表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翔の星  作者: 嵯峨野遼
第2章 天翔専門学校1年生
52/140

52:文化祭の配役

 中間試験が終わって一週間。

 校舎に流れる空気は、再び平常に戻ったように見えた。けれど、それは表面だけのこと。

 生徒たちの胸の奥には、もう一つの戦いの火種が、静かに燻っていた。


 文化祭。

 一年生だけで上演される最初の大舞台。


 そして、この日。

 その配役が発表された。

 昼休み直前、教務室前の掲示板に、白い紙が貼り出された。


「文化祭演目『ロミオとジュリエット』 配役発表」


 一斉に走り寄る生徒たち。掲示板を囲むようにして、食い入るようにその文字を読む。その中に、鷹宮あかりと綾小路澪の姿もあった。

 誰かが思わず声を上げる。


 「ロミオ、エリカだって!」


 「やっぱりエリカさんかあ……!」


 掲示板の紙には、こう記されていた。



ロミオ:紫堂エリカ

ジュリエット:一ノ瀬ゆら

マキューシオ(ロミオの親友):佐久間凪

ティボルト(キャピュレット夫人の甥):志貴なつき

パリス伯爵:橘颯真

ロザライン:結城さら

衛兵1:綾小路澪

衛兵2:鷹宮あかり



 それを見た瞬間、あかりの鼓動が一瞬止まった。


 (衛兵……?)


 横に立つ澪も、無言で掲示板を見つめていた。

 二人とも、台詞の少ない端役だった。


 「……澪、あたし……」


 あかりが言葉を紡ごうとするが、澪は小さく微笑んだ。


「 ……わたし、衛兵なんだね」


 その言葉に込められた静かな落胆が、あかりの胸に刺さる。

 あかりは成績を上げてきた。努力もした。けれど、現実は、非情だった。


 ロミオは当然のように紫堂エリカ。

 ジュリエットは、その優雅な声と佇まいを持つ一ノ瀬ゆら。

 他の主要キャストも、ほとんどが成績上位者たちで固められていた。


 「配役って……やっぱり、成績順なんだね……」


 あかりの声が震えていた。わかっていたことだった。でも、希望の欠片がなかったわけじゃない。

 あの恋愛の演技で、何かが変わると思っていた。声楽も、日舞も、少しずつ自信をつけていた。


 でも。


 でも。


「衛兵2か……」


 白紙に記された小さな名前と、小さな配役が、まるで自分の居場所そのもののように思えた。


**


 背後では、エリカが掲示を見ていた。


 「ロミオか……」


 つぶやきながらも、彼女の顔に浮かぶのは、ただ冷静な表情だった。トップを取って当然、そんな雰囲気。けれど、ふと澪を視界に捉えると、ほんの一瞬だけその視線が揺れた。

 あかりと澪――この二人の名前が、端役にある。

 

(……どう思ってるの?)


 エリカは自分でもわからない感情を、胸の奥に閉じ込めた。


**


 「……大丈夫、あかり」


 澪が、小さな声で言った。

 けれど、その声には震えがあった。


 「役が小さいからって、舞台で目立てないわけじゃない。私たちにできること、きっとあるよ」


 あかりは、うん、と小さくうなずいた。

 けれど、目の奥が熱くなるのを止められなかった。


 (……くやしい)


 涙はこぼれない。けれど、心の奥では確かに、何かが震えていた。


 「……あたしたちで、あたしたちなりの舞台を作ろう」


 その声に、澪は目を細めた。


 「……うん」


 小さな配役、小さな灯火。けれど、そこから始まる物語があると、信じたかった。

 掲示板の前。

 誰も気づかない片隅で、あかりの拳が静かに震えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ