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22. 転移

D級冒険者が指定される依頼の定番といえば、簡単な採取か難易度の低い魔物の討伐だが、ワロワーデンでは季節によってその内容が異なる。本格的な冬に入ったばかりの今の季節、採取高があまり見込めず、討伐難易度の低い魔物は冬眠するものが多いからだ。

代わりの依頼としてよく出されるのが除雪と配達なのだが、これらとミロとの相性が抜群に良かった。


「除雪は雪を<収納>するだけだし、配達はプトラの十八番だもんね」

「途中でレベル上がって覚えた<悪路運行>もかなりいい感じだったしナ」


<悪路運行>は<安全運搬>の機能の一つとして開放されたものである。


----


安全運搬

運搬物の安全に努めます。

絶対防御:荷台と、騎獣または輓獣に対するあらゆるダメージを無効化します。

状態保全:荷台内にある運搬物の状態維持に最適な環境をつくります。

衛生管理:一定時間ごとにゴミ、汚れを自動排除します。

悪路運行:悪路とみなした行路を安全に走行できます。


-----


この<悪路運行>、雪道や坂道が平坦な道と同じように走れるとプトラが喜んでいたのだが、それだけではなかった。

「悪路とみなした行路」という曖昧な表現に、ホッズが「極論、壁も急な坂道すよね?」と言ったのを試したところ、壁はおろか、天井まで歩けようになったのである。

もちろん御者台や荷台の中がひっくり返ることもなく、ホッズは「何気ないスキルすらえげつないすね」と目を丸くしていた。


「おかげでルッサンモーヲの依頼とは比べ物にならないくらい、難なく達成できました」

「それなんすけど、ツノラビを五匹とか、サラコナーテダンジョン攻略とか、D級の依頼にしてはかなりの高難易度だと思うんすよね。【御者】職のスキルを鑑みて難易度を上げたってことすかね・・・」

「どうなんでしょう。ともあれ、これでC級昇格ってことでいいんですかね?」

「そうすね。たった二日で昇格だなんて、多分ワロワーデン最速記録すよ。ミロさん、C級昇格おめでとうございやす」

「やったー!」


渡されたのはミスリルという特殊な金属でできたカード。破損しても修復する魔法が込められていて、使い捨てのD級カードと違い、今後はこれに情報を上書きしていくのだという。

冒険者を続ける限り、生涯にわたって身分を証明するカードである。


「ところでミロさん、これからどうするんすか?例の冒険者パーティーとの顔合わせまでまだ六日程ありやすが。B級昇格に向けて依頼でも受けやす?」


例の、というのは先日依頼したツィーレへの案内人のことである。ちょうど条件の合うパーティーが見つかり、先方も別の依頼でツィーレ行きが決まっていたとのことで、六日後に顔合わせということになったのだ。


「みんな昇級のために頑張ってくれたので、今日はこれから昇格祝いのピクニックに行ってきます」

「そうすか、お気をつけて行ってらっしゃいやせ・・・」


颯爽と去りゆくミロの背中に、ホッズは「あの人はブレないすなぁ」と感嘆のため息を吐いた。


「ミロ、ピクニックはどこだ!」

「実は<地図>でいい感じの場所を見つけたんだ」


ちょっとこれ見て、とミロは<地図>を展開する。


「ほらここ。この山、翼の生えたプトラが昼寝してるみたいじゃない?」

「居眠りプトラ!」

「オイラっつうよリ、ドラゴンって感じだナ」

「へぇ、物語で聞いたことはあるけど、ドラゴンてこんな姿なんだ。」

「今は<悪路運行>もございますし、プトラの足なら六日あれば余裕をもって帰ってこれそうですね」

「よし、じゃあ決まりね。ピクニックのご飯は道中で作れるし、すぐ出発でいいかな?」

「「おー!」」


目指すはワロワーデンの南東に位置する山岳地帯の一角、名付けて「居眠り山」である。





一度ミロが悪路と見なしてしまえば、それはもれなく<悪路運搬>の対象となった。

起伏の激しい雪山を抜け、切り立った崖を垂直に駆け下り、あげくプトラは今、川の上を走っている。


「プトラ、楽しそうだね」

「走れる場所が増えたのが嬉しいのでしょう」


ミロとベルベリは、そんなプトラの荷台の中でピクニックのご飯作りを終えたところである。必要の無くなったヴォルフのアジトから食器や調理器具を貰っていたため、やや張り切ってしまい、大量の料理が<倉庫>に保存されている。


「これはまた近々レベルが上がりそうだね」

「レベルといえばマスター。<第二便>はご確認されましたか?」

「そういえばしてないや。騎獣、輓獣を増やすスキルだろうなと思って、そのまま放置しちゃってた」

「それが、なかなかどうして面白い機能がございましたよ」

「なになに?ベルベリがそんなこと言うなんて珍しいね」

「<ステータスボード>をご確認ください」


<第二便>はミロの予想通り、騎獣、輓獣を新たに一体設定できるスキルだったのだが、


「あ、選択肢にヴォルフさん達の名前がある!」


選択肢にはミロやプトラの他に、ヴォルフ、ジジ、ロトーの名前があった。


「ヴォルフさん達にも荷台を貸してあげられるね」


試しにヴォルフを選択しようとするミロを、ベルベリが制する。


「今はダンジョン攻略中ですので、急に荷台が出現したら驚かれるかと」

「そっか、そうだね。今はやめとこう」

「<第二便>の開放に伴い、他のスキルに多少変化があるようです。確認されますか?」

「うん、お願い」

「一つは<安全運搬>ですが、<第二便>の騎獣、輓獣は<絶対防御>の対象外である、という一文が追加されました」

「あら残念。他は有効なの?」

「はい。荷台内や御者台は<第一便>同様<絶対防御>の対象ですし、その他の<安全運搬>の機能も有効のようです」

「荷台の中が安全なら安心だね」

「そしてもう一つ」


ベルベリは小さく微笑むと、スカートを蹴り上げリリン、と鳴らし、プトラに少し開けた場所で止まるよう指示した。


「え、なになに?」

「まず安全のため、<第一便>にマスターを、<第二便>にプトラを選択してください」


ベルベリに言われるまま外に出て、プトラを<第二便>に再召喚、自らを<第一便>に設定する。


「プトラはマスターから少し離れて。そして<ユニット操作>をこうして、・・・これでいいでしょう。ハッチは私と一緒にこちらへ」


そう言ってベルベリはハッチを連れてミロの荷台袋の中に飛びんだ。

そして数秒。今度はプトラの荷台からひょい、と顔を出す。


「<ユニット操作>で荷台間を行き来できる転移扉を設置できるようになりました」

「へぇ、・・・でもこれ<収納>でも同じようなことできるよね?何が面白いの?」

「確かに、荷台の中で触れれば<収納>で同じことはできます。しかしそれは原則として、プトラの現在地がわかっている場合にのみできることです。また、<収納>の制限上マスターと私しか使用することができません。しかしこちらは扉を設置してしまえば、プトラがどこにいようと、誰でも自由に行き来できるのです。これはいわゆる転移魔法陣に近い機能です」


ミロはまだ要領を得ない。


「例えばですが今、<第一便>をマスターからヴォルフに変更します。そしてプトラの荷台から転移扉を通ってヴォルフの荷台へ転移します。プトラは一度送還してもう一度召喚すればマスターのそばに出てきますので、これでヴォルフがどこにいるかわからなくても、すぐに会いに行くことができます」


ようやく理解したミロが目を見開いた。


「すごい!それすごいよ!!じゃあこれからはどれだけ離れてても一緒にご飯食べたりできるってことだね!」

「いえ、まあ・・・それもありますが、ノエリア様の呪いを解く方法が判明した時など、何日もかけて落ち合う必要がなくなります」

「そっか、そうだね!」

「ん、ボルフもピクニックするのか?」

「なア、それってオイラが走る機会少なくならねぇカ?そんなのやだヨ」

「ふふふ、大丈夫。転移扉はここぞって時だけにするから」


そう言いつつ早速ヴォルフに会いに行こうとするミロを、再度ベルベリが制する。

いまいち転移魔法の稀少性がわからない、平常運転のミロ一行であった。





「ベルベリはさ、これから開放されるスキルのことも知ってるの?」


転移扉の検証を終えた一行は、再び「居眠り山」を目指して森の中を走っていた。


「いえ、スキルの開放とともにその知識が備わるという感覚ですので、未知のスキルについてはわかりかねます。予想でよければ、幾つか開放されそうなものはございますが」

「どんなスキル?」

「砂漠や海など<ユニットタイプ>はまだ増えるのではないかと」

「海か。僕見たことないや」

「あとは<第二便>があるので、<第三便><第四便>と増える可能性もございます」

「あはは、賑やかになりそうだね」

「それから、以前マスターもおっしゃってましたが、『陸上生物』の魔石を十種類収納して、プトラを召喚できるようになったのですよね?」

「あ、そうそう。それ僕も気になってたんだ。飛行生物とかありそうだよね」

「ええ。私も気になってハッチの修行の際に検証してみたのですが、鳥系の魔物を11種類程収納しても何も起こりませんでした」

「そうだったんだ。15種類とか?いや、そもそも飛行生物はダメとか?」

「わかりかねます・・・」


二人はしばし考え込む。【御者】の前例がない以上、こうして模索していくしかないのだ。

話が途切れたところで、外からプトラの声がした。


「おーイ、ついたゾ」

「思ったより早い到着でございましたね」

「そうだね。せっかくだからプトラの頭のところでご飯食べようよ」

「だからオイラじゃねぇっつうノ!」

「あはは」


<悪路運行>で軽々と山を登り、角のように伸びた二本の突起の間にある平坦な場所に陣取る。敷き布を広げ、<倉庫>から料理を呼び出して、銘々飲み物を片手に手製のクッションの上に座った。


「じゃあ、みんな。C級昇格おめでとう!乾ぱーい!!」


豪快に杯を打ち合わせた時だった。


――何の匂い、だ?


「居眠り山」がぐらり、と大きく揺れた。

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