卵とスープの相性も絶妙ですね!」
味噌煮込みうどんも好評である。
おかわりの声がようやくおさまった頃、ミロはおまけのデザートにと果物入りのアイスクリームを配ってまわったのだが、これにもまた驚きの声が上がった。
「こ、これもうまい!!ちょっと待て、おまけって、これタダでいいのか?」
「ミルクを氷魔法で凍らせているんでしょうか?いや、それにしては柔らかいこの食感は一体・・・」
「たまに果物の甘酸っぱいのがいいね!」
嬉しい評価を受けながら、ミロがアイスクリームを配る後ろをユゼンもついてまわり、彼は傷ついた冒険者達に治癒魔法をかけていく。
「旅聖、と言いまして、聖職系の職業を授かった者はこうして治癒魔法を無償で施しながら旅をすることで職業レベルを上げ、徳を積むのです」
「へぇ。尊い職業ですね、聖職者の方々は」
「はは、ミロ君程ではありませんよ」
「僕?ふふ、僕は全然尊くないじゃないですか。それよりなんか今日の治癒魔法、いつもより効果が高くないですか?」
「そうですね。なんでしょう、今日は特に調子が良いようです。シェシュマ様のご加護に感謝せねばなりません」
「メテアちゃんみたいに、シェシュマ様にも何かお礼ができればいいんですけどね」
「はは、ミロ君の料理ならシェシュマ様もさぞお喜びになるでしょうね」
「え、料理ですか?僕としてはもっとこう手の込んだ贈り物がいいと思うんですけど。例えばほら、精霊石って綺麗な色がたくさんあるじゃないですか、あれをちぎり絵みたいに貼り付けてシェシュマ様の絵を作るとか」
「いやいや、それはいくら何でも」
「やっぱりダメですかね。僕、絵心ないですしね」
問題は絵心ではなく、出来上がるものが大陸戦争を巻き起こすのに丁度いい引き金になることなのだが、あくまで純粋なミロにそれを指摘するほどユゼンは野暮ではない。
「祈りと同じで、毎日少しずつ捧げるのが良いのではないでしょうか。私はミロ君の料理が一番だと思いますよ」
「なるほど、さすが司祭様だけありますね。今日メテアちゃんにお供えする時にでも相談してみます」
人知れず大陸戦争の勃発を回避できたことに、ユゼンは胸を撫で下ろすのであった。
「お待たせしました、デザートをどうぞ」
アイスクリームのサービスも、残るは『宵越し長者』の四人に配るのみという時だった。
「ミロさん、でしたよね?だ、大丈夫ですか?」
『宵越し長者』の魔法使いらしき女性が口元を押さえてミロを、いやミロの周りをわせしなく見回した。
「え、大丈夫って何がですか?」
「精霊が、ちょっと気になって、見てみたらその、いっぱい・・・」
「ちょっとフラー!」
動転する彼女の言葉を、仲間であるもう一人の女性が引き継ぐ。
「ミロ君ごめんね!この子【精霊魔術師】で、多分スキルの<精霊眼>で何かを見てるんだと思うの。ほらフラー、ミロ君がどうしたっていうの!?」
「ミロさんの周りに、精霊がいっぱい・・・埋め尽くすくらい!」
ミロが首を傾げたのと同時、エルテが突然声を荒げた。
「わかったわい!頼んでやるから少し黙っとれ!!」
「ど、どうしたの、エルテ?」
「・・・それがですな、主殿・・・先日、精霊に料理を振る舞っておられたじゃろ?あれが世界中の精霊達に伝わってしまったようで、その、料理を求めて集まってきとるのですじゃ」
「精霊達がここに?」
あたりを見回すが、ミロには何も見えない。
「さっき鍋の火力が上がりましたじゃろ?それにユゼンの回復力も。ああやって手伝いをするから、飯を食わせて欲しいと言うとるんですじゃ」
「ああ、あれ精霊達のおかげだったんだ。いいよ、って伝えてくれる?」
「主殿の声は精霊にも聞こえておりますじゃ。たいそう喜んでおりますわい」
まだ味噌鍋の汁が残っていたのでうどんを入れて火にかける。
「たくさん来てるってどのくらいだろう、これじゃあ足りないよね?」
ミロは言って、ジャムパンやサンドイッチ、ハンバーガー等、作り置きを次々に呼び出す。すると呼び出す側から料理が砂のように崩れ、風に乗って宙に消えていった。
「ぬ、主殿!もうその辺で十分ですじゃ。きりがありませんでのう」
「そう?じゃあ今日はこれが最後ね」
果物入りのアイスクリームを呼び出すと、フラーがわあ、と声を漏らした。
「精霊達、とても喜んでるみたいです」
「あはは、アイスクリームが好きなんですかね」
僕にも姿が見えたらいいのに、とミロはフラーを羨ましく思う。
「おい商人の旦那。俺はよくわからんが、あのデザート、相当高級なんじゃねぇのか?」
「そうですね・・・材料はわかりませんが、製造、保存に相当な氷魔法を使用するはずです。長らく商売に携わる私すら知らないという希少性も加味して・・・先ほどいただいた量を、私なら百オロンで提供しますかね」
「百!?じゃあ今出したあの大量のやつなら」
「ざっと三万オロンほどでしょうかね」
「さ、三ま・・・」
「それをあたかも、その辺で摘んだ花でもプレゼントするような顔で差し出していますからね。イタい新人かと思っていましたが、なかなかどうして底が見えませんよ」
冒険者や商人達がどよめく中、大量のアイスクリームも溶けて消えていった。
「主殿、手を」
「え、もしかして、また?」
差し出した両手にザザザ、と大量の精霊石が積み上がる。
「お手伝いしてくれるだけでいいのに」
「手伝いの方はまだ精霊石を生み出せない下級精霊の礼で、その精霊石は上級精霊からですじゃ」
「「せ、精霊石!!?」」
「あ、皆さんもおひとつどうですか?」
「「いやいやいや!!」」
ただ野営地に居合わせただけの一同の声が綺麗に重なった。ミロと精霊のやりとりを目の前で見ていたフラーはあまりのショックで気を失っている。
確か精霊石とは一つで百万単位のオロンが動く代物ではなかったか、そもそも【精霊魔術師】以外のヒト族が精霊と心を通わせることなど不可能ではなかったか。これまで積み上げてきた知識を、経験を、誰もが疑う瞬間であった。
「いけませんよミロ君。皆さん驚いているじゃありませんか」
作りすぎた煮豆のおすそ分けじゃないんですからね、とユゼンはあくまで優しくミロをたしなめる。
「そうですか。これからもたくさん貰うことになりそうですし、やっぱりちぎり絵みたいにして、シェシュマ様のプレゼントにしましょうか」
思わぬ形で再浮上した大陸戦争の危機。
我が使命とは大陸戦争の未然回避なのか、ともすればその責はあまりにも重大である。ユゼンは一人頭を抱えるのであった。
精霊がご飯を食べる描写を「光になって消える」から「砂のように崩れて消える」ふうに修正しました。




