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28. 炊き出し大宴会

《<ユニットタイプ:寝室>が開放されました》

「・・・ハン、バーグって美味しそう・・・」


スキル開放の声で目覚めたのか、目が覚めてスキルが開放されたのかはわからない。

とかく、ミロは知らない匂いのする部屋で目覚めた。


「ハンバーグってなんだわいな」

「あ、ジニさん、おはようございます。ここはどこですか?」

「ここは私の実家だわいな。昨日のこと覚えているかい?」


心配したんだよ?とジニはため息をつく。


「豊穣神が顕現して、アンタが突然宙に浮いて。豊穣神と何やら会話を始めたと思ったら気を失って、丸一日目を覚まさないんだからね」

「丸一日・・・あ、ヴォルフさんのご飯!」

「アンタどんだけ『死神』のことが好きなんだい?心配しなくても今朝ラナが魔道具で弁当作って、ベルベリとハッチが『死神』んとこに運んでたよ」


魔道具というのは、ミロが村を出る際に餞別としてもらった、状態固定を施すことのできる銀のトレイである。

魔力を持つ者なら誰でも扱える魔道具で、例えば紙で包んだパンをトレイに乗せて魔力を流すと、包みに状態固定がかかり、包みを開くまで中の状態を固定する。

トレイに収まる大きさでないといけない、そして「包みを開く」「紐を解く」など開封動作のあるものでないといけない、という条件があるため<倉庫>ほど万能ではないが、ミロのスキルなしに状態固定を解除できるという点で、保存食作りには有用と言える。

長らく死蔵されてきたが、魔力を扱えるラナが仲間に加わることでようやく日の目を見た魔道具である。


「ベルベリ達が運んでくれたんだ。よかった」

「全く。外は大変なことになってるってのに呑気なもんだわいな」

「大変なこと?」


これだわいな、と言ってジニはカーテンを開けた。


「わあ、広いお庭ですね」

「そこじゃない。門の外だわいな」


見ると大勢の人が集まっている。


「アンタを見に人が集まったんだよ」

「僕をですか?なんで?」


ミロが気を失った後。豊穣神は消える前に、周辺にいる者全てに向けて声を残した。

《降りかかる闇は払われます。ツィーレよ、豊穣を運ぶこの者を信じ、健やかにありなさい》と。


「神職者以外の人間が人生に二度も神託を聞くなんて、前代未聞だわいな」

「なんだか僕が話した時のメテアちゃんとはずいぶん印象が違いますね。外用のキャラ?」

「メテアちゃん?」

「あ、豊穣神様ですっけ?メテアちゃんって呼んでね、って言ってましたよ」


一瞬意識が飛びかけるが、ジニはなんとか踏みとどまる。


「神が御名を・・・いや、それはとりあえず聞かなかったことにするよ。とにかく。アンタは今『豊穣神の御使い』なんて呼ばれて一躍時の人だわいな」

「ミツカイ?なんだか変な名前ですね。やだな」


さて、とジニはおもむろに立ち上がる。


「みんなにミロが目覚めたことを知らせてやらないとね。体調が戻ってるならアンタも行くかい?」

「行きます!」

「そうだ。<寝室>とか開放されなかったかい?」

「そういえば、さっき開放されました。よくわかりましたね」

「よし、じゃあ後いくつかいけそうだわいな」


ジニは意気揚々と部屋を出て、同じ階にあった談話室にミロを案内する。


「ここは談話室だわいな。どうだい?」

「特に何も。<談話室>はもう開放されてますし」

「うーん。部屋のグレードが上がれば<ユニットタイプ>もグレードアップするかと思ったんだけどね。まあいいわいな。次行くよ」


次に来たのは大きな浴室。


《<ユニットタイプ:浴室>が開放されました》

「あ、開放されました」

「よし、次!」


執務室、作業場、納屋、厨房、とハズレが続き、


「厨房はいけると思ったんだけどね。あとはこれで最後だわいな」

《<ユニットタイプ:食堂>が開放されました》

「食堂いけました!」

「結局開放されたのは三つ。まあまあの収穫だわいな」

「いや、すごいですよ。厨房は<食堂>にデフォルトでついてるみたいです。調理器具もいろいろ揃ってるみたいだし。ジニさんありがとうございました」





「ベルベリ、どこー?」

「マスター!お目覚めでしたか!ああ、ようございました」


宙に現れたベルベリが、鐘の音が鳴るより速くミロに飛びつく。


「ごめんね、心配かけて。みんなどうしてる?」


ハッチとプトラはミロの<第一便>を通ってヴォルフ達と合流。ともにダンジョンを攻略中である。召喚できる荷台は三便までなので、そこまでダンジョンに興味はないと言うラナはこちらで留守番。現在は二万ユニットを割いた広大な<草原>で、タニアとデイジーの戦闘訓練に付き合っている。龍の姿にはなっていないようだが、<絶対防御>があるため怪我の心配はない。


「マスターのこれからのご予定は?」

「僕は今から話し合いがあるから、しばらくはベルベリもヴォルフさん達と楽しんでおいで」


承知しました、と消えるベルベリを見送って、ミロは談話室のソファに腰掛けた。

メテア神顕現の一件について情報共有したいとのことで、ミロ、ジニ、そしてジニの父と司教が一堂に会している。


「シェシュマ教司教のフアテン=モールです。改めましてこの度、クラクシオ伯爵家の皆様には大変お世話になりました」


クラクシオとはジニの姓である。

メテア神顕現の依代となった司教もまた、メテア神が消えた直後に気を失っていた。ミロと一緒にクラクシオ家に運ばれ、今朝方意識を取り戻したのだという。


「私はクラクシオ=オーバン。ミロ君、だったかね?娘が命を救われたそうで。心から感謝する」


いえいえそんな、とミロは恐縮する。


「ミロには言ってもわからないだろうけど、一応これでもツィーレの伯爵だわいな」


当然伯爵を知らないミロに、ジニは「冒険者で言うところのS級みたいなもんだわいな」と補足する。


「僕はミロです。冒険者をしています。オーバンさん、豪華なお部屋をありがとうございいました」


ミロが自己紹介を済ませると、三人は早速メテア神との会話の内容を聞きたがった。


「・・・メテ、豊穣神様と会話したのはこんな感じです」


会談中はメテアちゃんではなく豊穣神様と呼ぶようにジニに言われていた。会談どころではなくなるからとジニは言っていたが。


「異世界の料理。そしてツィーレを助ける・・・」

「僕でもできるってメ、豊穣神様は言ってましたけど、何かツィーレで問題になっていることはありませんか?」


その問いに司教は「あるにはありますが」と言い淀む。

現在教会がとある村の避難所としてごった返しているのだという。


「二月程前、凶悪な魔物に村が襲われ全壊しまして、今は教会の敷地で生活をしていただいております。ただ、それをわざわざ神が顕現してまでお伝えになるかといえば・・・」

「なるほど・・・いえ、僕のやることはわかりました!」

「多分違うと思うけど、なんだわいな?」


炊き出しですよ!とミロが立ち上がる。

ベルベリに仲間を呼ぶよう告げると、その勢いで部屋を出て行った。

そして、すぐに戻ってくる。


「教会どこですか!?」

「落ち着くわいな。豊穣神様がアンタに頼んだのは他のことだろうけど、炊き出しはいいことだわいな。私が連れて行くから、何かいるもがあれば言ってごらんな」


使用人を呼び、ミロが挙げていく食材を書き留めさせる。


「調理の手伝いには、うちの使用人を連れて行くといい。馬車を出そう」

「父上、馬車はいいわいな。ミロが全員連れて行けるからね。司教様も王城へ報告に行かれるならご一緒にどうぞ」

「食材や人を乗せて、私まで乗るスペースがあるでしょうか?」


有り余る程に、とジニが笑う。


「ああ、それともう一つ。会談どころではなくなると思い伏せていましたが、豊穣神様がメテア、と御名を告げたそうです」


ジニの言葉に司教とオーバンが絶句する。


「ね?ミロ。こうなるから黙ってるように言ったんだわいな」


この世界には数柱の神がいるが、シェシュマ神以外の神の名を知る者はいない。この後、豊穣神が御名を告げたという前代未聞の出来事が大陸中を震撼させることとなる。


「アンタは自己紹介し合った程度にしか思ってないだろうけど、神が御名を告げるってことは大変な出来事なんだよ」

「へぇ、そうだったんですね。でも名前で呼んだら喜んでましたよ、メテアちゃん」

「メテアちゃ・・・」


司教が堪らず膝から崩れ落ちた。


「はあ、もうアンタって子は。調理に時間がかかることだし、食材は道中で確保しながら行くわいな」

「お金足りますかね」

「私の店から出すから、お金の心配はいらないわいな」

「いや、ジニ。クラクシオ商会につけておきなさい」


未だメテアちゃん発言から立ち直りきれないオーバンがなんとか声を絞り出した。ジニは思わず顔をきょとんとさせ、


「・・・そう。ありがとうだわいな父上」


と柔らかい笑みをオーバンに送り、口から泡を吹く司教を半ば引きずるように談話室を後にした。





<食堂>一つにつきデフォルトで厨房が一つ付く。

ユニットを追加すると厨房は一つのまま、食事スペースだけが拡張されていくのだが、<ユニット操作>をうまく使えば、一つの空間に小さな食堂を複数作りその分厨房の数も増やすことができる。

今は一つの大きな空間の中に四つの<食堂>を設置して、四つの厨房全てのコンロをフル稼働で調理中である。


「野菜はスティック状に切ってください。ベルベリは切った野菜を<雪原>で少し冷やして<倉庫>に仕舞っておいて」

「承知しました」


ミロの指示でクラクシオ家の使用人達がテキパキと動く。

きゅうり、パプリカ、ニンジン、色とりどりのスティック野菜が綺麗に並べられていく。


「ツィーレ芋はくし切りにして揚げてください」


揚げ物第一斑が作っているのはフライドポテト。揚げた芋には塩と刻んだパセラン草をまぶして異世界ではオーソドックスな塩味にした。簡単なのに美味しい、と試食した使用人達が絶賛している。

クラクシオ家の夕食そっちのけでついてきた料理長が率いる揚げ物第二斑が揚げているのは、唐揚げという肉料理である。


「衣にしっかり味をつけるのですか・・・お、美味しい!」


<倉庫>の整理も兼ねて、ツノラビ、ホワイトコッコ、雪蛇など、唐揚げに合う肉を次々と揚げていく。揚げ物はやはり揚げたてに限るので、フライドポテトも唐揚げも油を切ったらすぐに<倉庫>行きである。


「変わったソースでございますね。匂いも・・・ツンとします」

「一応レシピ通りに作ってみたんですけど、失敗しちゃったかな」


数人の使用人とミロが作っていたのはマヨネーズである。

頭の中にある知識には、スティック野菜に合うとあったのだが。


「あれ、美味しい。酸味と塩気が野菜に合ってる」

「本当でございますね!手でつまんで食べられるのも手軽で良いかと」


メニューは唐揚げ、フライドポテト、野菜スティックの三品。

荷台の外ではジニが中心となって立食形式の簡単な会場を作ってくれているので、ある程度量が出来たら次々に出していく。

難民のような生活をしていた村の者達は久しぶりの温かい食事に涙を流し、豊穣神様と御使い様のご慈悲だと祈りを捧げながら食べていた。


「唐揚げ、ウマウマのウマウマがウマウマすぎている!」

「こりゃオダンゴの首位の座が揺らぐうまさだナ」

「くぅ、これもまた酒に合いそうじゃのう」

「この芋も、止まんねぇ」

「野菜スティックも食べやすくていいね。こういう発想って意外となかったよね」

「ちょっとミロ、バカ売れの予感しかしないこのソースはなんだわいな」


初めての異世界料理は仲間達にも『月華』の三人にも好評だった。使用人達も、追加分を調理しながら交代で外に出てきて食事を楽しんでいるようである。

最後には教会の者達や見物に来ていた人々まで加わって、炊き出しは大宴会のようになってしまい、余裕を持って買っておいたはずの食材を全て使い切り、大量にあった雪蛇がなくなるまでその賑わいは続いたのであった。

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