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39. 隔離された<寝室>に

「ヤルジャハまではほぼ森の中を進むことになるわいな。狩りやら採取やらしたくなるだろうけど、あまり道を外れるんじゃないよ?あの森の深部は人を迷わせるからね」

「わかりました。気をつけます」


今日、ミロ達はヤルジャハに向けて旅立つ。

クラクシオ家の庭には『月華』の三人、各ギルドからオルゼンとライエル、教会からはコゾと司教のモールが、ミロの見送りに集まっていた。

ツィーレの王都、ソントプソンに滞在すること一週間と少し。これまでに訪れた街の中では最長の滞在日数となった。依頼を通して知り合いが増え、こうして旅の見送りにも来てくれる。ミロにはそれがありがたく、その分だけ別れるのが辛い。


「なんだいミロ。別れを惜しんでくれてるのかい?」

「当たり前ですよ。ワロワーデンからずっと、たくさんお世話になりました」

「ふふ。何か困った時は、いつでも相談しにくるといいわいな」

「はい!」


次の旅先で何をやらかすか楽しみにしてるわいな、とジニは笑う。


「む?タニア達はハッチとご一緒にしないのか?」

「ボクらはもうしばらくツィーレに滞在して、またワロワーデンに帰るよ」

「あたいらも<荷台召喚>の対象とやらになったんだろ?ハッチもラナもいつでも遊びに来いよ。歓迎するぜ?」


もちろんプトラもな、と言ってタニアはプトラの顎を撫でる。


「街の中は走りにくいからなァ、ダンジョンとかなら付き合うゼ!」

「あはは、ミロ君達とダンジョン攻略か。いいね!」


ミロの仲間達も『月華』の面々と挨拶を交わしている。


「ミロ君、ミロ君」

「オーバンさん。ツィーレの滞在中は、本当にお世話になりました。どうして小声なんですか?」

「そんなことより見てくれ、昨日ジニに貰ったんだ」


オーバンは言って、震える手でワインオープナーを差し出した。


「わあ、よかったですね」


そう言ってワインオープナーをしげしげと見つめるものの、しかしミロはこれを知っていた。ジニと一緒に買いに行ったからだ。


昨日、ガールディアン商会からの帰り。


「オーバンさんにはすごくお世話になりましたし、何かお礼をしたいんですけど、ジニさん何かいい贈り物はないですかね?」


もちろんオーバンに礼をしたいと思っていたのは事実であったが、ここ数日、血反吐を吐く思いで――実際ちょっと吐きながら、脱ウザ親父特訓に耐えてきたオーバンに、何かしらの成果を見せてやりたいという思いがミロにはあったのだ。

おそらくジニはウザがるだろうが、最悪、物を選んでさえもらえれば「ジニが選んでくれた」と言ってオーバンに渡すことができる。

そう思って相談を持ちかけたのだが、


「そうだね。今回は私らも世話になったことだし、何か贈るのも悪くないわいな」


意外にもジニが乗ってきたのだ。脱ウザ親父特訓は功を奏しているようであった。

そうなれば、ジニからの贈り物は形に残るものがいいだろうと考え、ミロは年代物のワインを贈り、ジニはワインオープナーにしてはどうかと提案したのだ。


「今回はいろいろと世話になったからって・・・う、うぅっ!」

「きっと特訓の効果が出たんですよ」

「ああ、ああ。君のおかげだよ。本当に、本当にありがとう」


オーバンは嗚咽しながらミロの手を握り、ミロはそんなオーバンを讃え、肩をさする。

その様子に、それこそ怪奇現象でも見るかのような目を向ける者が数名。


「あの傑物を、どうやってああまで懐柔したんでしょう」


前商業ギルドマスターにしてツィーレ屈指の豪商、クラクシオン=オーバンをよく知るライエルは、よく知るだけに、オーバンとあそこまで親密なミロに畏怖すら覚える。


「さてね、夜な夜な二人で何かしてたようだけどね。あれでツィーレでもそこそこの伯爵を懐柔したって自覚が皆無だからね。恐ろしい子だわいな」

「さすが『御使い』様ですよね」


ライエル、ジニ、コゾの視線に気づき、ミロはオーバンに耳打ちする。


「ほら、ジニさん達が見てますよ。泣いて気を引こうとするウザおやじだと思われちゃいますよ」

「そ、そうだな」


言われてスッとすました顔に変わるあたり、さすが商人である。


「これからもチャンスがあればジニを連れて遊びに来てくれ」

「はい、頑張ってみます。オーバンさんも特訓を忘れないように、一人でも復習しておいてくださいね」

「わかっている。つかず、離れず、尊大なる父親たれ、であろう?」


オーバンのスローガンに、ミロは大きく頷いた。


「父上、そろそろミロを出発させてやるわいな」

「そうだな、ではミロ君。気をつけてな」

「はい、オーバンさん。皆さんも、本当にお世話になりました」


仲間達を荷台に乗せ、ミロは次なる目的地、神国ヤルジャハへと向かうのであった。





大陸における国々の位置関係を、人々はしばしば時計で表現する。

針の中心をルッサンモーヲ王国とし、北方街道を進んだ先、十二時に位置するのがワロワーデン。西に進んで十一時がツィーレ。そしてその南西、九時に位置するのが神国ヤルジャハで、これは西方街道でルッサンモーヲと繋がっている。

ちなみに、ルッサンモーヲの南方街道の先、六時の位置は獣人の国ゾト。東方街道の先、三時の位置は商業国マッカである。どちらも王を持たず、民によって認められた者が領土を統べる国である。


ヤルジャハへの道中はジニの言った通り、森の中にあった。ルッサンモーヲの街道のような舗装は一切ない。人や馬車の往来で踏みしめられた土地がなんとなく道の体をなしている、という程度の頼りない道だった。


《運搬物の総数が2800に達しました。職業レベルが20に上がりました》

《ユニット数が262,144から524,288に増加しました》

《スキル<第四便>が開放されました》

《運搬物の総数が3300に達しました。職業レベルが21に上がりました》

《ユニット数が524,288から1,048,576に増加しました》

「ついにユニットが百万超えたね」

《運搬物の総数が3800に達しました。職業レベルが22に上がりました》

《ユニット数が1,048,576から2,097,152に増加しました》

「久しぶりの三連続じゃン!」

「一気にきましたね。おめでとうございます、マスター」


ツィーレでは炊き出し等で多くの食材を運んだが、総数にカウントされる前に荷台から出して消費してしまったため、ほとんどレベルを上げることができなかった。

街中では距離が稼げずにいたものが、ここに来て一気にカウントされたようだ。


「ありがとう。でもレベルを一つ上げるのに、運搬物の総数が五百も必要になってるね」


はじめは五十でよかった運搬総数も、今や百倍。レベルが上がるごとに必要総数も上がっていくのであろう。これからもよく運び、よく導かなくては、とミロはシェシュマ神から賜った使命を思い出す。


「ハッチのも見て!」

「はいはい、ちょっと待ってね」


<ステータスボード>を確認していると、膝の上に座っていたハッチがミロを見上げて言った。先程『月華』にもらった装備品を基礎値に変換した時にも確認したのだが。


----


護衛戦士

荷台を護衛する戦士を召喚します。


ハッチ スキル・女

状態/召喚中、正常


<基礎値>

力:112(+150)

守り:53(+33)

器用:45(+20)

敏捷:67(+80)

魔力:0(+137)


<スキル>

状態異常耐性(Lv1)


-----


括弧(かっこ)の中が防具や装飾品を吸収して上がった分、素の基礎値は、ミロがレベルアップする度に上がってきた分である。ミロが考えなしに上げてしまった力と魔力を生かすべく、敏捷に比重を置いたとタニアは言っていた。

「状態異常耐性」は魔道具を吸収して得たスキルである。魔道具のスキルも吸収すればハッチのものになるのではないか、というタニアの予想が的中したのだ。


「ハッチは懲りずに、これからも強みを増していく」


ハッチは嬉しそうに<ステータスボード>を眺めている。


「さて、じゃあ外のことは強くなったハッチに任せていいかな?」

「ハッチにお任せって!」

「ふふ、プトラもラナもお願いね」


森を走るプトラと、荷台の屋根に座るラナに声をかけ、ミロは<ユニット操作>を展開、御者台のすぐ後ろに設置している<談話室>に一つのドアを出現させた。

間違って誰かが入ることのないよう隔離しておいた空間に繋がるドアである。





「入ってもいいですか?」


はい、と答える小さい声を確認して、ミロは<寝室>に入る。中では、金髪の少年がベッドの上で膝を抱え、小さくなって座っていた。生気のない目で、入室したミロを見る。


「お加減はどうですか?」

「だいぶいいです。・・・ありがとうございます」


少年は消え入るような声で言い、小さく頭を下げた。


「ツィーレを出発したので、もう荷台の中には僕の仲間しかいませんよ」

「そうですか。・・・その、僕のことは」

「言われた通りに死亡したと報告しましたよ。ギルマスのオルゼンさんが死亡手続きをするところまで確認してきました」

「そうですか、よかった」


少年は言って、ミロから視線を外した。その表情は、決してよかったと思っているようには見えない。どこを見るというわけでもなく、目からは一層生気がなくなったように見える。


「体調いいなら<食堂>で何か食べませんか?」

「いえ、そこまでしてもらうわけには・・・」

「何日も同じ部屋に籠もりきりじゃ気が滅入ってしまいますよ。ね、ほら」


断る少年の手を握り、ミロは半ば強引に部屋を出た。


少年は名をラキムといった。

森蜘蛛の大花から救出した十人目の冒険者である。

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