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33. キャラはつらいよ

イエロバッファ、森蜘蛛との連戦を終え、一行が王都ソントプソンに戻ったのはまだ夜明け前のこと。

ジニとタニアはまだ目を覚まさない。容体の芳しくない冒険者達も依然意識のないままだが、できる限りの治療を施され幾らかは回復したように見える。

治療術士達は全身全霊で『月華』を含む三パーティーの治療にあたり、今は疲れ果てて眠っている。


「中途半端な時間に着いちまったナ」

「門の近くでちょっと休憩させてもらおうか」

「そだナ。マスターもちょっとは寝たほうがいいゼ」

「そうしようかな。みんなはどうする?」

「妾はベルベリとウメ酒でも作るかのう」

「それは!・・・良いでしょうか、マスター」


ベルベリは一瞬喜ぶが、すぐミロに伺いを立てる。


「うん。ジュース用のウメシロップも少し作っておいてね」

「承知しました」


リキャストタイムも終わり、再召喚した仲間達は相変わらず元気である。

一人を除いては。


「ハッチも少し寝る?」

「・・・ハッチは修行する」


そう言ってハッチはミロの膝から降りて、最近は常設の<草原>に行ってしまった。


「どうしたんだろ、ハッチ。なんだか元気なかったね」


追いかけようとするミロを、ラナが止めた。


「好きにさせてやれ。牛にも蜘蛛にも歯が立たんかったことを気にしておるのじゃろう」

「そんなこと、ハッチはまだ小さいんだから気にすることないのに」

「ハッチは私やラナ達と違い、戦うために生まれましたから」


戦うために生まれた。ミロはベルベリの言葉を複雑な思いで反芻する。


「あんまり思いつめてなきゃいいけど。ハッチが元気ないのは、嫌だな」

「うまいものを食えば元気になるじゃろ」

「そんな、ラナじゃあるまいし」

「そのくらいの気で接しておくに限るということじゃ。周りまで辛気くさくなってどうする」

「なるほど。ラナ、いいこと言うね。さすが何千年も生きてるだけある」

「年寄り扱いするでない!」

「よし、寝るのはやめにして、ハッチのために美味しいご飯作るぞ!」


意気込むミロだが、松明を持ってやってきた門兵に早速出鼻をくじかれた。


「やはり『豊穣の御使い』様の騎獣でございましたか!この様な時間に、何かトラブルでもおありでしたか!?」


門兵は言って、門に向かって松明で合図を出した。

しかし『豊穣の御使い』とは。たった一日で変なキャラが確立してしまったものだ、とミロは苦笑いする。


「変な時間にすみません。トラブルは・・・まあいろいろありましたけど、一応依頼が完了したので帰ってきました。門が開くまで近くで休憩させてもらってもいいですか?」

「え、もう終わったのですか?」


門兵は唖然として目を見開くが、すぐに気を持ち直してミロを門のそばへと案内する。

こちらでお待ちください、という門兵に礼を述べ、ミロは<食堂>で料理をしながら朝を迎えることにした。


ちゃっかり収納しておいたイエロバッファを解体して、厨房に備え付けのミンサーで挽き肉を作る。粗みじんにした玉ねぎはきつね色になるまで炒めて<雪原>で冷ます。


「何を作るんじゃ?」


横でウメ酒を作るラナは興味津々で尋ねる。


「ハンバーガーっていう、お肉を挟んだパンだよ」


イエロバッファの討伐と聞いてすぐ頭に浮かんだレシピだった。

バリエーションが豊富なようで、どれもこれも頭に思い描くだけで涎が出る。


「それはまた、魅力的じゃのう。酒とも合うかの」


ラナの問いに、エールのような飲み物をはじめ、様々な酒が浮かぶ。


「炭酸系のお酒やジュースが合うみたいだね。ビール、モヒート、ハイボールか。今度お酒屋さんに行ってみようか」

「くはー、それは楽しみじゃ」


好きな酒をかき混ぜながら、別の酒に思いをはせる。なんとも幸せそうなラナであった。


「おーイ、マスター」


ハンバーグを焼き上げ、あとは具を挟むだけという時だった。

プトラに呼ばれて御者台に戻ると、プトラは門をくぐり街の中を走っているところだった。まだ日は昇っておらず、開門には早い時間なのだが。


「あれ、門くぐれたの?」

「それがヨ、急いで城に行って欲しいって言って通してくれたんダ。なんか門のやつらガ、トラブルがあったと勘違いしてお城に連絡しちゃったみてぇだゼ?」


イエロバッファの襲撃を受けた村まで往復で三日はかかるのを、ミロ達は二日と経たず戻ってきたのだ。門兵が勘違いするのも仕方のないことだった。


「そっか。・・・怒られるのかな」

「どうだろうナ。まあその時はオイラも一緒に謝ってやるヨ」





「そ、それで、何があったのですか?『月華』の皆様は!?」


王城に到着してすぐに通された部屋で待っていたのは宰相だった。急な知らせで叩き起こされたのか、ようやく体裁だけは整えたという格好である。

やはりトラブルがあったと伝わっているのか、開口一番、宰相は必死の形相でミロに問いかけた。


「宰相様すみません。依頼は終わったんですが、帰ってきたのが早かったみたいで、門兵さんを勘違いさせてしまったみたいです。トラブルはもうありません。『月華』の皆さんも、他の方々も無事です」

「トラブルは、ない・・・。そうか、よか・・・ええぇっ!依頼が終わったと!?」

「何?依頼が終わった?トラブルが起きたのではないのか!?」


着の身着のままの男が部屋に飛び込んできた。鼻下に蓄えた立派な髭にはミロも見覚えがある。


「あ、国王様」


ツィーレ国王である。ジニに教わった作法で膝をつくのだが、


「謁見でもなし、頭を上げてくだされ、『御使い』殿よ」


謁見とは違う雰囲気に多少困惑しながら、ミロは顔を上げる。


「して、解決とは?トラブルで戻ったのではないのか?」


まずトラブルはないことを伝え、ミロは依頼の調査結果を二人に話した。


「・・・冒険者の一人はおそらく森蜘蛛の花の中で亡くなったんだと思います」

「そうか。いやしかし、よくぞやってくださった。魔物の討伐に、怪奇現象の解明、さらに行方不明者の救出。これでツィーレは救われました。国王として、一ツィーレ国民として礼を申し上げる」

「・・・あの、国王様、なんですよね?」

「どうかされたか?」

「あ、いや、すみません。謁見の時とは全然雰囲気が違うし、言葉も丁寧だし」

「神の遣いであるのは重々承知しておりますが、謁見の場ではこちらも国の長としての体裁がある故。ご容赦くだされ」


そういえばジニも体裁が大切なのだと言っていた。


「なるほど。王様もキャラを守らないといけなくて大変なんですね」

「キャラ?」

「体裁ってそういうことですよね?僕も『豊穣の御使い』なんてキャラが定着しちゃって。すごく困ってるんです」

「『豊穣の御使い』がキャラ・・・」


口にして、国王は思わず爆笑した。


「ハ、ワハハハハハ!キャラとな!」

「陛下、笑い事ではございません」

「良いではないか、ハインズ。『豊穣の御使い』がキャラ!しかも困っておるとは!フハハ、ワハハハハハ!」

「変なこと言いました?急に拝まれたり、結構大変なんですけど」

「いやいや、なるほどキャラに違いない。余も常々、王とは面倒ばかりで大変だと思うておったのだ。フハハ、お互い苦労が絶えんな」


ひとしきり笑って、国王はミロとがっちり握手を交わす。


「そうかミロよ。此度はツィーレを救ってくれたこと、一ツィーレ国民として心から感謝する」

「いえいえ。『月華』の皆さんや治療術士の皆さんがいてくれて、ようやく成し遂げられたことです」

「そうかそうか。各ギルドやシェシュマ教にも礼を言わねばならんな」

「して、『御使い』様、」

「宰相様もできればミロと呼んでください」

「いえ、しかし」

「このハインズは、ちと融通がきかんくての」

「はあ。ではミロ、君。その救出した者達は今どこへ?」

「荷台にいますよ。会いますか?」


二人に断ってプトラを召喚する。

しゃべるプトラや荷台の中の広い空間に唖然とするという、定番の反応が治まった後、ミロは冒険者達が眠る大部屋を見せた。


「できる限りの治療は施したそうですが、まだ予断を許さない状況だと治療術士の皆さんは言ってました。『月華』の三人と治療術士の皆さんはそれぞれの個室です」

「では、続きは教会で引き取って看たほうが良いかもしれませんね。いや、しかし教会は今・・・」


教会は襲撃を受けた村の住人達で溢れかえっている。


「ミロよ、済まぬが術士を増やして、もうしばらくここを使わせてはもらえんだろうか」

「もちろん構いません」

「では、朝一で教会に使いを出しましょう」

「しかし、荷台の中にこれほどの空間を作れるとはな。しかも部屋まで」

「まさに神の力ですね」


<談話室>に戻ると、ベルベリがパンの焼いているところだった。香ばしい香りが漂っている。


「マスター、そろそろパンが・・・おや、お客様でしたか」

「国王様、宰相様、よければ朝ごはんいかがですか?」

「まさか、噂の神のレシピか?」

「はい。ハンバーガーていう料理です。異世界では大衆料理なんですけど」

「ぜひいただこうではないか。な、ハインズ」

「え、ええ。よろしいですか?」

「もちろんです。どうぞこちらへ」


ミロは言って、二人を<談話室>と地続きで設置している<食堂>のテーブル座らせた。

パンが焼き上がるのを待つ間に付け合わせのフライドポテトを揚げ、先に振る舞う。


「ツィーレ芋を揚げたものですか。シンプルですが美味しいですね」

「素材がいいですからね」

「客人どもよ、妾のウメ酒を振舞おうではないか」


さすがは龍。一国の王に臆することなく、ウメ酒のソーダ割りを作っていく。


「これはうまい。芋にもよう合う」

「どれ妾も。・・・きゅぅー、我ながら最高の出来じゃ」

「ウメ酒。ウメとはあのウメのことですか?」


宰相の疑問にミロが頷いて返す。


「砂糖とお酒に漬けて、エキスを抽出したものですよ」


はあ、と宰相が舌を巻く。


「あのウメにこんな利用法が。酒の質もさることながら、さすがは神のレシピといったところですね」

「芋の塩気とウメ酒の甘酸っぱさがたまらんのじゃ」

「はーい、ハンバーガーもできましたよ」


ハンバーガーの具にはレタス、マヨネーズ、トマトで煮たシオナ草、ハンバーグ、チーズを挟んだ。異世界ではおおよそオーソドックスな組み合わせである。


「「ぅぅぅうううまぁい!!」」


三人の声が重なった。


「なんと豊かな味わい。この白いソースはなんだ?」

「野草の塩気とトマトの酸味が、肉の旨さを引き立てますね」

「ミロの言うた通り、炭酸との相性も抜群じゃ!」


三人は口々に感想を述べながら、一心不乱に食べ進める。ミロが自分の分を作って一口頬張る頃には、もう完食していた。


「・・・ミロよ。おかわりはないかの」

「妾もじゃ!」

「・・・よければ私も」

「あ、はいはい。今作りますね」


おかわりの申し出が通り、三人は一安心。互いに頷き合い、二杯目のウメ酒ソーダ割りで乾杯する。よくもまあこの短時間でこれだけの絆が生まれたものである。


「あーーーーっ!!」


そこに突然、金切り声が割って入った。


「知らないひげの知らないオヤジたちが、ハッチの知らないパンをまさに食べている!」


修行から戻ったハッチだ。「知らない」が多い。


「こら、ハッチ。国王様と宰相様だよ。ご挨拶して」

「むう、ハッチだ。名乗る名などない!パンの恨みは計り知れない!」


ハッチは言って、ミロの後ろに隠れ、脚にしがみつく。

牙を剥こうとしているのだろうが、出ているのはアゴである。


「す、すみません。僕の召喚スキルで、ハッチと言います」

「そうか、ハッチよ。ご相伴に与っておったところだ。余のおかわりを譲る故、許してくれ」

「いえいえ、まだたくさん作れるんで大丈夫ですよ。ほら、ハッチの分もこれから作るからね」

「む・・・」


このしかめ面は機嫌のいい時のものではない。

ミロは脚にしがみつくハッチを抱き上げる。


「どうしたの?ハッチ」

「・・・ミロ、ごめんだ」


突然の謝罪だが、それは国王と宰相をヒゲ呼ばわりしたことではない。


「ハッチが弱いのままだから、助けられなかった」

「ハッチ・・・」


ハッチを抱えながら、ミロが挟んだバーガーをベルベリが国王の元に運ぶ。


「申し訳ございません。先の討伐で敗北したもので」

「そうであったか」

「ハッチはきっと強くなってしまう。だから<護衛戦士>は、いらないにしないでほしい」

「いらないわけないよ。ハッチは大切な家族なんだから」

「ハッチは大切か?」

「もちろん大切だよ」

「・・・ハッチはパンを食べてもいいか?」

「あはは、もちろんだよ。ハッチのは特別にハンバーグを二枚にしてあげる。ダブルバーガーだよ?」

「だ、ダブブルーガー!?」

「ツーィレのミルクで作ったミックスジュースもあるよ」

「むう!」


ハッチは自分の皿を持って国王の隣の席に着く。

ようやくいつもの調子に戻ったようだ。


「尊いお子よの」

「オコヨノじゃない、ハッチだ!」

「そうか、ではハッチよ。こんなヒゲオヤジだが、仲良うしてくれんかの」

「仲良ししてやるうかの!」

「では皆の者、改めて乾杯じゃ!」


なんだかんだと打ち解けた四人の輪に加わり、ミロもウメジュースで乾杯する。

ハッチはしきりに二枚重ねの肉を国王に自慢し、ハインズはいつの間にかヒゲンズと命名されてしまっていた。

起きてきた治療術士達がその光景に絶句するまで、あと三十分というところである。

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