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24. ディアコード

冒険者の評判は、良くも悪くもランクで決まる。

CやBはまだまだ初心者。Aでやっとベテラン。Sになると世に一握りの達人と尊敬され、SSはもはや生きる伝説とすら言われるようになるレベルである。

Zは特殊な階級なため、実質SSが最高クラスとして扱われている。

ギルド内ではもちろんのこと、対外的にもそのイメージは強い。


さて。この日、冒険者ギルド内は騒然としていた。

ワロワーデンに二組しかいないSS級冒険者パーティーのうちの一組が、C級冒険者の出した依頼を受けたからである。


「おい見ろ、『不死の賢者』だ」

「なんで『月華』の姉さん方と同席してんだ?」

「この前C級に上がったばかりなんだろ?なんであいつワロワーデン最強の双璧と接点があるんだ?」

「まさかあいつ『月華』のパーテイーに入ったのか?」

「おい聞け、情報仕入れてきたぜ。どうやら『不死の賢者』が依頼を出して、それを『月華』が受けるらしい」


冒険者達の目は酒場の一席に釘付けである。


「なんだよ外野がうるせぇな。こんなことなら個室にすりゃよかったぜ」

「ただの顔合わせだから酒場でいいって言ったのはアンタだわいな、タニア」

「アハハ、なんか『不死の賢者』って言ってるけど、君のこと?」


ミロの目の前には三人の女性が座っていた。

今からでも個室に移りやすか?と言うホッズの提案を、タニアと呼ばれた女性が面倒くさそうに手をひらひらさせて断る。


「それで、お前達をツィーレまで連れてきゃいいのか?」

「あ、はい。C級冒険者のミロと言います。職業は【御者】です。こっちの三人は僕のスキルで、ハッチとベルベリとラナです」

「ハッチだ。パンすら我慢する始末、えらいだ!」

「失礼にあたるのでパンを食べたいのを我慢して臨んでいます、と申しております。私はベルベリでございます」

「ラナじゃ。酒を出そう」


それは後でね、とミロはラナの腕を下させる。


「あたいは今飲んでもいいぜ!『月華』のリーダー、【剣帝】のタニアだ」


最初に挨拶したのは露出の多い鎧を着た豪快そうな印象の剣士。長いクセ毛が黄色い花束のようで美しい。


「【上級氷魔術師】のジニだわいな」


杖を傍らに置くジニが涼しい顔で簡潔に言う。先程から宝石のような緑色の目で見定めるようにミロを見つめている。

最後に挨拶したのは茶色味を帯びた黒い髪の女性。天真爛漫な笑顔のせいなのか、他の二人よりは幾分幼く見える。


「ボクは【魔拳闘士】のデイジー。よろしくね、ミロ君」


ミロは三人が名乗る度に頭を下げ、挨拶を返した。


「案内人は主にジニさんに、剣の指南はタニアさんに担当してもらうす」

「じゃあもう依頼は受けてもらうってことでいいんですか?」

「はい、お三方には事前に説明して了承を得てやすんで」

「あたいらもツィーレに用事があってね。足と食事がついてしかもかなりの報酬がもらえるってんで即答で受けることにしたんだよ」

「報酬はヴォルフさんが多めに出してくれたんすよ」

「ヴォルフさんが?」

「ミロさんそういうの気にしやすでしょ?後でヴォルフさんに連絡するといいすよ」

「でもヴォルフさん今ダンジョンなんですよね?」

「大丈夫す。ヴォルフさんに頼まれてディアコード仕込んでおきやしたんで」

「「ディアコード?『死神』の!?」」


タニアとデイジーが身を乗り出し、無表情だったジニの顔にも驚きの色がさす。


「ディアコードってなんですか?」

「S級以上の冒険者が使えるギルドカードの機能の一つす。コードを交換した人とギルドカードを通して会話できるようになるす」


ミロさんはまだコード交換の申請を出せやせんので、今のところはヴォルフさんとしか話せないす、とホッズが念を押す。


「ジニさんにはこんな感じでミロさんをサポートしてもらいたいす」

「わ、わかったわいな」

「どうやって使えばいいんですか?」

「それは出発した後、ジニさんに聞くといいす。先に出発の日時や旅程を決めやしょう」

「あ、そうですね。すみません」

「いえいえ。『月華』の皆さんはツィーレの王城まで行きたいとのことなんすけど、ミロさん、何日くらいで行けそうすか?」

「国からの依頼でよ、できれば急いで欲しいんだ」


タニアが言うのを聞きながら、ミロはテーブルの上に<地図>を展開する。


「す、すげえ」

「なんて精密な・・・」

「すっごい!面白ーい!」

「道中、こんな感じで驚きの連続になると思いやすんで」


『月華』とホッズのやり取りをよそに、ミロとベルベリはプトラの速さを考えて旅程を立てる。

タニアが急いで欲しいと言ったのは、馬車で半月程かかるのを一日でも短くできないか、という意味だったのだが。


「休憩ありなら三日、なしなら二日、どうしてもというなら今夜って感じですかね。僕はいつでも出発できるので、日時は『月華』の皆さんに合わせます」

「そんなわけ」「いえ、ジニさん。信じられないかもしれやせんが、ミロさんが言うなら多分行けるす」


出発すればわかりやす、とホッズが制する。


「間に合わないですか?」

「逆す!」「逆だわいな!」


ホッズとジニが同時に叫ぶ。


「あ、その調子す、ジニさん」

「これは思ったより大変な依頼になりそうだね」

「そのための高報酬す。納得してもらえやした?」

「そうさね。なんとか報酬額に見合う働きをしてみせるわいな」





まずプトラがしゃべることに驚き、荷台の中の広さに驚き、プトラの足の速さに驚いたところで、ジニの口から弱音がこぼれた。


「ホッズが大げさに話したのかと思ったら、全く。話以上にどえらいスキルばかりだわいな。はあ、疲れた」

「すみません、ジニさん」

「もう何も隠してないだろうね?」

「どうでしょう。隠してるつもりはないんですけど・・・」


それでですね、とミロは申し訳なさそうに話を切り出す。


「お疲れのところすみませんが、その、ディアコードのことを教えて欲しいんですが」

「そうかしこまる必要はないわいな。いや、私も悪かったね。内容の割に報酬が破格だったんで、何かあるんじゃないかと疑ってたんだよ」

「そんなにすごい額なんですか?」

「内容にしては、だわいな。『死神』に礼を言いたいんだろう?使い方を教えるからカードを出してごらんな」


ジニに使い方を教わり、カードを耳に当ててヴォルフに繋ぐ。


「戦闘中だったらどうしましょう」

「音が鳴ったりするわけじゃないから大丈夫さね。取り込み中なら出なければいいだけ、ってのがディアコードの暗黙の了解だわいな」

「そうなんですね。・・・あ、ヴォルフさんですか?」

「ミロか。勝手にディアコードの交換申請をして悪かったな」

「いえ、僕もここ数日で何度かヴォルフさんに会いに行きかけたんで、嬉しいです」

「会いに?急な用事でもあったのか?」

「いや、そういうわけではないんです。これからはヴォルフさんといつでも会えるようになったので、パン食べたくなったらいつでもディアコード繋げてくださいね」

「ふふ、よくわからんが、ちょうど今休憩しようと思っていたところだ。ダンジョンでお前のパンが食えたら最高だな」

「え、じゃあちょっと今から行っていいですか?パン持って行きますよ」

「待て、ここにか?ダンジョンの中だぞ?」


久しぶりにヴォルフと会えることになったミロはウキウキでコードを切る。


「すみません、僕ちょっとヴォルフさんのところに行ってきます」

「「はぁ!?」」

「ベルベリは皆さんに部屋を作ってあげといて」

「承知いたしました」


叫んだきり固まる『月華』の三人を残したまま、「あと飲み物と食べ物とかも出しといてー!」と言ってミロは転移扉の奥へと消えていった。


一方、ワロワデル山のダンジョン内では。


「ミロはなんだって?」

「それが、今から来るそうだ」

「は?どういうことだい?」


わからん、と首を傾げたヴォルフの疑問は、その後ろに小さな荷車が現れることで解ける。


「ヴォルフさーん!」

「「いやいやいや」」


寒い洞窟に響きわたる声が収まるのを待って、ミロは転移扉の説明をする。


「数日会わないだけで凄まじいことになっているな」

「えへへ」

「いや、褒めたわけじゃないさね」

「ロトーもジジも久しぶりだね。はい、これパンとホットドリンク」

「本当にいいのか?」

「だってこのダンジョンすごく広いんですよね?今はとりあえず今日の分だけですけど、これからは定期的にご飯持ってきますよ」

「いやありがたいが、そこまでしてもらう訳には」

「これもノエリアさんのためですから。それにヴォルフさん、依頼の報酬すごくたくさん出してくれたんですよね?」

「それは大した額じゃない」

「じゃあ僕もご飯届けるくらい別に大したことじゃないです」

「あんたは変なところで頑固だね」


ロトーが言って、確かに、とジジが笑う。


「わかった。ではホッズに頼んでお前のカードに金を入れておくから、その金でパンを定期的に届けてくれ。正直、ダンジョンで定期的に飯が、しかもお前の飯が届くのはありがたい限りだ」

「やった、交渉成立ですね」


ジジもロトーも大喜びである。


「そういえば、案内人は役に立ちそうか?」

「もう早速お世話になったところです」

「そうか、ならいい」


安心したようにヴォルフはふう、と息を吐く。

リリリ、と鐘の音が鳴ったのはその時だった。


「マスター至急<第一便>へお戻りください」

「ベルベリ、どうかしたの?」

「ジニ様がお倒れになりました」

「ジニさんが!?」

「依頼人か?」

「はい、ヴォルフさんすみません!僕行きます!」

「ああ、行ってこい。お前なら大丈夫だ」


あんな状態の俺達を救って見せたのだからな、と言うヴォルフに大きく頷いて、ミロはベルベリの<収納>でするん、と一瞬で消え去った。





「ジニさん!」

「わっ、どっから出てきたの!?」


急に現れたミロにデイジーが驚く。ミロが収納されてきたのは<談話室>に設定された空間だった。

デフォルトでついているというソファには、汗をかいてぐったりとしたジニが寝かされている。


「何があったんですか?」

「それがわからねぇんだ。いきなり倒れて」

「マスターこちらを」


ベルベリが<荷物リスト>をミロに見せる。

表示されていたのはジニの詳細ページ。その「状態」に、


「<蝕魔の呪い>、と・・・カウントダウン?」

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