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27. すっごい人気のプレゼント

「どこに向かってるんですか?」


言われるままにプトラを歩かせていたミロは、御者台のすぐ後ろに座るジニに問いかけた。


「私の実家だわいな」

「王城には行かなくていいんですか?」

「私達の到着はさっきの門兵が知らに行ってくれたわいな」


謁見はおそらく数日後になる、とジニは読んでいる。国の依頼には冒険者ギルドも絡んでいるので、そちらの都合も鑑みて日時を決定しなければならないからだ。

謁見の日時が決まったら、ジニの実家に連絡がいくよう門兵には頼んでおいたので大丈夫だ、とジニは言う。


「叔父上が見つかっても見つからなくても、しばらくはウチに滞在するといいわいな。私ら受けた依頼はツィーレの案内だからね」

「しっかし珍しいな、ジニが里帰りだなんて。ツィーレに来てもわざわざ宿とってたくらいなのによ」

「そうなんですか?」

「まあ、正直全く気は進まないわいな」

「ええっ!そんなご迷惑なら、僕は宿でも、最悪野宿でも大丈夫ですよ!」

「いやいや、ミロを泊めるのが嫌ってことではないわいな」

「ボクもよく知らないけど、ジニのお父さんってすんごく過保護なんだよね?」


ジニは上に四人の兄姉を持つ末っ子である。父親のクラクシオ=オーバンは、幼い頃から商才のあったジニを目にかけ、そしてそれ以上にデレデレに甘やかしていた。

当然、兄や姉達にはそれが面白くなく、親の目の届かないところでジニをいじめ、ジニは孤独な子供時代を送ってきた。


「成人したら【商人】になって家を出ようと思ってたんだけど、【上級魔術師】だったもんでね、仕方なく冒険者になったんだわいな」

「冒険者で資金を稼いで、引退したら商売でも始めようと思ってたら、冒険者としても商売人としても大成功しちゃったんだよね?」


いたずらっぽくデイジーが割って入る。


「ま、私がSS級冒険者になったら兄姉もおとなしくなったし、父上がうざいのさえ我慢すれば、そこらの宿屋よりは幾らかマシだわいな。それに、ミロのスキル開放のことでちょっと試してみたいことがあってね。その条件として私の実家がわりと合ってると思うんだわいな」

「僕のスキルですか?」


ミロの職業レベルは現在十七。ソントプソンに着いて、さっきレベルアップしたばかりである。


-----


ミロ(15才) ヒト族・男

職業/御者 Lv.17

状態/正常

ユニット数/65536

第一便/▼騎獣、▼プトラ

第二便/▼騎獣、▼ミロ

第三便/▼騎獣、▼ラナ


<基礎値>

力:0

守り:0

器用:6

敏捷:1

魔力:0


<スキル>

荷台召喚、安全運搬、荷物リスト、地図、収納、護衛戦士、コンシェルジュ、ユニット操作


-----


レベルが上がるのに必要な運搬総数も、初期の頃は五十ほどでよかったのが、今では二百も必要になっている。次のレベルアップにまだしばらくかかるのだが、ジニには思うところがあるようで「ついたらわかるわいな」と微笑んでみせる。


「お待ちください!」


大きな通りに出たところで、慌てるような声がプトラの耳に届いた。


「どうかした?プトラ」

「いヤ、声がしただけなんだけド・・・」


プトラが見ている方に目を向けると、切迫した様子の女性が走ってくるところだった。見に纏う服は、ルッサンモーヲで職授の儀式を受けた時にいた司教が着ていたものと似ているような気がする。その後ろでは数人の男女がその女性を追いかけ、しきりに声をかけている。「いったいどちらへ」「お待ちください」と声をかけるが、女性にその声は届いていない。


「明らかにこっちに来てるっぽくネ?」

「あー、なんかそうかも」


どうかした?と顔を覗かせるデイジーに、ミロは「なんだか教会っぽい人達がこっちに来てて」と指差す。


「騎獣のお方!どうかお待ちを!」


女性の声に、街を行く人がさっと道を開けた。「司教様だ」「一体どうしたんだ」と囁き合い、様子を伺っている。


「デイジーさん達をお迎えに来たんですかね」

「んー多分違うね。ボクはそこはかとなく、ミロ君がらみだと思うんだけど」


そんなまさかと言いつつミロはプトラの足を止め、女性が追いつくのを待った。


「ありがとう、ございます。お待ち申し上げて、おりました。」


追いついた女性はプトラの前で息も絶え絶えに膝をつき、深く頭を下げた。


「ボクらに用事?」

「は!あなたは『月華』のデイジー様!SS級冒険者の護衛もお付きだったとは」


ほらね、とデイジーがしたり顔でミロを見る。


「やっぱりミロ君だったね」

「ミロ!・・・やはり神託にあった名前と同じ。ミロ様、どうか教会へお越し願えないでしょうか」

「え、僕がシンタクに?・・・シンタクってなんですか?」


確かルッサンモーヲでも同じ単語を聞いた気がする。脳裏に苦い思い出の、苦味だけが過る。何があったのかは思い出せないが。


「アンタさすがだわいな。それで司教様、その神託の内容とは?」

「使命の担い手が、ツィーレの・・・」


その後の言葉はなかった。ふらりとよろめいた司教が地面に手を着くと、そこから魔法陣が円をなして広がったのである。

街の人々が口を開けて固まる中、輝く魔法陣に触れた地面から次々と草木が芽吹いてゆく。枝分かれしては絡み合い、葉をつけ、花が咲き、みるみるうちに成長して、やがて一本の巨木になった。


「は、花から光が」


誰かが呟いた。たくさんの花から小さな光がいくつも生まれ、巨木の上で集まり何かを形作る。

シェシュマ様の時と同じだ、とミロは思った。

その形が女性だとわかるようになった時、誰ともなく膝まづき、両手を胸の前に組み、辺りにいた全ての人がその光に祈りを捧げた。

しきりに何かを呟く者もいれば、地に頭をついて涙を流す者もいる。


『ミロ』


声とともにミロの耳から一切の音が消えた。

あれ?、と思う間もなく花の光に覆われ、ミロは宙へと、女性を象る光の元へと舞い上がった。





「シェシュマ様ですか?お久しぶりです」

《ふふ、ごめんね、私はシェシュマ様ではないの》

「え、すみません、ちょっと前に似た様なことがあって」

《私はS&#G。多分わからないよね?適当にメテアちゃん、とかって呼んでね》

「わかりました。メテアちゃんも神様なんですか?」

「ま、順応力高くて好きよ。さすがシェシュマ様が・・・おっと、権限に抵触しちゃう」


権限に抵触。難しい言葉にミロは首を傾げる。


《神様にもいろいろルールがあるのよ。これは言っちゃいけない、あれはしちゃいけないみたいなね。私はシェシュマ様に創造していただいた一柱よ。いわゆる下位神てやつね。ツィーレ周辺を守護していて、ツィーレの民は私のことを豊穣神と呼んでるわ》


シェシュマ神はこの世界の創造主で、メテア神はその世界の一部を守護するために創造されたのだという。


《聞きたいことはいろいろあるだろうけど、神力の無駄使いできないし、要点だけ伝えるね。私、ミロにプレゼントを届けに来たの。とある世界の料理のレシピなんだけどね、いろんな別世界ですっごい人気なの》

「料理のレシピですか?」

《ミロ、料理得意でしょ?芸は身を助くってやつよ》


本当はシェシュマ様からなんだけど、シェシュマ様が個人に与えられるのは職業だけだからね、とメテア神は言う。シェシュマ神はシェシュマ神で、また違った制限があるのだとか。


《私からもあるんだけど、これはベルベリちゃんに渡しておくね》

「どうしてお二人が僕にプレゼントを?」

《それは・・・ダメか。これも権限に抵触しちゃうみたい》


教えられないみたい、とメテア神は言ってミロの額に手をかざす。


《一瞬で大量のデータを入れるから、ちょっと体がびっくりしちゃうかもだけど、大丈夫だからね》

「はい。ありがとうございます」

《それと。これはできればだけど、ツィーレを助けてあげて》

「ツィーレを?何か起こるんですか」


メテア神は首を横に振る。これも権限に抵触するらしい。


《ミロならできるよ》

「・・・できる限りはやってみますね」


大器晩成型を自負するミロである。国を救うには基礎値が心許ない。


《よろしくね。よく運び、よく導いてあげてね》

「あ、それならできそうです。僕の使命ですからね」


笑ったメテア神の顔は少し寂しそうにも見えた。


《じゃあね》

「あ、僕いろいろあったけど【御者】を授かってよかったです。これからも頑張りますってシェシュマ様に伝えてください!」


白くぼやけていく意識の中、ミロは口早に言い切って、体に異物が入ってくる不快感から逃れるように目を閉じた。

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