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34. 魔族がちらり

爽やかな朝を迎えたツィーレの街中を、慌ただしく移動する三つの馬車があった。

商業ギルドマスターのライエル、冒険者ギルドマスターのオルゼン、そしてシェシュマ教司教のフアテン=モール、ツィーレの怪奇現象を調査するべく国の協力要請を受けた三名である。

夜明け直後に王城から受けた知らせは「『豊穣の御使い』帰還、報を受けよ」。なぜ王城から知らせがあったのかはわからないが、報告の内容なら容易に想像できた。調査を託した『月華』に何かあったのだ。

SS級にどうにもならなかったのであれば、次は複数のSS級かあるいはZ級の招集か、とオルゼンは頭を抱え、追加の治療術士を要請されたモールは、先に派遣した四名の安否を憂う。

急ぎ冒険者ギルドに集まった三人は、しかし全く別の方向に驚くこととなった。


「依頼の達成報告!?失敗して戻って来たんじゃなかったのかよ!全く、国王様もお人が悪い」


オルゼンは声を荒げ、王城のある方角を一睨みした。


「すみません、お騒がせして。保護した方々の容体があまり良くないみたいなので、急いだ方がいいかと思いまして」

「いえいえ、ミロ君が謝ることはありませんよ。往復するだけで三日かかる道のりをたった二日で、しかも依頼を完遂して戻ってくれたのですから。商業ギルドのマスターとして、一国民として、心から感謝します」

「ライエル殿の言う通りです。とても尊いご行為です。本当にありがとうございました」

「いや、済まん。国の恩人にする態度ではなかった。お前には本当に感謝しかない」


恭しく頭を下げる三人に、ちょっとさ、とジニの代わりに列席していたデイジーが割って入った。


「ミロ君がそういうの苦手だってこと、そろそろ察してくれないかな?それより詳しい報告と魔物の買取、ちゃっちゃと終わらせない?」

「そ、そうだな。では報告から頼む」


事前にデイジーと示し合わせて、ラナが龍であることは伏せておくことにしたので、イエロバッファには偶然遭遇、その戦闘に誘われて森蜘蛛が現れたということにした。

森蜘蛛との戦闘に入ったところまではデイジーが説明し、『月華』が倒れてから先の話はミロが引き継ぐ。


「花の中の池は強い酸だったみたいで、危険なので本体とは別に保存してます。イエロバッファはお肉と骨の一部以外でよければ買取をお願いします」

「ねぇ、ミロ君。森蜘蛛の解体と買取査定用に<草原>を準備することってできない?」

「結構ユニット余ってるし、できますよ」

「だって。ギルマスよかったね。森蜘蛛かなり大きいから、わざわざ場所を確保するより、ミロ君の荷台の中で解体するといいよ。買取価格、弾んでよね」

「わかった。すぐに準備する」

「しかし、怪奇現象の正体が未知の魔物だったとは。我々商業ギルド単独の調査は最初から無謀だったというわけですね。オルゼン殿、冒険者ギルドに植物で構成された蜘蛛に関する資料はないのですか?」

「一応探させてみるが、ないだろうな。少なくとも俺は聞いたこともない」

「そうですか。となると死骸を検分するしかなさそうですね」


一瞬の沈黙が流れる。その合間を狙ったかのようにリリリリ、と涼やかな鐘の音が会議室に響いた。


「魔物の正体について、ジニからお話があるそうです」


現れたベルベリは<収納>でジニを呼び出す。


「ジニさん!もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫だわいなミロ。アンタにだけ苦労をかけちまって悪かったね」


微笑むジニは、言葉ほど大丈夫そうには見えない。


「まだ寝てたほうがいいんじゃないですか?何か飲みます?」

「そうだね、あれば野菜スープをいただきたいわいな」


言われてミロは<倉庫>から野菜スープの入ったマグカップを呼び出す。ジニやタニア、保護した冒険者達が起きたら飲んでもらおうと思って作り置きしていたものだ。

ジニは受け取ったスープを弱々しくこくり、と一口飲んで、一息ついた。


「で、魔物のことだけどね。ベルベリ、頼んだわいな」

「わかりました。ではこちらに」


ベルベルは言って机の上にミロが回収した二つの魔石を呼び出した。


「あ、これ森蜘蛛の中にあった魔石だ。僕どっちを取ればいいのか分からなくて、後でジニさんに聞こうと思って二つとも持ってきちゃったんですよ」


ミロの言葉にオルゼン達、そしてデイジーまでもが驚愕する。森蜘蛛に魔石が二つ、と。

本来、魔石は魔物一体につき必ず一つしかない。複数の魔石を持つ魔物など今まで確認されたことがないのだ。


「ミロ、二つとも持ってきて大正解だわいな」

「え、やった」

「それからアンタ達、気持ちはわかるけど驚くのはそこじゃないんだよ。この魔石、二つとも魔族の魔石だわいな」

「ま、魔族?」


オルゼンの口から、驚愕を通り越して呆れたような声が出た。

失礼します、と言ってライエルが魔石に触れて何かを呟く。何をしているのかとライエルを見つめるミロにはジニが補足する。


「<鑑定>というスキルで、アンタの<荷物リスト>みたいに物の詳細が分かるんだわいな」

「なるほど」

「魔族はわかるかい?」

「物語に出てくるのなら知ってます。緑の戦士と一緒に悪いやつと戦う人ですよね」

「いや、ちょっと聞いたことのない物語だね。普通は勇者が倒す悪として登場するもんだわいな」

「うぇ、【勇者】!」


ミロは【うるさい】の人を思い出す。そういえば正式名称は【うるさい勇者】だったと。決して正式名称ではないのだが。


「【勇者】って悪者なんじゃないんですか?」

「どうやら奇抜な物語の読み聞かせで育ったようだね」

「すみません、私の<鑑定>では魔石だということしかわかりませんでした。ジニさん、なぜこれが魔族の魔石だと?」


ジニはミロにスキル情報を開示する許可を得て、ベルベリに頼んで<荷物リスト>をライエル達に見せ、魔石を収納してもらう。


----


魔族の魔石

<植物操作>の能力を有する魔族の魔石です。


魔族の魔石

<奇蝕>の能力を有する魔族の魔石です。

<蝕命の呪い>:数年かけて被呪者の魔力を吸い、死に至らしめます。

<蝕魔の呪い>:十年程かけて被呪者の魔力を吸い、死に至らしめます。


-----


魔族、と司教のモールが呟いた。


「ミロのスキルが信用できないなら後で検証でもなんでもさせてもらうといいわいな」

「いえ。ジニさんがこの場に不確定な情報を持ってくることはないでしょうし、能力の組み合わせを考えると、怪奇現象や森蜘蛛の姿と符合する点が多々あります」


私は信じます、と言うライエルに、オルゼンとモールも同意する。


「すぐ国に報告しなければなりませんね。オルゼン殿は早急に死骸の検分を、司教様も折を見てシェシュマ教の本部に連絡をお願いいたします」





慌ただしく会議は終わり、ミロ達はジニの実家へと向かっていた。

ジニはリコットの回復薬でようやく調子を取り戻し、今はミロの作ったハンバーガーに舌鼓を打っている。


「それにしても、なんだか急に慌ただしくなりましたね」


現在荷台の中は、治療術士が新たに四名追加され冒険者達の治療にあたり、同時に別の空間では、冒険者ギルド、商業ギルドから派遣された二十名もの人員が森蜘蛛の解体にあたっている。


「皆さんの夜ご飯、どうしよう」

「アハハ、そこ?」

「お肉はハッチがボルフとダンジョンしてくる」

「妾も行くのじゃ。肉がないでは立ち行かんからのう」


ハッチとラナがやる気なので、教会の炊き出し分も含めできるだけ沢山狩ってくるように頼む。ディアコードでヴォルフに相談すると二つ返事で了承、すぐに転移扉でワロワーデンのダンジョンに送った。


「全く。あんたがそこまでしてやることはないんだよ?」

「でも、魔族の話が出てから物々しい雰囲気になってましたし。僕もできることをしなくちゃ」

「魔族ねぇ・・・」


魔族はこの世界とは別の場所からやってくるとされている。

過去の文献によると、魔族は約千年周期で襲来し、都度大きな戦争に発展。多くの被害を出しながらも、その代の【勇者】が中心となって、普段は干渉し合わない種族同士が協力することで辛勝してきたと歴史にはある。

その生態はおろか、どこから、なんの目的で襲来するのかすら分かっていない。この世界に住む者にとっては、天災に位置付けられる存在なのである。


「前回の襲来は四百年前だから、森蜘蛛はその時の残党だと思うんだけどね。魔族との歴史を鑑みると、多少大げさに騒ぎたくなる気持ちも分からんでもないわいな」

「千年周期というのは絶対なんですか?」

「記録を振り返って千年周期と言っているだけで、確証があるわけじゃないわいな。ただ、世界を渡るなんて簡単にできるようなことじゃないからね。向こうも何か、――魔力が足りないとか、条件があって、それが満たされるのが千年なんじゃないかって言われてるんだよ」


何にせよ。まずは各国で協議が行われ、何かするにしても魔族への備えを多少強化するくらいだろう、とジニは言う。


「あまり深刻になる必要はないわいな」

「ねぇ、それよりジニ。話がそれると思って黙ってたけど、魔石のスキルにあった<蝕魔の呪い>ってボク達がかかってた呪いだよね」

「そうだわいな。魔族に関わった記憶なんてないけどね」

「一応報告しておいたほうがいいんじゃない?」

「そうだね。ツィーレへの報告もそうだけど、どちらかというとワロワーデンに報告した方がいいだろうね」


呪いは十年をかけて被呪者を蝕むとあった。十年前といえばワロワーデンで『月華』を結成した頃である。


「ツィーレが落ち着いたら、一度ワロワーデンに戻って報告するわいな」

「そだね」

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