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魔殺しは剣を継ぐ  作者: 芥川りゅうくん
ラビリンス攻略・フューリ島編
4/6

003 覚醒

「あああああああああああああああ!!!!!!!」


いつもより幾分か堅さを増した床の上で、俺は跳ね起きた。

悪夢だ。しかし今日の夢は意味がわからなかった。

周りには木が規則的に植えられていて、子供たちがよくわからないオブジェに集まって戯れていた。

ふと隣を見たら、…そうだ、帝国騎士の鎧を着た謎の男がいたんだ


脈略がなさすぎて驚いている。てっきり、俺は夢の中にクルおじさんが出てくるものだと思っていた。

俺は意外と薄情な人間なのかもしれない。

この寝床の堅さも、もう俺が、自分の家にいないということを暗示しているようだ。そうだ、あの家だって本当の俺の家じゃない。

本当の俺の家はイリニで灰になった。その時には既に人の心は置いてきたんだ。


「いいご身分じゃねえか、ブライズ」


一目で分かった、細身の男、五番船船長ドールマンだ。

頬痩せしていて、鼻が高い。眼球の輪郭がハッキリとわかる。


「俺はブライツだ。」


「お前は優雅でいいなぁ??俺たちときたら、甲板の上で雑魚寝だぜ」

「何人もブチ殺してる奴を自分の女にしたいだなんて、全くおめでたいやつだ」


俺はドールマンの言葉にハッとして四畳間にも満たない部屋を見回すと、隅で昨夜の女が腕と足を縛られて拘束されているのが見えた。

一瞬で眠気が覚める。


「案の定寝首かかれかけてたぜ」

「コイツ、お前のことブチ殺そうと必死こいてたから俺がとっちめてやったよ」


「…」


「俺がいなきゃお前100回は死んでたぜ??」


「ったくよォ」

「俺がこのガキ必死に止めてる間にお前はグースカ呑気に寝やがって」


コイツ、悪いヤツなのか?雰囲気は気さくそうだ。

しかしやっぱり既視感(デジャヴ)


「おい!!!」


「な、なんだ?!」


俺は身構える。


「感謝の一言くらいしろよな!!」


「…」


びっくりした。本気で三途の川が見えた。

しかし、このぼーっとしてしまう癖は早く治さなくては。


「あ、ありがとう…ございます」


「良きかな良きかな」


手をパンパンとはたき、ドアを開けてこちらに手招きをした。

一挙手一投足、随分と色気を演出してやがる。



キイキイと軋む螺旋状の階段をゆっくりと上がり、船上に出るとそこでは既に多くの海兵がたむろしていた。


船は帆を畳み、タッキングの準備に入った。

向かい風が塩分を運び、少々目が痛い。

「小僧」


「うおっ?!」


昨日のデカブツだ。名は確かテイクソン。

この巨漢はやはり間近で見ると圧倒的だな。あの女、よくこんなのに立ち向かえたものだ。


「ガッハッハ、お前ビビってるのカ?」


「ビ、ビビっちゃいねえ!!」

「これから魔物をブチ殺しにいくってのに、お前らにビビってやってかるかよ…!!」


まずい。謝罪の言葉を言わなくては。

しかし、敬語で喋ろうとしても俺のプライドが何故かそれを許さない。


「昨日の戦いを見る限り、お前は確かに強イ」

「これから向かう地について少しでも知っているカ?」


「…いや、というかうろ覚え的な…」


「?」

「まぁ、とりあえずワタシたちがこれから向かう土地について軽く説明しておくカ」



そこハかつて土地の原住民が怪物を祀っていタ場所…

"贄"を差し出さなければ村を滅ぼされル、と狂信されていタ怪物ミノタウロスが眠るとされる場所ダ

何故そう作られたのかは定かではないガ、その場所はどうあがいても抜け出せない迷宮造りだっタ


時が経チ、その場所にはゴレッタ王国により怪物と称した牛の獣人達が幽閉されタ

彼らは日が経つごとに迷路の中で人間性を失イ、徘徊する獣の如く正気を無くしタ

そして王国は罪人を迷宮に()()し、なすすべもない罪人達は皆脱出できず獣人どもに皆殺しにされ実質死刑となっタ


その凶暴すぎる獣人達故に、王国ですら内部を完全に把握しきれていないと言ウ

そこで今回、ブルースの野郎ハそこに目をつけテ一攫千金を狙ったわけダ


「でももし宝がなかったらどうするんだ?」


「その時はあらかじめ用意した積荷の胡椒を売り捌いて待たせル」

「リスクを負う価値はあるネ」


「それでもその迷宮を調査する時には犠牲は出るだろ」


「そこらの海兵どもなど所詮使い捨ての駒ダ」

「あいつの振る舞いを見ればわかるだろウ?」


「けっ、」


人間っていうのはこうも意地汚いのか。

ふとたまに思うことがある。人間と魔物、どちらの方が穢れた心を持っているのか。

でもこんな問いは意味がない。今の俺には、魔物を斬り殺して血を浴びることしか頭にないからだ。


隊長格の男どもはみんな決まってならずもののような格好をしている。


イェラン?みたいな名前のやつも黒装束で全身に暗器を仕込んでいたし、ドールマンも全身ハーネスの革の鎧を着込んでいる。

曲者揃いだな。


俺は昔、山賊が村に攻めてきた時にクルおじさんと戦場に出たことがある。

そうだ…夕暮れ時にクォルスとかいうオオカミ少年のガキが山菜取りから帰ってきたかと思ったら、火の玉がたくさん村に向かってきてるとか訳の分からないことをほざいてたんだ。

ミケのやつがホラ吹きってからかってやろうと森の奥に進むから、俺もそれに付き添っていたら…確かに火の玉が見えた。

崖下の危険な道を、蛇行しながら無数の火の玉が着実に村に向かってきていた。


初めはなんらかの討伐隊か軍隊だと思ったよ。

でも俺らを見るなり、血相を変えて喚き始めたからすぐに理解した。

略奪者どもだ…!!


奴ら、俺らを見つけて村が近くにあることを知っちまったんだ。

ついてきたから、と言い訳したかった。だが俺にはその責任があった。

いち早く村長に伝えて、迎え討つ準備を着実に進めた。


連中はすぐに漁村にやってきて、火矢を放った。



「賭けはオレの勝ちだな!!」


「チクショウ、マジで村があるとは思わなんだ」

「次の土地では村がないに10オクス…」



仲間と駄弁ってたやつを後ろから短剣で突き刺した。

でもその傷は浅すぎた、激昂したその男が俺を即ぶち殺そうと手を伸ばした刹那。


男がカッパになった。頭部の3割を消失していた。

死体が力なく俺に覆い被さると、褐色肌の男が背後に立っていた。

一緒に話してたやつも倒れていて、血を凄い量…あれは酷かった。


その日からだろうか。よそ者だったクルおじさんが村民から慕われ、いい扱いを受けるようになったのは。

そのときミケは、……ミケ。ミケ!!!!!!

すっかり忘れていた。あいつ、俺の言うこと押し退けて船に乗りやがったんだ!


俺はすぐ二番船の淵に飛び乗って、海兵どもを押し退け船内に侵入する。

螺旋階段を駆け下り、二度見た構造の船内に突入した。

多分あいつがいるなら突き当たり真っ直ぐの左の部屋だろう。


扉の直前で踏みとどまった。あいつが今どういう精神状態なのかわからないからだ。

あいつは今どういうわけか二番船船長という肩書きをもらってる。

何か重要な理由があるのかもしれない。俺はできるだけ、猫の獣人である彼を刺激しないようゆっくりと扉を押し開けた。




「ブライツ…!!」


ミケは爪を噛んで全裸で隅に丸まっていた。


怯え切っている。こいつの裸はだいぶ前、森に篭って秘湯を見つけた時以来だ。


胴体に…すごい傷がある。しかも全然治ってない。少し動いたらまた開いちまいそうな傷だ。


ミケは風呂が嫌いだった。だから俺がいつも夜体を洗ってやってた。

俺にほんとの意味で背中を預けてたこいつが、今や俺にすらビビり散らかして毛を逆立たせてる。


「どうしちまったんだよ…」

「なぁ!」


「あの男…」


ミケは自分の体を両腕で抱いてキョロキョロし始めた。


「誰もいねえって!」


「あいつ…とんでもない海賊団の首領だったんだ」


やっぱりカタギじゃなかったか…

あの絵に描いたような悪人ヅラは伊達じゃなかったようだ。


「逃げようブライツ」


ミケが突然動いて俺に縋るようにしがみついた。

その目は潤んでいて、いつもの余裕ぶった態度は微塵も感じられなかった。

俺は…どうするべきなんだ


魔物を殺しても、気持ちよくなれるのか?


俺は…俺はどうするべきなんだ

おじさん、助けてくれよ


「俺等国賊になっちまうよ?!!」

「お前もイヤだろ!!おえっ…ぐえっ……」


目の前の異質な光景に圧倒され、思考がまとまらない。

すると、背後に物音がした。

イェラン!!!


イェランが走ってどこかに向かおうとする。その先には螺旋階段。

盗み聞きされていたか!!


ブライツの元に行くつもりだな。絶対に阻止して口封じしないとまずいことになる!!


俺はイェランの襟を布越しに掴み、そのまま引き寄せて腰に蹴りを喰らわせる。

畜生、こんな時に剣がねぇ!!しかし、アイツのナリを見るに向こうも剣がないらしい。おあいこってこった。


「ふぐわっ?!!」


イェランがうつ伏せに倒れ込み、仰向けになるとそのままマウントポジションになり顎に向かって何度をパンチを喰らわせる。

六発目くらいでやっとガードを入れた。

こいつは剣がねえと何もできないらしい。


「《ブラックマンバ》ッッ!!!」


片目を閉じ、鼻血まみれの苦悶の表情を浮かべながら右手を開いて俺に向けたその時。

肩のあたりが光り、何かがイェランの腕を高速で這いそのまま一直線に突き抜ける。


畜生、剣だけの野郎だとたかを括ってたら魔術も使えるときた!!


俺は間一髪でそれを避けることができた。

あいつが飛ばしたものの正体は蛇だ。蛇を俺に高速で飛ばしてきたわけだ。

何はともあれ、避けることができたのであとはこのままこの調子で殴り続けるのみだ。


「なっ……」

(消費魔力が!!)


一発。


「ぶべっ!!!」


二発。


「ぼぐっ!!!」


三発…!


「げぁっ…も、もうやめ」


四発!!


「ぐあぁっ!!!!!」


「…」

(毒蛇にしたのがダメだったか…消費魔力が跳ね上がった!)


鼻血塗れの虚ろな顔でこちらを睨みつける。死を覚悟したかのような顔だ。


「殺ずな"ら"早ぐじろ…」


その無様な面を見た俺は気が変わった。

今のうちにたっぷりその面を拝んでやるよ。また傲慢な態度を示し始めたら、何度でも笑ってやるよ。


「今のことを公言するな。他言無用だ。わかったな」


俺はそう言い放ち、ミケにイェランを縛らせる。


「誰もこの部屋に入れるなよ、ミケ」


俺は一番船の地下に戻り、あの女の元に行く。




「おい」

「お前魔術の腕に覚えがあるな」


「……何よ」



女を縛りつけたまま、また二番船の地下へと戻る。

道中、海兵どもが俺を見て指を差し中また笑ってやがった。

戦場に出たらついでにお前等も斬り殺してやるからな…



「《遠距離爆破魔法I》…」


拘束を解かれた女が鼻血まみれのイェランの前で詠唱し始めた。


漁村の小さな本屋で立ち読みした時に、簡単な魔法についてはなんとなく知っていた。

この魔法は同時に3つの箇所に遠隔魔法爆弾を設置し、好きなタイミングで爆破するという物騒な魔術。

今回はそれを首に取り付けさせ、さらに声帯の震えを感知し特定の言葉を喋った瞬間作動する仕組みも組み込んでもらった。


「あんた、魔法に意外と詳しいのね」


「無駄口叩いてねえで魔力を安定させろ」


「はいはい…」


昨夜こいつが秘所に隠し持ってたエリクサーの玉は回収した。

もし魔力が足りなかったら使わせてやろうと思ってたが、その心配はなさそうだ。


「できた…」


「なぁ、こいつどうすんだよ?」


ミケが怯えながら言う。


「このまま放つ」

「喋ったら死ぬだけだしな」


「わ、わかった」


「お、おい!!何言ったら死ぬのか教えてくれないのか!!」

「仁義はずれめ!!外道!!」


なんだコイツ…


「待ってくれブライツ!!」

「さっきこいつと話して…ちょっと仲良くなったんだ」


は?


はぁ?


「ミ"ケ…!!」


俺があの女を連れに往復してるうちに打ち解けたっていうのか?

昨日会った時もそうだったが、見た感じこのイェランって野郎はプライドもデカそうだし捻くれてそうだが…

いや、捻くれているのは俺も同じかもしれない。

純粋な奴なのか…??いやいや、でも流石にならずものの船長ともあろうものがそんな…

しかしミケも肩書きだけだと今二番船船長ときた…


「お、おい、お前俺との友情とコイツとの友情どっちが大切なんだ!?」

「俺ら何年もの仲だろ!?薄情な真似やめてくれ!」


自分でも何言ってるのかよくわからない。


「い、いやでもコイツ意外と話し合うというか…」


「そもそも逃げ出したいってお前が言い出したのが悪いんだろ!」

「…なんの話してたんだよ」


「牛のグゾど豚のクゾ…ごふっ、どっぢが肥料効率がい“いがにづいてだ…!!」


「お前に聞いてねえよ!!」

「しかもなんだその話題…!!」


ミケ…嘘だよな…


「なぁ、せめて何言ったら死ぬかだけでも教えてやってくれ!頼む!!この通りだ!!」


「ちっ…俺の口から言うまでもねえ、女!お前が言え!」


「なっ…私はアンタの命令に従ったのよ?!それで何その態度!大体あんた私とそんな歳離れてないくせにいきがんないでよ!」


くそっ、どいつもこいつもつけあがりやがって…!


「俺ばもばや死んだも同然だ!!」

「俺は屈ざない…アルテナの誇りにかけて!!!!」


「おい、起爆の準備をしろ」


俺は女に合図を出す。


「ああああああああ!!!!!待て待て待て!!」

「わかった!!殺さないで!!!俺まだ若いんだ!!」

「やりたいことまだあんだよ殺さんでくれよぉおぉ…」


なんなんだコイツ…

情けねえ…!!ここまで情けなくなれるのか!!!


「ふっ…」


は?この女今笑った?笑ったのか?!

なんなんだコイツら…!!!



「飯だ、たんまり食え」


「あぁ…」


ドールマンが乾いたパンと魚の串焼きを手渡ししてくれた。

ここの名物なのか?魚の串焼きは。


皆が酒を飲んで暴れている。それなのに、ブルースという男はどこにも見当たらない。

酒好きそうな顔だ。葉巻も好きそうだ。もしかしたら危ない薬を調合して毎晩一人でハイになってるのかもしれない。


女が気まずそうにこちらに歩み寄ってくる。

気まずいのは当たり前だわな。てかなんで俺のとこに来るんだ?


…この女、今日も俺を殺しにくるのかな?

俺は熟睡するタイプだから、ドールマンが助けてくれないなら明日俺は(むご)い姿で死んでるだろうな。


そう考えているうちに彼女は図々しくも俺の隣に座り込みやがった。


「酷いクマ…」


「…」


「ちゃんと寝てるの?」


何度も俺を襲った女が俺を心配するのか。

確かに、熟睡してるといっても…毎日ずっと夢ばかり見てる。

嫌な夢だけだ。毎日酷い目覚めだよ


「ねぇ」


「あの…船長のイェランって人、何も喋れてないわね」


なんで普通に話しかけてくるんだよ。お前は俺のことを殺したいんだろ…

加えてお前のことを俺の女にするだなんてほざいたんだぞ。


ミケは誰とでも話せる。すぐ人と打ち解ける。周りを和ませることができる。

俺はあいつの親友なのか?親友だったのか?

俺は…結局一人だ


「聞いてんの?」


「ッるせェ!!」


やっちまった。


女は当たり前だがドン引いてる。

…こんな綺麗な顔してたっけ。ずっと眉間に皺を寄せた顔しか見てねえな。


「…すまん」


「お前、本当に俺のこと殺そうとしたのか?」



「…」



おいおい、今度はそっちが黙るのか?黙らないでくれよ。

俺がやっとこさ真剣に向き合ってるんだから。



「クルおじさんから色々聞いてるから…」

「昨日の私、ちょっとおかしかったみたい」



「ちょっとというか!!凄くおかしかったよね…、」



少し間を置いて言葉を選び直したみたいだ。

そうか、彼女は一方的に俺のことを知ってるんだな。



「あぁ…、」

「アンタも見たろ」


「あの人死んじまったんだ」



剣を見て、あの人を思い出す。

光と影は紙一重と、クルおじさんはいつも口癖のように言っていた。


「光と影…」



「え?」


しまった。


「ぷっ…何言い出すかと思ったら、何それ!!」


顔が熱くなるのがわかる。今俺恥ずかしいこと言ったか?本当にぼーっとする癖は治さねえと…

この女は無理やり空元気を振り撒いているように見える。父親を海兵に殺されたんだっけか。



「あんた、失礼だけど名前なんだっけ」



「ミリナ。」



「昨日は乱暴してすまなかったな」

「それに、その…俺の女にするみてえなよ」



「謝るのは…こっちの方でしょ」

「あと、ありがとう。私のこと助けるためにあんなこと言ったんだよね?」



助けるというか、俺の面子を保つのが九割だったけどな。


「私、昨日の夜本当にどうかしちゃってたみたい…ごめんなさい」



…。

本当に…昨日の夜ずっと俺のことを殺そうとしてたのか?

随分俺は不貞腐れてやがる。どっちつかずな奴だな、俺は。


やけに穏やかだ…まるで、嵐の前の静けさのように。

ふと、彼女が何かに気づいた。



「あれ?イェランって人の近くに…ミケさんがいないみたい」



……!!!!!

俺は船の舷側に向かって駆け、周りを見渡す。

海には何もない。いや、空の小舟が…一つ。


「おい、どういうことだ!?!お前何か知ってるか!!」


近くにいたイェランを揺さぶり、問い詰める。


「、、、」


唖然としていた。

俺は視線を海に戻し、必死にミケの姿を探し始める。


「お、おい外道」


「外道じゃねえ」


「ブライム」


「ブライツだ!!」


「俺は止めたぞ…止めたんだ」


やはり。あのバカ、一人でここを抜け出そうとしやがった!!

いつも大層なことをする時は俺がついていってた…

小舟がポツリと一つだけ浮いている。俺は最悪の状況を想定してしまった。

ミケが…脱走がバレて捕まったのか?



しばらくして、轟音が鳴り響く。ハンドキャノンが空に向かって放たれた。

女の凛々しい顔した海兵が、全裸のミケを捕まえていた。

畜生…!!易々ととっちめられてんじゃねえよ!!猫なんだから素早く…

そうだ、あいつは泳げねえ…ましてや隠密行動なんてもってのほかだ

畜生!!!!


まもなくその女海兵は騒ぎを聞きつけたブルースに取り次ぎ、ミケは縛られて一番船のど真ん中に正座させられた。


ミケの周りだけが、松明の明かりで爛々と輝いてる。

まるで…記憶の片鱗に残っている、劇団の公演の際に主人公へ当てられたスポットライトのようだった。

処刑の準備は淡々と始まった。


「…ドールマン、脱走者は即刻処刑だったな」


俯いたブルースが

「あぁ、確かに軍規にはそう記されてるぜ」


ブルースがミケに近づく。

ここから先の会話は小声のやり取りで、地獄耳の俺でも聞くことはできなかった。


「俺ァ悲しいぜ…」

「誓いまで立てさせて、その結果がコレとはな」


「獣人ミケよ」


背中だけでわかる、失望の感情。

やはり二人には何か関係があるのか?


クソ、クソクソクソ!!!!!!!!


ミリナは虚らな目でそれを眺めていた。

昨日と似た目だ。

ミケは…俺を見てた。また見るのか?俺をまた見るのか?!

昨日もその目で俺を見てたよな!!絶望したような目つきで俺を!!

あぁ…ぁああぁあっ!!!!





おじさん、俺どうすればいい?





『重心は常に腰を意識しろ。』

『相手の剣先と目をよく見てみろ。』


『戦いが長引くなら、間合いを自分の獲物に合わせて徐々に調節してみなさい。』

『気を強く持ち、相手を自分のペースに巻き込むんだ。』


あ…




俺は既に駆け出していた。

剣を鞘から引き抜き、木材の床を踏み締めてデッキから飛び降りる。


「ブライム!?!」


ドールマンが応戦する。

剣と剣が激しくぶつかり合い、甲高い音が周囲に響く。


その時、俺は何かに気づいた。

身体中からとんでもねえエネルギーが湧き出てきやがる…!!


「なっ?!」

(コイツ、聖魔術を纏ってやがる!!)


「覚醒か!!!!」


隙を見つけた。ここだ!!!!


剣ごと相手を吹き飛ばした。


「あァっ?!!」


お次はテイクソンがお出ましだ。


「チャンバラかイ!!?」


流石にこの巨大、素通りはできないな。

思いっきり振りかぶったその両刃斧を間一髪ジャンプで避ける。

空を裂き、とんでもねえ衝撃波が発生した。


あんなもんまともに喰らっちまったら討伐難度上級の魔物もイチコロだぜ?!


「そんなに友達を助けたいカ!!」


「うるせえな!!!!!」

「デカブツ!!」


肩から腰にかけて巻かれた装備。へその辺りに剣を叩き込んだ。


「オふっ?!」


間髪入れず二発目を叩き込む。



「おいおい…!!」


「ブランツォ様でもこんな…!!」

「あの新参者のガキ何者だ?!」



たまらなくなったその巨体が倒れ込む。

テイクソンの体を足場にして跳躍し、ブルースに襲いかかった!!


今度こそ…今度こそ大切なものを守る!!


「うおらあああああああああああああああ!!!!」


「ヒヒハッ!!!」


ブルースが興奮して笑う!!

互いの顔が近づいたその時、両者の間に槍が飛んできた!!



「?!!」


その男には見覚えがあった。

華奢な体つき、近衛の服、規律正しい動き、何よりその手。

義手になっていた。


「クアトラか」


ブルースはつまらなさそうにバックステップで一歩引いた。


先にこの護衛野郎をぶち殺してやらねえと…!!


槍の刃先が閃光のように次々飛んでくる。


こんな強えのか…?!

クルおじさんに呆気なく手首を飛ばされた男が…!


早い!突きが首筋に…やられる!!


「?!」


突如現れたサーベルが槍の軌道を変えた。


「イェラン!?」


ぶん殴りまくった俺を助けに来たのか?!満身創痍で?!


「生きでだら借しだ!!」


畜生、だが今が好機(チャンス)!!

ブルース!!!!


「《瞬間煉獄(フォマルハウト)》」


その時、ブルースの手の内に光の玉が現れた。

その瞬間、熱風が船全体を…いや、五つの船全てを包み込む。


「ガっ」


モロに喰らっちまった。

まずい…このまま浴び続けたら意識が遠の…………





「〜〜〜、」


「〜〜〜〜〜〜!!」



ハッ!!!


目が覚めた。ここは…地下牢?

そうだ、俺は…


「バカだな、お前ら」


「イェラン、お前もだぜ?」

「ブランツォの後ろ盾がねえってのにバカなことしやがって」


「当分は、出てこれないと思った方がいいネ」


「ったく、ブルースのやつも後先考えずに炎魔術使うんじゃねえよ!」



鉄格子越しに二人の男が何か喋ってる。

そうだ…ミケは?ミケはどうなった?

あの火の玉の中心部分にいて、まず五体満足はねえな…


俺ですら腹の傷が開いてやがる、サラシも焼き切れた


「あ、おい…!!」

「ミケは、ミケはどうなった!!」


「ミケは死んだ」


去っていく二人の代わりに隅で横になっていたイェランがそう呟いた。


「女海兵…メイルーだっけか?」

「クロスボウの矢を放って…それが頭部に」


あぁ…。


また俺は!!



「ああああああああああああああああ!!!!!!」


俺の咆哮が牢内に響き渡った。

俺は…クズだ。


今度は死に目にすら会えなかった!!!

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