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魔殺しは剣を継ぐ  作者: 芥川りゅうくん
ラビリンス攻略・フューリ島編
3/5

002 遥か昔の権力闘争

百六十年前、ヴァレシアの主要都市イリニで産まれた。

由緒ある血筋、恵まれた魔術の才、鋼の肉体、勇者に相応しい精神力。


これこそが、サンタ•モーリアを英雄たらしめた紛れもない要因である。



「モーリア様」


一面張りの硝子に朝の太陽の光が差し込み、バルコニーの植物に付く雨雫がキラキラと輝いていた。

部屋は多くの書物や巨大な地球儀、ヴァレシアの地図が散乱していたが見慣れていたのか、不思議と女は不快感を覚えなかった。


「ノックはいらぬ」


椅子にも座らずに、その青髪の男は鎧を着たまま地図を眺めて思考を巡らせていた。



「この雑貨部屋の中では我々は対等だ」

「そうだろう?」



「そう…ですわね」



「あと少しだ、あと少し武功を立てればお前と…」



「少し、お休みになられたらいかが?」

「…私みたいな奴隷あがりの女と結婚だなんて…あの方が許すはずないわ」



「滅多なことを申すでない」

「私は自分の意思でお前を買い、自由身分に解放したのだ。」



「私にも…高貴な王族の血が流れていたなら」



「血など問題ではない」



机の上の書物と向き合うのをやめ、突然振り向いて女の顎を持ち上げて無理やり目を合わせる。



「私はお前に惚れたのだ」

「私だけを見ていてくれ」



「…っ」



女は数秒、モーリアがその場から離れた後も目を見開いて視線を保ち、虚空を見つめていた。


「いつも!!」

「この部屋のあなたの残り香が…好きなの」


互いに背を向けて、女は口調を変えて呟いた。

少しの間頭を下げて黙り込んで、頭の位置を戻す。

その動作にはどこか哀愁が漂っていた。


「私もお前の匂いが好きだ」


そう言い残し、赤基調の、ヴァレシアの紋章が刻まれたマントをなびかせて扉を閉めた。

女は何事もなかったかのように箒で地面を掃き始めた。



「これより、第二次ヴァレシア秘匿軍議を開始する」

「魔物の数はおおよそ1300、他の部隊と続々合流しながら勢力を増し、バリウス川を占拠中だ」

「それに、討伐難度等級上位の魔物がチラホラいる」


「天気は?」


「快晴。昨夜までの嵐の関係上現在少々増水している」

「首尾は上々だ」


「ガハハハ!!!」

「血が騒ぐ!早く暴れさせてくれや!!!」


「やるしかないのですね…」


「俺ァもとより自分の命は厭わねェ、ヴァレシアに支えて命を捧げるのは男の本懐だ」


曲者揃いの現場に、毛皮付きの鎧を着た者が現れた。

狭い入り口を屈んでくぐり、薄暗い部屋の中に顔を覗かせる。


「クォグラツォア殿」


「サモナ様、如何なさった」


毛皮の男は全身が宝石の異形の男に近付き、耳打ちをした。


「わ………わたしの故郷が…?!」


誠実で武の精神を持つ戦士クォグラツォアはヴァレシアの直轄支配地域のダボン地区に位置する洞窟内で産まれた。

その洞窟は、ジュエルマンと呼ばれる強力な種族の縄張りであり蛮族の住む洞窟として忌み地とされていた。


ジュエルマンは宝石を主食とし、宝石を排泄する。種族としての最大の特徴は、衝撃を受けた部位が急速に盛り上がり、針を成す事である。

強力な攻撃を受けると、巨大な針が出現し返り討ちにする。

これこそがこの種族の真価であった。



「ダボンの民よ」


「我々の言葉がわかるのか」


断崖絶壁の洞窟に続く入り口の側にはジュエルマンの見張りが気絶して泡を吹いて倒れており、その付近には赤のマントを羽織った帝国騎士がいた。

鼻が高く、耳は尖っている。エルフの一族にも見える。

茶色の髪を後ろで結び、耳にアクセサリーを付けたまだ若い騎士。


「貴様、魔物討伐隊だな」

「また懲りずに"魔物狩り"を大義名分にして我々を蹂躙しようと…」


「迫害しか脳のない連中が、遂に本格的に実力行使に来たか」


帝国騎士は魔導書を取り出して周囲に円形の巨大な魔術空間を展開する。

その効果範囲は窟全域を超えていた。


「あなたたちは魔物じゃない」


部族の者たちは、自身の固く冷たい肌が柔らかくなり、暖かさを帯びていることに気づいた。


「はっ…我々を人間にして、喜ぶと思ったのか?!」


「むしろ我らの部族としてのプライドをコケにする行為としか思えないな」


気性の荒い若兵士は怒りを露わにする。

その中で、一人の青年は帝国騎士に背を向けて一点のみを見つめていた。


青年はそれが幼馴染だとすぐにわかった。いつもの花冠を被っていたからだ。


全身宝石で、輪郭すらあやふやだった彼女の顔は澄んだように白く瞳には自身の顔が朧げに反射していた。


「シュワウル…」


「クォグラツォア、隠れておけ」

「この馬鹿な騎士に目にもの見せてやる」


大人たちが続々集まってきた。


「単独で来るとは馬鹿な人間だ」


ただならぬその場の雰囲気に気圧され、当時幼いクォグラツォアは咄嗟に三角錐の葦でできた粗悪な家に飛び込んだ。


飛び込んだ暗闇の先には、柔らかか暖かい感触があった。

触れ合ってもチクチクしない。幼馴染の、シュワウルの肌が。


「…」


「…」


2人の少年少女は体を寄せ合い、騒ぎが静まるのをただひたすら待ち続けていた。


おそるおそる、扉の布を退けて外を見ると洞窟は激闘の末に大きく形を変え、大人達は全員その場に倒れていた。

しかし、絶命によってではない。気絶と疲労によるものだった。



「《召喚魔法II》閉じよ」


「汚ねえぞ…ゴフッ、俺等を人間に堕として戦うなんてよ」


「近辺の魔物達は既にヴァレシア軍が掃討した」

「我々に協力してくれ」


「でもよ…土地の貸し付けを受けて搾取され続けた先人の歴史が俺達の心には眠ってるんだわ…!!」


地面に伏す戦士が立ち上がった。

人の姿から徐々に通常の形態に戻りつつある。


「ダボン地区はまるまる其方らの部族に治めてもらう」


「は?」


「その代わり、魔王討伐に協力してくれ」


「…ゴホン、申し遅れた」

「我が名はサムイ・ドカ・サモナ」


「帝国騎士団団長サンタ•モーリアから命を受け、此の地へと参った」

「もう一度云う。あなたたちは魔物ではない」





「私は既にヴァレシアにこの体に秘めた力を捧げることを誓いました」

「故郷にどんな厄災が降りかかろうと…何も変わることはありません」


「無理は禁物ですぞ、クォグラツォア殿」


「サモナ様」

「あなたは私の…恩人であり、憧れであり、目標です」

「シュワウルは…私の許嫁で…彼女のお父上は今もあの場所に…!」


「…」

「宝石ってのは時間かけて徐々にできるものだ」


「!」


「お前は死に急ぐなよ、クォグラツォア」


突然口調を変えた彼の顔は丁度松明の明かりから逸れ、クォグラツォアの宝石の瞳ではよく表情が見えなかった。

宿の隅で、二人の影が交差した。



「いよいよ進軍とな」


大勢のヴァレシア軍兵士が川沿いを行軍する。


「ねぇ、あのデカブツ何?」


小汚い茶色のチュニックを着た少年が、馬に乗る隊長格の男にずかずかと物言いをする。


「亀男ラヴォス。南方の列島を連ねる…まさしく覇者だ。」

「この行軍では特別に我が隊に協力なさってくれるそうだ」


「ヘェ〜かっちょいい〜」


小馬鹿にした態度でそれを聞き流す。


「アイツさ、あの…甲羅?きったないねぇ」

「獣人の事情とか知らねえけど掃除しろよ!」


「獲物のハンマーも邪魔ったりゃありゃしないね。巻き込まれたらどうすんだ」


「お前、隊一番の年長者に何を…」


「でもさでもさ、隊の中じゃ俺が最強だろ?」

「さっきもさ、不自然に木に擬態してたデコウッドをいち早く見つけて焼却できたのは俺のおかげだろ?な?」


「…確かにお前のスキル《慧眼(けいがん)》は役に立つな」


「隊長〜そればっかじゃん!俺の剣技も見てよ!」

「いやー武者震いするぜ、何せ今度対戦する魔物の中には上位個体もいるんだろ?」


「どんだけ俺のナイフが通用するか見ものだね」


にやけ顔で逆手で持ったナイフの先端を舌で舐めて見せた。


「シュトラウス、お前は慢心がすぎるぞ」

(口ではこう言うが…俺はこいつとやりあって勝てるビジョンが見えない)


行軍する方向の真反対から伝令兵が一人駆けてくる。

顔には焦燥と疲労がよく現れ、眉間には深い皺が刻み込まれていた。


「申し上げます」

「先方のクォグラス隊120名が全滅、野営地を魔族に占領されました」

「現地を確認したホマール隊偵察団によると、今回敵側にはトロールの存在が確認されたとのこと…」


「トロール?あぁ、あのゴブリンのおつむ小さいバージョンか」

「討伐難度中級レベルだろ?クソ雑魚じゃん」


「…」


隊長格の男は馬に跨りながら、伝令の話を聞いて絶句していた。

男にはトラウマがあった。過去、ヴァレシア軍に従軍して大陸を北上し現地の村に駐在した時、彼は悪夢を見たのだ。

仲間たちがゴブリンよりも一回り大きい、白い毛並みの青色の肌を持つ暴徒に襲われ一夜にして壊滅したのだ。肉を剥ぎ、生首で原始的な遊びをし、女隊員や村人は陵辱される。

まさに悪夢。かろうじて体勢を立て直したと思えば、絶え間なく降り注ぐ豪雪の中に巨大な影を見た。


「…?どうしちまったんだ?」


「シュトラウス」

「今からお前に副隊長の座を授ける」


「は?何急に…気持ちわる、そんなことしても何も出ないわよー」

「てか早く戦わせ…」


「私は死ぬ」


「えぇ?隊長いかれちゃったの?普段からいたずらで魔法受けすぎてとうとう脳のどっかしらやられた?」


「無理だ…あんな蛮族どもを相手取るなんて」


兜越しに見える目は焦点が定まらず、鎧が震えて鈍い音が連続して鳴り始めた。



戦いは唐突に始まった。日が完全に沈みかけた時、青い体を持ったソレらは川から奇襲を仕掛けてきた。クォグラス隊に続いてマホール隊が蹂躙され、一人残らず魔物どもの皆殺しに遭った。そして、遂に後続のヤマール隊と巨躯の魔物たちの交戦が始まった。

しかし、展開は意外なことに呆気なくヤマール隊の勝利に終わった。トラウマを抱えながらも雪辱を晴らさんとするヤマールに続き、屈強な兵士たちがトロールたちを圧倒した。血の渇きを忘れた獣どもをラヴォスが薙ぎ倒し、森の中でゲリラ戦を展開しようとデコウッドの森に兵を誘い込んだ一部のゴブリン達はシュトラウスに殲滅された。まさに一方的。


「はぁ、はぁ、はぁ」


「ヤマール様、聞きしに勝る剣捌きでございました」

「討伐隊隊長は伊達ではありませぬな」


「お前ら…そうだ、皆の力があってこその勝利だ」

「今宵は無礼講としよう、ここに野営地を築き進軍の要とする」


彼らは次のフェーズに移行した。魔物の装備や食糧の奪取、貴重物の奪還だ。

兵士たちが血相を変えて魔物の死体を漁り始める。


「いいか、同じヒューマノイドで姿形はよく似ているがトロールってのはゴブリンに上手く飼われてるだけの猛獣だ」

「忌々しいゴブリンどもは我々と同等の知能を持つ。仲間と情報を交換し、後世に積み重ねる能力があるのだ」

「漁るならゴブリンの死体から漁れ。欲望も軒並み人間と同じ分野、同じ量だ。相応のもん隠し持ってるぜ」


「ギャハハ!!こいつゴブリンのくせに遺書持ってやがる」


「お前いつ魔物(ゾルガ)語なんて勉強したんだよ」


「インテリか??!この野郎」

「酒持って来い!!」


野蛮な兵士たちの残虐な声が夜の空にこだまする。

酒に溺れた(つわもの)どもがようやく寝静まった頃、亀の獣人である老兵ラヴォスは密かに一人の側近を連れて近くの神殿跡を訪れていた。


「おそらくここの地下に…」


「そうか、案内してくれて助かったわい」

「確か、ここの中に手配した…」


神殿跡は柱と一部の床部分しか残っておらず、ラヴォスは不自然に土が盛り上がっている場所を見つけては土を掃き隠れた地下通路を見つけ出した。


側近を隊に戻し、一人遺跡の中を進み続ける。

何者かが用意した蝋燭が壁の穴に配置されている、煉瓦でできた狭い廊下。

最奥に何かがある。




「起きよ」


『人あらざるものよ』

『如何した』


行き止まりに待ち構えていたのは、恐ろしい悪魔の顔面を模した謎の彫刻。

禍々しいオーラを放ち、周囲の空気を重くしている。

その威力は、南部前線で討伐難度最上級レベルのドラゴンを制圧したあの百戦錬磨のラヴォスですら冷や汗をかくほどだ。


「ワシに力をくれ!」


「老いぼれて、唯一の取り柄である武も衰えて毎日惨めな思いで無名の隊に属し闘う毎日に疲れたんじゃ…!」

「頼む、ワシに…あのモーリアすら凌駕する神の力を授けとくれ!」


『対価は』


「!!」


『相応の対価なしに力は与えられぬ』


待ってましたと言わんばかりに、小袋の中から何かを必死に取り出す。

その姿はまさに小物。


「これじゃ!!ワシの親族の目!」

「これがお望みなんじゃろ〜〜…、早くワシに力を…」


『その願い、承った』

『しばし待たれよ』


ラヴォスはほっとため息をついた。


『…神の御業をその眼に焼き付けるがいい』


その時、地が揺れた。地響きが鼓膜をつんざく。土埃が絶え間なくラヴォスに降り注ぐ。

地上では突然の地震に大騒ぎが起きていた。


「なんだ!!!」


「敵襲かァ〜?!ヒック」


皆が飛び起き、酔った状態で慌てふためく中ラヴォスの側近だけは何かを察したようにただ黙り込んでいた。



「おお…おおおおお!!」


薄暗い空が裂かれ、一筋の光が遺跡の中に注ぎ込まれる。


「ハハ…ハハハハハ…ハハハハハハハ!!!!!!」





ヴァレシア帝城のサヴァクスタンでは、皇族のいざこざが起きていた。

先代皇帝であるレオダス一世の死に伴い、三人の皇子が覇権を争っていた。

レオダスと皇后の間に生まれた第一皇子のアルバーン。弟である第二皇子ルシウス。

そして、側室ミシアとの子である第三皇子ルカウスだ。


容姿端麗、品行方正なアルバーンは既に公爵家の令嬢アリシアと結婚し二人の子を持っている。

長子相続に基づき、当たり前のようにアルバーンがヴァレシアの次期対応となるはずだった。


しかし、第三皇子ルカウスは若いながらも遠征先で討伐難度上級のドラゴン殺しを成し遂げ、その功績と豪快な性分を評価され軍から絶大な人気を得ていた。



一方、この苛烈な権力争いで名が挙がりづらい者がいた。

第二皇子のルシウスは、アルバーンに並び容姿端麗で勉学の才もありながら、生まれつき病弱で性格も卑屈あった。

どの席に座っても、隣にいる赤髪の兄ばかりが注目される。

バルコニーで民衆を見下ろす時、民の視線はいつもアルバーンを向いていた。

いつしか覇権争いから追い出されたルシウスは、城の地下で酒に溺れる日々を過ごしていた。




「…マービルか」


鉄の鎖が天井から無数に伸びるその部屋の中央のソファ。

そこに座る疲労困憊な皇子の顔が、鎖越しに少しだけ見える。

睨みつけるようにこちらを見つめるその眼の下にはドス黒いクマができていた。


「あぁなんと麗しきルシウス様、気に病むことは何一つありませぬ…」


白衣の男はルシウスに近づき、わざとらしく嘆く。


「嫌味はやめろ」


黒い髪をかきあげて無機質な照明を凝視する。


「ルシウス様、御薬はここに置いていきますので…」


男はそう言い残し、オレンジ色の木箱を床に置いて部屋を後にした。

男が去ってから少しばかり経ち、皇子は狂ったように発狂し木箱を破壊する。


「う"ぅあっ!!!ぁあっ!!!!」

「がぁ……ぁああぁあっ!!!!!!!」


「はぁ、はぁ、はぁ」


その場に崩れ落ち、額を地面に押し付けて涙を流す。しかしその涙は悲しみの涙ではなく、明確な怒りを含んだ涙であった。


「ふぅぅううううっ!!!!!」





「ルシウスはまだ地下に閉じこもっているのか」

「…ふん、哀れだな…」


後ろに回していた右手をそっと差し出して、曼荼羅模様の机の上の葡萄を一つ頬張り、アルバーンはアリシアとソファに深々と座り込む。


「しかし、流石の柔らかさだな」


「イリニに生息する、水鳥の羽毛を使っておりますわ」


「ふふ、どうりで」


白のタキシードに葡萄の汁が

「ああ、私としたことが」


「すぐ新しいものを取り寄せますよ、()()()()様…」


黒いドレスに身を包んだアリシアは、アルバーンの体に寄りかかる。


「おいおい、よしてくれ」


アルバーンは苦笑した。

それから、少し表情を変えてアリシアから視線を背ける。


「…遺書さえ残っていればこんなことにはならなかった」

「父上が遊びで抱いた女と作った子供に、王になる資格があるはずもない」


「えぇ」


「それにあやつは風の噂だが男色を好むという」

「既に軍部の人間と関係を持っているらしい」

「あいつは確実に後継者に恵まれない」


負け惜しみのように愚痴をぶつける。


「何も悩むことないでしょう?」


「これまでもうまくいったんだから、今回もきっと大丈夫…ねぇ、そうでしょう?」


「…あぁ、そうだな」


アリシアの額にキスをして、再び葡萄に手をつけた。



その頃、ヴァレシアの兵舎の中では奇妙な噂が流行っていた。

南国の覇者、ラヴォスが若返ったというのだ。

その姿を一目見ようと、帰還するヤマール隊の行列の周りに続々と兵が集まり始める。


「おぉ……!!」


「真であったか!!ラヴォス殿!!」


「見違えましたな」


並の将軍格を凌駕する身長、肉体、魔力。

老体だった頃の影は残っていない。老人のラヴォスは姿を消し、全盛期の武神がそこにいた。

携えている身の丈に合っていなかったハンマーも、心なしかかつての威厳を取り戻したように見える。


「超上級の魔法使いでも、こんな所業は難しいでしょう」

「完璧な出来だ…」


その騒ぎの中で、ただ一人疑いの目を向ける者がいた。


「…」


「如何なさったかな、サモナ殿」


その者の隣に現れたのは、弓の腕で右に出るものはいないと言われる智将ジューク。


「ジュークよ」

「あれが本当に魔術の施しによるものだと思うか」


「…」


「奴は禁足地に棲む悪魔に手を出した」

「初代魔王…パ•ズズの最大の負の遺産」


「呪物、か」


「おそらくな」

「確信はないが…奴の野心はとどまることを知らなかった」

「次の戦はもしかしたら奴の()()を止める戦いになるかも知れん」


「なっ…」


「私の知らぬところに凄腕の魔術師がいるだけ…かもな」


「…」


「ひとまず、私はクォグラツォア殿の様子を見てくるとするよ」


恐ろしいことになった、そんな顔でジュークはラヴォスを見つめていた。

そして、サヴァクスタンには着実に魔の手が伸びている。

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