ビーストKING
たくましい影は、倒れ込んだ大地に優しく語りかけ、いっぱいの冷えたアイスティーを飲ませた。
ボロボロになった大地の体を優しく抱き抱えて。
「か゛わ゛い゛い゛な゛ぁ゛大地く゛ん゛ゆっくりお眠り」
たくましくも、芯に慈愛を感じられる声に、大地は幸せそうに目を閉じた。
◇
どのくらい寝ていただろうか。
目を覚ますと、そこは薄暗いベッドだった。
枕元には先ほどのアイスティーのボトルとグラスがあった。
あまりに大きい枕に違和感を感じると共に、ベッドから足を下ろすと、今まで感じた事のない感覚が脳をよぎった。
サッー(迫真)。
この世界がなんなのか、そしてこの組織はなんなのか。
それらが一瞬にして頭に注ぎ込まれた。
枕が異様に大きかった訳もなんとなくだが分かった。
しかしいくつか分からないことがあった。
何故僕がこの崩壊した未来世界に来てしまったのか。
そして、誰が僕を介護してコ↑コ↓に寝かせてくれたのか。
多少の違和感はあったが、後者の謎は解明した。
住宅街で倒れていた僕、しかし幸運にもそこはこの「CORT」の本拠地、シモキタ・ストリートだったのだ。
「驚いたぜ、たまげたなぁ。チビが基地の前で行き倒れていたからなぁ」
巨漢の傭兵長、三浦が笑う。ちなみにこれも枕情報だ。知りたくもない情報が枕から大量に注ぎ込まれた。
「ありがとうございました。三浦傭兵長」
敬礼してお礼を言うと、三浦傭兵長はおおらかに笑った。そして、「誠実なチビだな」と褒められた。
その全てを肯定する様な姿勢、それは今まで遠慮ばかりして生きて来た大地の心を少し癒した。
◇
「三浦大傭兵先輩はあの有名なMURさんの実の孫なんだぞ」
テーブルを囲み、合成食を頬張りながら、枕から聞いた情報を、淫夢厨のタダノさんから聞かされた。
MURというのは、『淫夢』と呼ばれるコンテンツの登場人物で、肯定しかしない偉大な先輩として愛されている、僕を救ってくれた団体の設立者である。
何故ここまで詳しいかと言うと、恥ずかしながら僕は元の世界、今、いや、今基準なら過去、淫夢厨だった。
事件後、僕はしばらく学校に行けていなかった。俗に言う不登校だった。
そんな僕を再び社会へと復帰させてくれたのは一本の動画だった。
それはAIで作られたMVだった。
色黒の男性がネコたちとヴァイオリンを演奏しながら歌を歌う簡単なものだった。
「いいよこいよ!」
肯定ばかりの温かい歌詞に僕の心は救われた。少しながらだがクラスにも戻ることができた。
それから僕は『淫夢』と言うコンテンツについて調べる様になった。
ムキムキの野獣と呼ばれる男が卑猥な歌詞を歌ったり、アイドルの歌を歌ったり、日本の首相とダンスしたり、野獣と呼ばれる男の活動は様々だった。
そしてそのコンテンツには共通性があった。
そう、『愛』だ。
製作者には愛があった。彼の生き様を知り、彼の残した言葉を噛み締める。そしてそれを引用する。『愛』の力によって野獣の意思は伝えられていたのだ。
それを受け取る僕らにもその『愛』はあった。コメント欄には一切のアンチコメは無かった。一見悪口に見えるコメントも、それは『愛』があるからそこに残っているのだ。
彼はただのおしゃべりう◯ちなどではない。




