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37. 真っ赤で黄色のシャルラン祭

コゾの職業【木神像技師】を【神像技師】に変更させてもらいました。すみません。

ミロの荷台で森蜘蛛の解体が始まって三日。

解体組はようやく作業を終え、同じ頃に治療組も全ての冒険者達の治療を終えた。冒険者達も全員一度は目を覚まし、B級パーティーはまだ体力の回復が必要ではあるものの、タニアやA級パーティーの面々はすっかり元気になった。


「『御使い』様、三日間、大変お世話になりました」

「美味しいご飯をありがとうございました」

「いえいえ。僕の方こそ、炊き出し用の魔物の解体を手伝ってもらって助かりました」


解体組として参加した職員達を冒険者ギルドで降ろし、全員と握手を交わす。

たった数日の付き合いではあったが、荷台内の賑わいがなくなると思うと、寂しい気持ちが心にすん、と広がる。


「『栄光の轍(グランツォード)』の皆さんもここでよかったですか?」

「ああ。ミロ君、君には本当に世話になった。この礼は必ずする」


A級パーティー『栄光の轍(グランツォード)』の四人ともがっちりと握手を交わす。

今回の調査失敗で違反金が発生するため、今日にも冒険者稼業を再開するというのだから、冒険者とは逞しいものである。


「おう、ミロ。うちの職員をわざわざ届けてもらって悪かったな」

「オルゼンさん。いいんですよ、僕もギルドに用がありましたから」

「ギルマス、今回の件、すみませんでした!」


オルゼンを見るなり、『栄光の轍(グランツォード)』のリーダー、タブルが頭を深く下げる。それに倣ってメンバーの三人も頭を下げた。彼らはツィーレの怪奇事件の顛末を聞き、ただただ足手まといになってしまったことを悔いていた。


「そのことで少し話があるからマルタールームに来てくれ。ミロも一緒にいいか?用事とやらは俺が受ける」

「はい、わかりました」


ギルマスの案内で二階にあるマスタールームに入る。テーブルにはすでに人数分の紅茶が置かれ、湯気を立てていた。


「今回の件は俺の落ち度だ。申し訳なかった」


席に着くなりオルゼンは頭を下げた。


「今回の件で『栄光の轍(グランツォード)』に違約金が発生することはない。達成として成績を残すことはできないが、手当て金を出すから、それで溜飲を下げてほしい」

「そんな溜飲を下げるだなんて。いいんですか?俺達失敗した上に足手まといになったってのに。手当て金まで」

「ああ。情報が少なかったとはいえ、魔族の討伐にA級パーティーを単独で送り出してしまったんだ。本当に済まなかった」

「いえ。こちらこそ力及ばず、すみませんでした」

「気にするな、SS級でさえ叶わなかったんだ」


オルゼンは言って、そのSS級さえ叶わなかった魔族を一人で倒してしまったC級冒険者を見る。ミロは呑気に紅茶を吟味し、ツィーレのお茶は美味しいな、と小さく唸っている。


「はあ。で、これからどうする?」

「違約金が発生すると思ってたんで、今日から依頼を受けようと思ってたんですけど、手当て金が出るなら先に装備を整えようかと思います」

「そうか。手当て金の準備はできているから、早速下で受け取ってくれ」


話は以上だと言うオルゼンに一礼して、『栄光の轍(グランツォード)』は退室していった。


「さて。待たせたな、ミロ」

「いえいえ。それにしても、ツィーレのお茶は美味しいですね」

「気に入ったなら後でうちが贔屓にしている店を教えよう。他国では倍以上の値が付くから、ツィーレにいるうちに買ったほうがいいぞ?」

「それは買いですね。ありがとうございます」

「それで?用件というのはなんだ?」

「魔物の素材を買い取って欲しいんですけど、ちょっと量が多くて」


ミロは言って角や魔石を幾つか呼び出す。


「これはツィーレの魔物じゃないな。ワロワーデンか?」

「はい、ワロワデル山のダンジョンです」

「そうか。いい機会だから、冒険者の暗黙のルールを一つ知っておけ。ダンジョンの獲得物は、できるだけそのダンジョンを所有する国のギルドに持っていくのが良しとされている」


ダンジョンはそれを所有する国によって管理されている。明かりを灯す魔道具を設置したり、魔物がダンジョンから溢れる現象、スタンピードが起こらないよう定期的に魔物を間引いたり。

これらは何も慈善活動で行われているわけではない。冒険者がもたらすダンジョンの恩恵を期待して、国の予算を割いて整備しているのだ。


「なるほど、じゃあこれはワロワーデンに持って行ったほうがいいですね」

「絶対ってわけじゃねぇけどな。金に余裕がないならここで買い取るぞ?」

「お金はまだ大丈夫なので、暇なときにワロワーデンに行ってみます」

「お前な、国から国への移動をちょっとそこまで買い物に行くような言い方するんじゃねぇよ」


全く。『月華』のジニ嬢はよくまあこれを扱いきれるものだ、とオルゼンは呆れ半分、感嘆半分でため息を吐いた。


「そういえばお前、『月華』の三人からディアコードの交換申請が来てるぞ?」

「え、やった。これでツィーレを離れてもジニさん達をご飯に誘えますね」

「お前はホント、ブレないのな。SS級のディアコードなんてそうそう交換してもらえるもんじゃないんだぞ?」

「そうなんですか?」


SS級冒険者としかディアコードを交換したことのないミロにはいまいちピンとこない。

それでもありがたいことには変わりないので、喜んで交換手続きをしてもらうことにした。





「あ、ジニさんですか?」


ギルドカードに『月華』のディアコードを埋め込んでもらったミロは、早速ジニに連絡を入れた。


「ディアコードの交換申請、受けてくれたんだね」

「もちろんですよ。ありがとうございました」

「私らもアンタとは繋がっておきたかったからね。受けてくれて嬉しいわいな。それで、もう用事は全部終わったのかい?」

「いえ、今教会で治療術士の皆さんと『ブレイブスター』の皆さんを降ろしたところです」


B級パーティーの『ブレイブスター』は体力が戻るまで教会の治療院で引き取ることになった。治療術士達は目を潤ませながらミロとの別れを、いや、荷台の中での暮らし――主に食事を惜しみつつ、しぶしぶ荷台を降りたのだった。


「あ、コゾ君に新しいメテアちゃん人形も作ってもらいましたよ」

「それはよかったわいない」

「それでですね、コゾ君が商人さんに相談したいことがあるそうなんですけど、ジニさんよかったらコゾ君の相談に乗ってあげてもらえませんか?」

「分かったわいな。今からでもいいならデイジーあたりに一便つけとくれ」


言ったそばから、ジニの隣にいるデイジーに背負い袋が現れた。リリリと鐘の音を響かせてベルベリも現れ、広い廊下の方にデイジーを誘導。<ステータスボード>でデイジーを騎獣から輓獣に変え、ジニは現れた荷車に乗り込んだ。


コゾがメテア神から【神像技師】に任命されてからというもの、どこから噂が広まったのか、神像作りを望む者がコゾのもとへと殺到した。その中にはおこぼれに預かろうとマネジメントに名乗りをあげる商人も少なくなかった。

商売に疎いコゾは、言葉巧みにおべっかを使う商人達を信用できず、なんとかならないかとミロに相談を持ちかけたのだった。


「は、初めまして。コゾと言います」

「ジニだわいな」

「ガールディアン商会の会頭様ですよね?」

「そうだわいな。よく知ってたね」

「『月華』のジニ様がガールディアン商会の会頭というのは有名な話ですから」


全く知らないミロが「へぇ、そうなんですね」とジニを尊敬の眼差しで見る。


「『御使い』様、知らなかったんですか?」

「ミロはだいたいこうだわいな。それよりミロ、話はこっちで進めておくからアンタは商業ギルドで用事を済ませてきな。父上がアンタと夕食を食べたがってるから、早めに帰ってくるんだよ?」

「はーい。じゃあコゾ君のこと、よろしくお願いしますね」


たった数日でどうやってあの堅物を懐柔したんだか、とジニは誰にともなしに呟く。


「お父上って、クラクシオ伯爵様ですよね?」

「そうだわいな。いつの間にか友達みたいに仲良くなっててね」

「すごいですよね。メテア様とも友達みたいな感じで話してましたし」

「まあミロだから仕方ないわいな」

「そうですね。深く考えたら負けですよね」


どちらともなく、二人は顔を見合わせ、


「アンタとはうまくやっていけそうだわいな」

「よろしくお願いします」


がっちりと握手を交わすのだった。





商業ギルドに着いたミロは、解体組の職員を降ろし、森蜘蛛の素材を荷台からギルドの大倉庫に移した後、ギルドマスターのライエルに案内されて館内に入った。

衝立てで仕切られた商談スペースに座ると、目の前にある大きなガラス窓からは広い庭が見ることができた。


「すみません、もうすぐ商談室が開きますので」

「え、僕ここで大丈夫ですよ?」


ライエルは申し訳なさそうに言うが、ミロは庭に目を奪われるばかりであった。

ツィーレの田園風景を縮めて収めたように、色とりどりの花や草木がマス目上に並んでいる。


「すごく綺麗ですね。まさにツィーレの風景って感じです」

「ありがとうございます」


ライエルは言って、職員に目配せをしてお茶と菓子を持ってこさせる。


「職員さんから、解体作業が終わったらライエルさんがお迎えに来てくださるって聞いてたんですけど、色々やりたいこともあって、自分で来ちゃいました」


急に来てすみません、と頭を下げるミロに、ライエルはとんでもないと恐縮する。


「ご用事はもう済んだのですか?」

「はい。あとはここだけです。幾つかあるんですけど」

「お伺いします」


まずはツィーレに来た目的でもあるナックの捜索である。

ジニやオーバンは知らないと言っていたが。


「ナック、ですか。私も存じ上げない名ですね。オーバン様がご存知ないのであれば望み薄かと思いますが、一応調べさせますね」

「すみません、お願いします。それと、次はこれです」


ミロは言って<収納>でリコットの回復薬を取り出た。

周囲でおぉ、とざわめきが起こったが、ライエルが一睨みして(たしな)める。


「ジニさんから、ライエルさんが状態異常回復薬を欲しがってるって聞いたんですけど、これでいいですか?」

「なんと、ミロ君には改めて直接お願いしようと思っていたのですが。根回しするような形になって申し訳ありません」

「いえいえ、気にしないでください。全部はあげられないんですけど、三十くらいあれば足りますか?」

「そんなにいいんですか?・・・その、これで何をするか、ジニさんから詳細は聞きましたか?」

「はい。<蝕魔の呪い>にかかった人がジニさん達以外にもいるかもしれないので、それに備えて商業ギルドでは薬の再現、教会では薬から魔法を生成するんですよね?」

「その通りです。それで、この薬の作成者はご存知ですか?」

「えっと、僕の村のリコットさんという人です」

「あー、やはりミロ君ではないのですね」


ライエルはがっくりと項垂れる。

本来、薬のオリジナルレシピは余程のことがない限り公開することはない。薬の作成者にとってそれは飯の種だからである。薬効が高い程そのレシピは秘匿される傾向にあり、薬によっては、再現や魔法化のために国が莫大な金で買い取るようなケースもままあるのだという。

作成者はミロの村のリコットだが、現在ミロは村の場所がわからない。リコットにレシピの開示許可を得ることはできないのだが。


「けど、僕もレシピは教えてもらったことがあるので、多分公開しても大丈夫ですよ。これ、そのレシピです」


ミロは言って数枚綴りの紙束を差し出した。

一枚一枚にびっしりと、材料から作成法までが事細かに書いてある。


「こんな複雑な工程が!?いやしかし作成者本人から許可を得なくて大丈夫でしょうか」

「人に教えちゃいけないとは言ってなかったし、リコットさんはそういうの気にする人でもないですから大丈夫ですよ。何かあったら僕が謝りますから」


あっけらかんとミロは言うが、ライエルは眉間にしわを寄せ塾考する。

魔族の呪いの特効薬は是非とも欲しいが、後々問題になり莫大な賠償金を求められても事だ。悩みに悩んだ末、ライエルは薬と紙束を恭しく受け取った。


「ありがたく頂戴します。・・・何かあったとして、私の首一つで済めば良いのですが」

「そんな、大丈夫ですよ。リコットさんはそこまで猟奇的じゃないですから」


おそらくだが、ミロの言う首とライエルの言うそれは違う。


最後におすすめの酒屋を数店舗紹介してもらい、ライエルに礼を言ってギルドを出る。やはりナックはツィーレにもいなかったが、「真っ赤で黄色のシャラララン」絡みでまた一つ、新たな手掛かりを得ることができた。


「神国ヤルジャハのシャルラン祭、か」


シェシュマ教の総本山を有するその国には、年に一度、シャルランと呼ばれる数多のランタンを空に飛ばす祭りがあるのだという。紙でできたランタンの赤、灯火の黄色、そしてシャルラン。「真っ赤で黄色のシャラララン」とはヤルジャハのことではないか、といったのはライエルだった。


「じゃあ次の目的地は神国ヤルジャハだね!」

「「オー!」」

「その前にお酒屋さんで買い物だね!」

「「おー!」」「「ブー!」」


前者はラナとベルベリ。後者はプトラとハッチである。

ブックマーク登録いただきありがとうございます。いえむしろ定期投稿できなくて申し訳なく思います。頑張りますので、これからもどうぞよろしくお願いします。

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