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55. これから

「僕はミロです。一月半ほど前に十五歳になりました。職業は【御者】。生まれ故郷の村への帰り方がわからなくなって、知り合いのナックおじさんを探して旅をしています」


こんな風に話せることだけで構いませんよ、とミロが先陣を切って自己紹介した。

その流れでまずはミロの召喚スキル達が挨拶していく。


「オイラはラプトラルのプトラ!歳は知らねェ、ヒト族みたいにいちいち数えたりしねぇからナ。野党に襲われて死んデ、マスターのスキルになったんダ。旅の目的は走ることと、食べることかナ!」


金色に煌めく毛並み。同じく金色の瞳には、瞳孔の黒が縦長に刻まれている。長い尻尾を携えた二足歩行のトカゲの魔物であるが、小さな前肢生えた羽根や、後ろ肢の爪にはむしろ鳥の要素が多く見られる。


「ハッチはハッチだ!こっちはタマゴのサンドっち。あとこれはテリヤキのハンバガーで、これは、」


長い髪を左右に束ねた幼女は自己紹介よりもお気に入りのパンの紹介に忙しい。髪も肌も雪のように真っ白な中、目のオレンジが鮮烈に際立っている。


「えっと僕のスキルで<護衛戦士>のハッチです」

「そう。ハッチはパンを食べるために生まれてしまった<護衛戦士>。なんだなんだもマップタッツにしてしまう!」


ハッチはヴォルフを見やり、パン同盟の盟主としてやってやったぞとばかりに頷いた。それにヴォルフもさすがだ、と大きく頷き返す。


「私はマスターのスキル<コンシェルジュ>のベルベリと申します。主にマスターのサポートをするのが私の使命でございます」


ベルのような花柄のスカートを蹴り上げ、リリリーンと鳴らしたのは、身長三十センチにも満たない執事服の少女。ふわりと宙を漂い深々と礼をしたベルベリは、『月華』にもらった<遠視>の眼鏡をくい、とかけ直した。


「妾もマスターのスキル、龍のラナじゃ。三千年は生きとるかの。多分」


真紅の髪と瞳を持つ少女はヒヒヒ、と笑う。そこに褐色の肌の青年が、いやいやいや、と割って入った。


「サバを読むでない、一万は軽く超えとるじゃろうが。儂は同じく主殿のスキル、森巨人のエルテじゃ」


木の枝が絡み合ってできたドレッドヘアーを後ろで束ねた青年が言う。瞳の色は森の色を映したような濃緑。薄着な服装から垣間見える引き締まった体のせいか、見た目はミロより少し年上に見える。


「りゅ、龍に森巨人ですか?」

「あの御伽話に出てくる?」


半信半疑で聞き返すノエリアとヤコに、ラナ達は桜の木から距離をとって人化を解くことで答えた。

みるみるうちに体積を増していく二人の様子に、ノエリア達は口をあんぐりと開けたまま絶句。正体を知ってはいるものの、姿を見るのは初めてだというユゼンやヴォルフ一味も、龍と森巨人の姿に驚きの色を隠せないようであった。


「じゃあ次はラキム君とユゼンさん、お願いします」

「はい!」


ラキムは立ち上がり、意を決したように<認識阻害>の指輪を外した。指輪を嵌めるところを見ていたミロには何の変化も見てとれないが、他の者達には、茶髪の冴えない印象だった少年が金髪の凛々しい姿に様変わりして見えた。


「僕はラキムです。歳は十三、天然勇者です」

「天然勇者だって!?」


ジニの反応で、ベルベリ、ラナ、エルテは天然勇者の希少性をなんとなく理解した。


「大丈夫ですよジニさん。ラキム君は悪い【勇者】じゃありませんから」

「いや【勇者】に悪い印象を持ってるのはミロ、あんただけだわいな。話の腰を折って悪かったわいな。続けとくれ」

「はい。えっと、それで長らく暗殺者ギルドの奴隷にされていて、死のうとしていたところをミロさんに救われました。『月華』の皆さんにも助けられたのに、ずっと隠していてすみませんでした」


仲間との親交を深め、『月華』とも知り合っていくうち、ラキムは素性を偽っていることに罪悪感を覚えるようになっていた。自己紹介を兼ねたこのピクニックも、正体を明かし謝罪するいい機会だと思い提案したものだった。


「あんたのことはミロから聞いたわいな。色々と苦労したみたいだね」

「ああ、あたいらは気にしてないぜ」

「うんうん、気にしないでー」


ラキムを隷属させていたB級パーティー『ブレイブスター』を捕縛する際、ミロはその都合上『月華』とアルズワルドにはラキムのことを打ち明けていた。


「ありがとうございます。それと、みんなもごめん。こっちが本当の姿なんだ」

「オイラは金色仲間が増えテ、むしろいい感じだゼ!」

「儂らも言わば姿を偽っておるようなもんじゃからのぅ。さして気にはならん」

「妾もじゃ」

「ハッチも変身させてー」


特に誰も気にはしていな様子。

ラキムから指輪を借りたハッチは、それをハンバーガーにねじ込もうする。半分はテリヤキバーガーとして食べて、途中からフィッシュフライバーガーに変身させて二度美味しい、的なことにしたいらしい。

明らかに無理があるのだが、パンへの執念だけはすごい。


「みんなありがとう。これからは、ミロさんさえよければ今までのように旅に同行して、何か恩返ししたいと考えています」

「いいですよ恩返しだなんて。荷台の中が賑やかになるのは大歓迎なので、こちらこそよろしくお願いします」


ありがとうございます、と微笑むラキムに代わり、ユゼンが立ち上がる。

眼を覆っていた布はもうない。長い地下生活で光を失っていた眼も回復したようで、白味のやや勝る灰色の瞳がしっかりと開かれていた。伸びに伸びきっていたロマンスグレーの長髪をバッサリ切り落とし、随分と印象が若々しくなった。


「私はユゼンと申します。歳は、長らく地下牢に囚われていたため定かではありませんが、おそらく四十五前後かと。職業は【司祭】、前述の通り地下牢に囚われていたところをミロ君に助けられました」

「あのよ、ちょっといいか?なんで司祭が牢屋なんかに?」

「こら、タニア」

「構いませんよ。囚われた理由は正直わからないのですが、私に隷属の腕輪を嵌め地下牢に閉じ込めたのは司教のカシーニ=ズゥです。神託を受けたら報告するように命令されていたので、それが何か関係しているのかと思うのですが」

「あ、それってルッサンモーヲ王都の司教様ですよね?そうえいばもうずっと神託がないって言ってました。だからどんな神託を受けたのか、ユゼンさんに聞きたかったんですかね?・・・いや、それなら別に牢屋に入れる必要はないか」


腕を組んで悩むミロに、ジニは呆れて一瞬言葉が出なかった。


「・・・あんたはどうしてそう無自覚に核心に迫るかね?」

「ええ。神託を受ける能力がなくなるなど聞いたことがありませんが、それが真実なら全てに合点がいきます。聖職者が、しかも司教ともあろう者が神託を受けられないなど、絶対に知られたくないはずですからね。聖職者を一人幽閉するくらいのことはやるでしょう」

「へぇ、そういうものですか」

「それにしてもラキムの話を聞く限り、暗殺者ギルドと王都の司教の癒着は決定的なようだね。司祭様、暗殺者ギルドの件を伝手に相談するけど、カシーニ司教のことも話していいでしょうか?」

「ぜひお願いします」

「さらに上に黒幕がいるとも限りませんので、しばらくはミロの荷台に隠れていた方が良いかもしれませんね」

「あ、それじゃあ今度はユゼンさんが<認識阻害>の指輪を嵌めます?」

「そうですね、お借りしても構いませんか?」

「ハッチ、ユゼンさんに指輪を渡してあげて」

「えーハッチはまだ変身を食べてないのに」

「テリヤキバーガーを食べた後、フィッシュフライバーガーを食べればいいんじゃない?量も二倍だよ?」

「バガーが、に、二倍?・・・魔法?」


たじろぐハッチから指輪を受け取りユゼンに渡す。


「ありがとうございます。それで今後のことですが、私はシェシュマ様より、運び手に同行するよう神託を受けました。皆さんのような戦闘能力はありませんが、足手まといにならないよう粉骨砕身いたしますので、どうかこのまま旅の同行を許可いただけないでしょうか」

「もちろん大歓迎です。ユゼンさんの回復魔法があると僕達も安心して旅ができます」



こうしてユゼンも旅の一行に正式に加入することとなった。


「じゃあ次はあたいらだな!あたいはSS級パーティー『月華』のリーダー、タニア!職業は【剣帝】、歳は二十七歳だ!」

「ボクはデイジー、【魔拳闘士】だよ。ボクらは同い年パーティーなんだ。よろしくね」


端整な顔立ちで豪快に笑う剣士は長く黄色いくせ毛が花束のように美しく、茶味を帯びた黒髪、ショートヘアのボーイッシュな拳闘士は天真爛漫な笑顔が、これもまた美しい。

ガールディアン商会の広告塔でもある彼女達の装備はどれもオーダーメイドで、美しさと女性の体に適った特徴を兼ね備えている。


「私は【上級氷魔術師】のジニ、歳は二十七だわいな。一応、姓はクラクシオだよ」

「クラクシオ伯爵家の!?」

「まあ!ツィーレの大貴族様ではありませんか!」


クラクシオの家名を聞いたヤコとノエリアが声を上げる。

そして声を上げたのがもう一人、


「え、ジニさんが貴族?嘘だ!?」


ミロである。


「嘘じゃないわいな。父上は伯爵だって言ったのを覚えてるかい?伯爵ってのは貴族の階級のことだわいな」

「え、じゃあオーバンさんも貴族なんですか!?」

「どっちかというと父上が貴族だから、子の私も貴族、という順番だわいな」

「そ、そんなまさか!確かにお二人とも身なりはいいけど、とっても優しくて、僕は大好きですよ!?」

「うん、多分だけどミロ、あんた貴族にもどえらい誤解をしてそうだね。ちょっと貴族について知ってることを話してごらんな」

「身なりは豪華なのに笑顔が気持ち悪くて、そして人を見下すような汚ない目。それが貴族です」


そして恐ろしいことに、とミロは唾を飲み込む。


「貴族は伝染します」

「奇怪な話じゃな、呪いか?」

「なんとも気味の悪いことですじゃ」


ラナとエルテが、これだからヒト族は、と眉をひそめる。


「いや、あながち間違とも言い難いから余計タチが悪いね。確かにそういう貴族は多いわいな。けどね、なんて言えばいいんだろうね。・・・ミロは私がそんな嫌な人間に見えるかい?」

「いえ、ジニさんはいつも優しいし、笑った顔もとっても綺麗です」


きっぱりミロが言うと、ジニの顔が瞬時に紅潮する。


「あはは、自滅してやんの」

「デイジーうるさい!いいかいミロ。ヒト族にも善人と悪人がいるように、貴族にもいい貴族と悪い貴族がいるわいな。悲しいことに貴族に関しては悪い奴が若干多いようだけどね」


確かに、とミロは思った。『月華』の三人やヴォルフのようにいいヒト族もいれば、【うるさい】や赤い貴族、暗殺者ギルドのような悪いヒト族もいる。


「あ、あの、私とヴォルフも一応、元貴族です」

「そ、そうなんですか!?」


おずおずと告白するノエリア。ミロはこれにも驚愕する。

いいえ、と強い口調で口を挟んだのはヤコだった。


「お二方は今でもれっきとしたシャゾール家のご子息様、ご息女様です」

「シャゾール家といえばワロワーデンの第二領を治める家の名だね。まあ今はいいわいな。これでわかったかい、ミロ?」

「貴族にも良し悪しがある、貴族というだけで偏見を持ってはいけない、ということですね」

「そういうことだわいな」

「シュサク兄さんの言うことにも間違いはあるんですね・・・」

「それがあんたに貴族の概念を教えた人かい?そういえば勇者や魔族についての独特が過ぎる概念もその人に教わったのかい?」


一体どういう人だわいな、とジニは頭を抱える。


「シュサク兄さんですか?うーん、僕のサバイバル術の師匠です。歳はジニさんと同じくらいだと思いますけど、ちょっと年齢不詳なところがあるのでよく分かりません。「ゼロか百か徹底的に」が若さの秘訣だそうです」

「・・・うん。また輪をかけて独特そうな人物だね」


一度会って物申してやりたいと思っていたジニは、その気も失せ、ため息を吐く。


「おっと、また話の腰を折ったね。最後はあんた達だよ」

「ではまず俺から。SS級冒険者、【魔物使い】のヴォルフだ。歳は二十五になる」


赤味のある茶髪、大柄な男が言葉少なく自己紹介する。人と関わることなく生きてきた彼は珍しく緊張しているのか、普段から鋭い眼が今日はいつにも増して鋭い。


「この二体はテイムモンスターのジジとロトーだ」

「あたしは『雷』の霊獣、黄赤鳳こんせきほうのロトーさね」

「エンペルド・レーベのジジ、『力』の加護を受けた霊獣だ」

「ミロとはサラコナーテのダンジョンで助けられて以来の仲になる。それから今日まで、姉様の件では本当に感謝してもしきれない。これから死ぬまで礼の限りを尽くすつもりだ。それと暗殺者ギルドの件も。しつこく付け回されて辟易していたが、お前が壊滅してくれたそうだな。姉様の呪いも解け、暗殺者ギルドが姉様に目をつける心配もなくなった。全部お前のおかげだ、ミロ。本当にありがとう」


ヴォルフは言ってためらいもなく地に額をつけた。


「もうヴォルフさん、そういうのは無しですよ。ノエリアさんの呪いが解けて本当に良かったです。これからはヴォルフさん自身の幸せのために生きてください」


世間の評判からは考えられない『死神』の姿に驚愕する『月華』の三人。ヴォルフは彼女達にも頭を下げた。


「霊薬の件ではお前達にも世話になったとベルベリから聞いている。本当に感謝している」

「ボクとタニアは何もしてないよ。礼ならジニに言って」

「いや私も礼はいいわいな。大したことはしてないからね」

「いえヴォルフ。ジニの助言があったからこそ、私も霊薬の作り方を閃くことができました」

「ベルベリの言う通りだ。何でも言ってくれ。礼をしたい」

「おいまじかよ!じゃああたいと手合わせしてくれ!」

「あ、ボクも!一度と手合わせしてみたいと思ってたんだよ」

「そんなことでいいのか、わかった」


タニアとデイジーが歓喜のあまりハイタッチをする。


「ハッチも!積年の恨み、ハラサでおく、ベキカ!」

「ほう、とうとう決着をつける時が来たようだな」


そして何かと気の合うヴォルフとハッチであった。


「では最後は私とヤコですわね。私はノエリア。十歳の時に呪いを受け、長らく病床にありました。よって少し複雑ではありますが、精神は十かそこら、実年齢は二十六、肉体は年齢は十四、五といったところでしょうか」

「私はヤコ、職業は【魔導師】です。二十一になります」


ノエリアは姿勢を正し、優雅な所作で頭を下げた。ヤコもまた少し後ろでそれに倣う。


「ここにいる皆様におかれましては、私の呪いを解くためにご助力いただきましたこと、心から感謝申し上げます。これからのことは正直まだ決めておりませんが、皆様のご恩に報いることのできる生き方をしていこうと思います」

「それならノエリアさんも、やりたいことが見つかるまで僕達と旅をしませんか?」

「よろしいのですか?」

「はい、荷台の中が賑やかになるのは大歓迎です」

「あのミロ様、厚かましい申し出なのですが、」

「もちろんヤコさんもですよ」

「っ!・・・重ね重ね、本当にありがとうございます!」


ヤコは目に涙を浮かべ、額を地につける。

今更自由になったところで、やりたいことなどノエリアに使えること以外に考えられなかった。


「ヤコ共々、きっと皆様のお役に立てるようになります」

「まぁそんなに気を張らずに。一緒に旅を楽しんでくれたら嬉しいです。ヴォルフさん達はこれからどうします?」

「やりたいことか・・・そうだな」


ノエリアの呪いを解くためだけに生きてきたヴォルフは、ノエリアの呪いを解いた後の人生など考える暇もなかった。ノエリアとヤコには幸せになって欲しいが、自分の幸せとなると何ひとつ想像できない。


「ゾトのダンジョンでも攻略しながら考えるとするさ」

「あはは、ヴォルフさんらしいですね。ジジとロトーは?」

「あたしらはテイムモンスターだからね。主についていくだけだよ」

「ミロの飯は定期的に食っておきたいとは思う」


ジジの意見に、ロトーもヴォルフもうんうん、と同意する。


「ふふ。これからもお弁当は届けますけど、いつでも来てくださいね」


事情を知るからだろうか、ヴォルフやヤコの笑う顔がいつもより朗らかに見えるミロであった。

荷台の中は一層賑やかさを増し、ミロ一行はナックを探しに神国ヤルジャハへ、そして保護した獣人達を送り届けにゾトへと行路を図る。

「53. 霊薬」の、目覚めたノエリアがヴォルフの名前を呼ぶところですが、本名の「ウォーレン」と呼ぶように変更しています。本名があることを忘れていました。すみません。

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