005 VSグリフォン
村は燃え続けた。
村民は完全に抗戦する意思を挫かれ、海兵達の遊び道具になった。
「イェラン…」
返り血を浴びて静かに佇んでいた。
イェランは俺を見て、表情を変えた。
「違うんだ…」
「俺は…!!」
ああ
「…」
「誰も責めねえよ」
わかってた。こいつは俺が来る前から船長を張ってたんだ。
何人も殺した上でこいつは…
「お前がここの頭かクソジジイ」
上裸のブルースが剣を肩に担いで、縛られた村民達のもとにやってきた。
頭部スレスレに剣が突き刺さり、村長はその場にへたり込んで失禁する。
その勢いに気押されて隣で手足を縛られていた村長の息子も反応し、背後の瓦礫に後頭部を打ちつけた。
「ひ、は、は、ひ、は」
「案内しろ」
「よおしお前ら!!物資を全部荒らしてここで待て!!」
「俺たちは下見に行く。俺らがいないうちに身内同士で暴れた奴は殺してやるからな!!」
ドールマンが村長と村長の息子を連れて、村を離れようとしたその時。
「イェラン、ブライツ!お前らも来やがれ!!」
な…
「俺…ら?」
「早くしろ!!!」
ああ、クソ…心身疲れてる時に…!!
◇
俺はイェラン、そしてドールマン、それぞれの部下と共に視察にやってきた。
村長が引率し、遺跡への道をひたすら歩く。そして、何故か茶色い毛並みの犬が後ろからついてきている。
両脇にヤシの木。視界の右半分に映る断崖絶壁の大山。それに、大自然のいい匂い。
何度見てもいい風景だ。俺はまだガキだけど、老後はこういう所で過ごしたい。
いや…でもやっぱり…
「…」
「何か鳴き声がするな」
『ワン!ワン!ワン!』
ドールマンが耳をほじくりながら言う。
「『グリフォン』の鳴き声のことですかな…??」
村長がおそるおそる答えた。
絶対後ろにいる犬のことだろ…
「グリフォンン??」
「は、はい…二年前、東の…アルドルの方から飛来してきましてな」
「緑毛で、体長はざっと420レノス…大きい方じゃわ」
「今はあの岩盤の上に…」
村長は震える手で断崖絶壁を指差した。
「ほほう」
「ま、俺らはバケモン退治に来てねえから…」
『ワン!ワン!グルルルル』
「いつの間にそんな強大な魔物が巣食っていたのか」
二人の後ろで、俺と並行して歩いていたイェランが口を開いた。
イェランの右隣には村長の息子がいた。んー、気まずい…とかいうレベルではない。
『ワン!ワン!』
「グリフォン…か」
「神父様は…」
うお、喋った
「神父様はいつもあの大鳥に魔物の肉を与えに行っていた」
「お前らは終わりだ…あの鳥は賢い」
「神父様を殺したのがお前らだと分かり次第、すぐ皆殺しに遭うぞ…!!」
「フン」
「ブライツさん!!こんなヤツの虚言無視しちゃってください!!」
んだこいつ、お前もついてきてやがったのか…!!
「必要とあれば、今!!このハヌルディがコイツに手を下…」
「いい」
「そういうのもういい」
『ワン!ワン!ワン!』
コイツは俺のことを舐め腐ってやがる。
いつかぜっったい痛い目に合わせてやらないと駄目だ。
「えー?…まぁ、何だって僕が手を汚すのでいつでもお申し付けくださいね!」
クソ…何なんだこのゴミ野郎…
息子の方はまだ物凄い目をしてブツブツ言っている。
『ワン!ワン!ワン!』
そして、鳴き声!流石にうるさいな!なんか危険信号でも受け取っちまったか?獣の勘で
村長かなんかの犬か?船には動物の類はいなかったはずだ…獣人を除き。
「ヴァレシアの誇りとサプテナーの痛みが…憎しみが…!!」
この息子も、大丈夫か??覚悟が決まって、俺たちを自分諸共必殺の罠にでもかけようと画策してはいないだろうか。
もう目がガンギマっている。
さっき瓦礫に頭をぶつけていかれてしまったか?
「そこらにしろよクソガキ」
剣が首元に据えられた。
その剣の主はドールマンであった。
「てめえ如きがヴァレシアの名を語ってんじゃねえぞ」
「─っ、」
物凄い剣幕だ。ドールマンがキレてる。
こいつ、帝国の話になると態度が変わるな。
何かある。
『キエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!』
!!?
「何じゃあ!!?」
「グリフォン!!!!?」
これはもう犬畜生の鳴き声じゃない!!
魔物、グリフォン!!!
俺は漁村で何度か聞いたことがあった。ヴァレシアでは討伐難度という魔物等の強さの程度が設定されている。
その程度は大きく初級、中級、上級、超上級、最上級に分かれる。
アルキイネやハタアラシ、ヒトツツキのような、植物や小動物ベースの魔物は初級に割り当てられる。
ゴーレム、ゴブリン、そしてデコウッド。平凡な冒険者一人と同等の強さを持つ魔物達だ。
そして、上級…
「討伐難度超上級、来るぜ!!?」
「血が沸く……」
「討伐難度…超上級!!?」
超上級!!!?超上級!!!?超上級!!!?
「やれやれ、超上級は死霊館の燭台の魔物"ショクダイン"以来だな…!」
ショクダイン?!何だそれ…擬態系の魔物か?名前に捻りがなさすぎる…!!
「魅せてくれよ、田舎モンのブライツ!!」
魅せてくれって、どうみせてやればいいんだよ!!?
まずいまずい、唸り声と地響きが近付いてくる…俺は…調子に乗ってるが結局は井の中の蛙だ…!!
え?あれ本当に420レノス?
「話が違えぞジジイ!!!!」
「ありゃあ……700レノスは超えてるぜ?!目ついてんのかボケ老人コラ!!」
地響き、唸り声、羽音、風を切る音。威圧感。
「ち、ちかづいて計測器ではかれっちゅうんか!!遠近感じゃ遠近感!!」
「誤情報教えてんじゃねえよ!!腹いせか?!」
遥か昔絵本でしか見たことない気高き鳥の頭、翼。百獣の王の胴体。
「腹いせちゃうわ!!あ、あぁ…く、くる…」
「くる…くるぞい…!!」
ついにその巨体が目の前に降り立った。
羽をバッと広げる。
「うがぁぁあぁあぁっ!!!!」
俺の部下が…吹き飛ばされていく。
この場でこのデカブツとマトモに戦えるとしたら、ドールマンとイェラン、ぎりっぎり俺だけだ!
いや、ハヌルディも戦えるか…?
「よそ見すんな!!!」
え。
強靭な鉤爪が俺を襲う。
俺、死んだ!!
突如、俺の目の前に影が飛んでくる。
既視感。そうだ…あの時、クアトラの手首が吹き飛んだ時の…!!
「チイッ!!!!」
鉤爪と鉄剣が衝突し、激しい火花が周辺を散らした。
ドールマンだ。俺を庇って剣で真正面から受けたのだ。
少しずつドールマンの体が押されている。
「な、何で…」
「動けブライツ!!!」
はっ!!そうだ、動け、俺!!!
走り出し、その巨体の真横に回り込む。いや、待て。駄目だ!!
『キエエエエエエエエエエエエエエ!!!!』
また翼を広げやがった!!吹っ飛ばされる!!!
くうううううううっ!!!
「な、なんだ!!!」
あ!?俺の部下が掴まれた…!!うおっ!!
「畜生、矢を放て!!」
チッ、一応俺の部下だぞ…!!いや、今はそんなこと言ってられねえな…
上空にいるグリフォンを無数の矢が襲う…だが、マトモに当たってもちっとも反応を示さない。
やっぱり化け物だ…!!700レノスの化け物!!
ん…い、いつの間に俺の上空に?!急降下!!!
「ば」
鷲掴みにされていた二人の部下の体がグチャグチャになった。
曲がっちゃいけないところがことごとく曲がり、全身の穴という穴から血を吹き出す。
くそッ!!十三人…残りは十三人だ!
「クソ!!!」
「今がチャンスだ!!ものども斬りかかれ!!」
突然の急降下で勢いが死んだところに、次々と刃が突き立てられていく。
やはり、ドールマンは強い。あいつの剣だけ異常な食い込みを見せている。
それは大鳥を唸らせた。
『クオオオオオオオオオオオ!!!!』
「離れろ!!!」
まただ、翼が勢いよく広げられた。芸がない。しかし、それは申し分のない即死級の威力を持っていた。
「うひゃー、こりゃたまったもんじゃねえな」
とはいえ部下も優秀だ。三度目の技。今度は死者は出なかった。
グリフォンが体勢を立て直し、部隊全員が後退していく。
「《シェイドバニッシュ》」
イェランが魔術を唱えた…その時!グリフォンの体が硬直した。
それも長い。グリフォンがどうにか動こうともがき苦しんでいる。
しかし、近くで見ると圧巻だ…
再びドールマン達が斬りかかる。海兵達の攻撃は毛皮に阻まれ全く響く気配がないが、ドールマンの重い一撃はその巨体に大きくダメージを与えた。
毛皮ごと音を立てて肉を切り裂いていく。
(チッ、もうちょい隙が欲しいぜ…!!)
ダメだ、それでも決定打にはならない!ジリ貧だ、ドールマンも大分消耗している…!!
そうだ!!グリフォンの注意を逸らせることができれば…!!
『ワン!ワン!ワン!ガルルルル!!!』
はっ、そうだ!!
「アラサーに任せてんじゃねえぞクソガキ!!」
「イェランに続け!!!」
怒られた…よし!!
『ピューーーーーーピューーーーーー!!!!』
俺は、漁村にいた頃馬主の息子から教えてもらった口笛だ。
グリフォンがこちらを向いた!!魔術による金縛りはもう終わったらしい。こ、こっちにむかって…突進してくる!!
「ブライツさん!僕が滑り込むのでグリフィンを飛び越してください!!」
は?!あの巨体を飛び越せ?!頭いかれてんのかこのチビ!!
はっ!!
「これで!!」
俺は咄嗟に投げられたものをキャッチした。瓶詰めにされた液体のエリクサーだ。
アイツが初めて焦ってやがる。ヘラヘラしてねえクソ真面目な顔だ、まあまあ気味がいいが、それはそれとしてこれを消費して魔力で飛べってことか…
ええい、一か八か!!!!!おらぁぁぁぁぁ!!!
『クオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
俺は眼前に迫っていたグリフィンを易々飛び越えた。
しかし力の制御が難しい!!ミリナはコレを容易く制御していたというのだから、ようやるものよ...
「え、えあは、え、は」
「僕、死にまぁぁぁぁぁぁす!!!!」
ハヌルディの顔は青ざめていた。産まれて初めて死を目の前にした顔だ。
巨大な鉤爪が今にもハヌルディを八つ裂きにせんと迫ったその時、突如ハヌルディがグリフォンの下に滑り込み小振りの短剣を取り出す。
そして、羽毛のない肉部分を抉りながら巨体の下から脱出した。
ちょうどその時、俺は走馬灯が見えそうな高さから落下し、着地する。
ハヌルディが俺にハイタッチを求めてきた。しょうがない、思うところはあるが応えてやろう。
だが、コレで死んだとは思えない...いや、きっとま
だ!!
『グルルルルアアアアアアアア!!!!!』
「おねんねの時間だデカブツ!!!」
颯爽と現れた影が、首筋に強烈かつ渾身の一撃を叩き込む。それは巨獣の生命を断つには申し分のない威力
だ。
『キルエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!』
巨大が轟音と共に力なく倒れ込む。
死んだ....?や、やったか?
やった!!!やったぞ!!!!!
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」
「さすがドールマンさん!!!」
「さっきの一撃、シビれたぜ!?!」
「トドメ刺したんだから、取り分は五番船が五割は買わねえとな」
「そうだな!おこぼれ貰えて良かったじゃねえか、ブライツ。イェラン」
しかし、美味しいところを持ってかれたな...
「おい、勝手なこと抜かすなよ野郎ども」
「解体作業はお前らがしろ、分前は等分だ」
「えェ〜〜〜〜〜〜〜!!??」
「一旦村に戻るぞ!!ここに野営地を築く!!」
「物資を運び込め!!」
「や、野営地…?!」
「なにと戦うんです!!」
「あの規模の村だ。村人があんだけいて外部に漏れないわけがない」
「いずれヴァレシアの討伐軍が差し向けられる」
「な…」
「楽しみだ…」
「同期殺しか」
血振りをした剣を天に向け、鋭く目を見開いた。
◇
「キヒヒヒ…!!!!!」
「ぐあっ!!てめえ当たったら承知しねえからな!!」
「人差し指、中指、薬指、小指、親指、人差し指…!!!」
「ハッ、ハッ、ハッ!!!」
村では強奪が進んでいた。
海兵達が俵を担ぎ、女を倉庫に連れ込む。
胸糞悪い光景だ。
「やってんな、お前ら」
「ドールマン」
「聞いたぞ、討伐難題最上級レベルの魔物に遭遇したとナ」
「あぁ」
「てめえも聞いたか」
「勿論ダ」
「グリフォンがいたと聞いていたラ、私も着いていったというのニ…」
「バカ言うな、俺も死ぬかと思ったぜ」
◇
微かな光も許さない迷宮の深層にて。
ジュルジュルと音を立て、二足歩行の猛獣が腐った死骸を引き摺り回す。
『カルルルルルルルルル』
その廊下で、猛獣は何かとすれ違った。
『クル…ア』
猛獣の目が切り替わる。服従の目。絶対的強者を見る目。
『エア、ルルルル……』
その何かは茶色く古びた衣服を見に纏い、廊下を練り歩き続けていた。




